図7前腕尺骨神経断裂新鮮例A 橈側遠位から尺側近位への斜め断裂。B 断端新鮮化は行わず,神経上膜縫合を完成させた。AB 1) 土井一輝:神経縫合術epineural sutureとfunicular suture.手術43:1217―1224,1989 2) Birch R et al:Repair of median and ulnar nerves;primary suture is best. J Bone Joint Surg 73-B:154―157, 1991 3) Bolesta MJ et al:Immediate and delayed neu-rorrhaphy in a rabbit model;a functional, histo-logic, and biochemical comparison. J Hand Surg 13-A:352―357, 1988よう心がける。この際,神経上膜上の血管があれば,縫合糸刺入部位の目印となる。鋭的な斜め断裂であれば,回旋転位を生じることなく切断面を合わせやすいので,無理に新鮮化を行うことなく,そのまま縫合すべきである(図7)。縫合糸は9⊖0か10⊖0のナイロン糸を用いるが,最初に神経断端同士を引き寄せるためのstay sutureでは8⊖0や7⊖0といった太い糸を用いてもよい。 指神経などの細い神経では10⊖0を用いる。針は丸針でもよいが,神経上膜は針刺入時の抵抗が思いのほか大きいので,筆者は角針を用いている。まず,神経縫合部の両端にstay sutureを置き(図6 C),縫合糸はやや長めに残しておく。Stay sutureの際に,糸を結ぶ張力だけで神経の断端同士を引き寄せるのは困難な場合がある。その際は,助手にマイクロ鑷子で神経断端を引き寄せた状態を保持させて縫合糸を結ぶ。 表面の神経上膜縫合(図6 D)を行った後,先のstay sutureの糸を用いて神経を反転させ,裏面の神経上膜を縫合する(図6 E・F)。神経断端を鋭的に新鮮化しても,縫合時に神経線維束がはみ出してくる場合がある。その際は無理に押し込んだりせず,はみ出す分を切除する。線維束のはみ出しやbucklingは回復不良の原因となる。また,線維束断端が過度に内側に引き込んだ状態で上膜縫合を行うとgapとなり,回復不良となりうるので,過度な切除は禁物である。縫合糸のインターバルは細かすぎる必要はないが,間隙から神経線維束がはみ出さない程度に密に縫合しなければならない。 Ⅳ. 後 療 法 神経縫合後は神経に緊張がかからない肢位で,隣接関節を2~3週間程度シーネ固定する。神経の緊張がやや強い場合は4週程度固定してもよい。指神経縫合の場合は術後1週間程度の外固定の後,比較的早期に可動域訓練を行うが,関節の過伸展を防止するextension block splintを用いて訓練を進める。 神経縫合部から支配筋までの距離にもよるが,通常6カ月頃までに筋収縮がみられ,徐々に筋力が回復する。術後1~2年経過しても筋力回復が不十分である場合は腱移行術などによる機能再建術を考慮する。文献Vol.65No.52022547
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