浜松医科大学 整形外科大村 威夫 この度,日本手外科学会の理事である平田 仁先生より末梢神経の特集号の編集という大役を仰せつかりました。 私が卒後3年,今でいう専攻医として浜松医科大学付属病院へ戻った際,恩師である長野 昭名誉教授が赴任され,長野先生が専門とされた腕神経叢損傷や砂時計様くびれによる前骨間神経麻痺の治療を間近で拝見させていただき,末梢神経の魅力に取りつかれました。長野先生より学ばせていただいたことは末梢神経の治療内容のみならず,患者を診ること,そして身体所見より診断に至る姿勢です。「患者を診なさい。答えはすべて患者が持ってます」や「手術を行うからには保存療法より優れているという根拠を示しなさい。そうでなければ外科医としてメスをもつ資格はありません」は長野先生の口癖でした。 末梢神経障害の治療を行うにあたり最大の魅力は,中枢神経とは異なり末梢神経の障害された軸索が再生可能であるということです。しかし,その軸索再生の速度は遅く,末梢の支持細胞ならびに支配筋は経時的に変性に陥り,治療にもタイムリミットが存在します。たとえどんなに素晴らしい治療を行おうと時期を逸すれば全く回復を得ることができないのです。そのため,末梢神経障害の治療には迅速かつ正確な診断力に加え,適切なタイミングを逃さない決断力も要求されてきます。 もう一つの魅力として,他の整形外科疾患と違い,画像診断があくまでも補助診断であり,理学所見が診断のほぼすべてを占めるということです。近年診断を検査に頼り,患者を診る能力が低下する中,末梢神経の診察では患者を診ずして診断を行うことは不可能です。鑑別には脊髄病変のみならず,ときには神経内科疾患を考慮する必要があることも大変興味深い点です。 これら末梢神経障害治療の魅力を踏まえまして,今回の編集にあたりまずは末梢神経再生の基礎で末梢神経再生のメカニズム,末梢神経再生のポイント,次に診察の要点,鑑別診断,診断のgolden standardとなる電気生理学的検査,そして各論,最後に最近のトピックスを末梢神経の分野を代表する先生方に執筆いただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。 この特集号が末梢神経障害の治療にあたる先生方の一助となり,また一人でも多くの方に興味をもっていただけるきっかけとなりましたら幸いです。2022年4月編集にあたって
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