能となる。 これらの国内企業による手術支援ロボットの開発の明るい話題の一方で,本邦での末梢神経外科領域でのロボティックマイクロサージャリー実現に向けては,依然としていくつかのハードルがある。 まずは,ロボティックマイクロサージャリーに特化した手術用ロボットの開発であり,これまでの内視鏡下マイクロ手術を目的としたものではなく,熟練したマイクロサージャンの技術に近い顕微鏡手術の精度を獲得できるロボットの開発が必要である。 また,開発に際して再度確認すべき重要項目として,精度の高い顕微鏡手術を行うためには,ハプティックフィードバックが顕微鏡手術時に必要かどうかを再検証する必要がある。熟練したマイクロサージャンは,ハプティックフィードバックがなくとも,視覚で対象臓器を把持する際の強度を感じられるといわれているためである。 さらには,従来の顕微鏡手術のときと同じような姿勢でロボティックマイクロサージャリーができる仕様にすることも,熟練したマイクロサージャンが手術用ロボットの有用性を感じるのに不可欠な要素と考えている。これらのロボティックマイクロサージャリーに特化した手術用ロボットの開発のために必要なデータの取得や解析は,医工連携プロジェクトとして国内数施設で始動している16)17)。 また,別の大きな課題として,ロボティックマイクロサージャリー技術習得のためのトレーニング環境の整備も重要となる。本邦では,顕微鏡下手術の技術習得のためのトレーニングは,手術用顕微鏡や卓上の実体顕微鏡と微小外科手術セットがあれば,多くの施設で研修可能である。 一方で,ロボティックマイクロサージャリー技術習得のためのトレーニング環境は,本邦では皆無であり,ロボティックマイクロサージャリーのすそ野が広がらない一因となっている。筆者がフランス留学時代に所属していたストラスブール大学・手外科センターでは,研修医達が,マイクロサージャリーの資格を取得するためのトレーニングコースの中に,ロボティックマイクロサージャリー技術習得のためのプログラムが組み込まれており,世界各国からロボティックマイクロサージャリー技術の修得を希望する外科医のためにトレーニングコースが,年に2回開催されており,参加費用は6,000€(日本円で76万円)と高額ではあるが,トレーニングのための環境は整っている。 筆者は,フランスでこれらのトレーニングコースにインストラクターとして参加し指導してきた経験を活かして,本邦でのトレーニング環境整備の問題を解決するべく,2018年から所属施設でロボティックマイクロサージャリーのトレーニングコースを開催している(図4)。既に,学内外30名の外科医が参加し,ロボティックマイクロサージャリーの技術習得に向けて研修を行い,その魅力を感じている18)。 また,本コースで得られたデータをもとに,ロボット手術を行う術者の,専門分野や年齢による技術修得度の違いに関して検討を行った。その結果,da Vinciシミュレーターを用いたトレーニングでは,研修医や専攻生といった若手医師やマイクロサージャリー経験者が,他の専門分野よりも早期にエキスパートレベル(達成度90%以上)へ到達することが明らかとなり,関連学会での報告や学術論文を作成している15)18)。今後は,さらに実践的なトレーニングとして,大型動物やキャダバーを用いた前臨床トレーニングができるように,関連施設と交渉を行っている。 最後にロボティックマイクロサージャリーの適応疾患の選定に関してだが,末梢神経外科手術に対して,国からの適応疾患としての承認が得られるためには,1施設で年間50~60症例に対して手術用ロボットを使用することが必要といわれている。これだけの症例数を,ロボット支援下で行うとなると,欧米で行われている内視鏡下マイクロサージャリーを目的とした,腕神経叢損傷を中心とした上肢末梢神経外科疾患に対して行うだけでは,目標症例数に到達することは難しい。腕神経叢損傷に対する神経交差縫合術が,年間60症例以上行われる施設など本邦には存在しない。 また,広背筋皮弁などの組織移植も年間に60症例以上行われる施設は国内でも数施設のみとなVol.65No.52022711
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