市原 理司*1) 石島 旨章*2) ロボット手術は,これまで内視鏡下手術を中心に盛んに行われてきた。欧米では,末梢神経外科領域でもロボティックマイクロサージャリーの有効性が多く報告されているが,内視鏡下で行うマイクロサージャリーの有効性を報告しているのみで,微小血管吻合,神経縫合,リンパ管吻合などの,真の意味での繊細なマイクロサージャリーでの有効性は示されていない。背景として,現存する手術用ロボットが腹腔鏡などの内視鏡手術用に開発されたため,微細なマイクロサージャンの手の動きを再現できていないこと,マイクロサージャリーの際に必要と考えられているハプティックフィードバック(標的臓器の触覚)が手術用ロボットでは得られないこと,従来のマイクロサージャリーと異なる姿勢で手術を行わざるをえないことなどが考えられる。今後,ロボット手術が本邦の末梢神経外科領域で導入されるために,われわれは何をすべきかを再検証するときがきた。 末梢神経外科領域における大きな技術の進歩を3つ挙げるならば,① 人工神経の開発,② スーパーマイクロサージャリー技術の獲得,そして ③ ロボティックマイクロサージャリーの導入である。本稿では,ロボティックマイクロサージャリーに関して,末梢神経外科手術に対してこれまで行われてきた前臨床研究から臨床応用実現までの変遷,現状と問題点,そして未来の展望を述べる。 Ⅰ. ロボティックマイクロサージャ 2010年頃からda Vinciを用いたロボット支援下顕微鏡手術(ロボティックマイクロサージャリー)が,欧米の末梢神経外科領域に導入された。筆者は2013年から2015年までフランス・ストラスブール大学・手外科センターへの留学期間に,その黎明期を見聞しながら過ごす機会を得た(図1)。そこでは,末梢神経外科領域への手術用ロボット導入を目指して,適応疾患選定のための動物実験やキャダバーでの検証が日々繰り返されていた。ここでは,まず現在の欧米における臨床応用実現までの変遷を時系列で簡潔に記載する。 筆者の所属していたストラスブール大学・手外科センターでは,2008年より臨床応用に向けた取り組みが開始された。まずは,前臨床段階として適応疾患を選定するために,動物実験や,キャダバーでの検証が数多く行われた。Nectouxら1)は,大型動物である豚やキャダバーの正中神経を用いて行った神経周膜縫合や,人工神経による架橋縫整・災外65:707 713,2022707 Robotic microsurgery, Endoscopic microsurgery, Haptic feedback*1) Satoshi ICHIHARA,順天堂大学医学部附属浦安病院,整形外科・手外科センター*2) Muneaki ISHIJIMA,順天堂大学医学部,整形外科学講座Current use of robotics in peripheral nerve surgery and its future prospectKordseyW利益相反 なし要旨ⅣⅩは じ め にリーの変遷最近の話題末梢神経外科領域におけるロボット手術の 現状と今後の展望30
元のページ ../index.html#8