3髄腔の洗浄・乾燥 整形・災害外科 ― 630 ―おおむね除去すると,ステムを適切なアライメントで挿入できることが多い。各々の機種のトライアルラスプもしくはトライアルステムを使用し試験整復を行うことで,脚長や各肢位での軟部組織の緊張の程度を確認する。試験整復により実際に使用するステムを決定するが,必ずしもラスプとステムの大きさを同じサイズにする必要はなく,アライメントを調整する場合は1つ小さいサイズを選択し,挿入の際に調整することもある。2髄腔プラグの作成・挿入 骨セメント挿入時に血圧低下などの合併症が懸念される。この原因は主として骨セメント圧入による骨髄脂肪からくる脂肪塞栓であり,脂肪を血中に移行させないようにするためには,ステムが入る位置までの閉鎖腔の形成が重要であり,プラグの使用は必須である。髄腔プラグは市販されてはいるが,髄腔形状に不適切なサイズを選択してしまうと,骨セメントのpressurizationの圧に耐えられず遠位に移動することがある。これは脂肪塞栓の原因となることがあり,選択には注意を要する。 われわれは骨栓プラグを採用しており,これは大腿骨髄腔形状が拡大した高齢者にも特に問題なく使用することができる。患者本人の大腿骨頭を用いて約1 cm弱のchip boneを作成し,大きめのものから数個程度大腿骨髄腔へ挿入,平らな棒で叩くことで固定されていく。ステム遠位端ちょうどの深さになるようトライアルステムを挿入することで深度を確認し,良好な位置となれば最後に先端が丸い棒で叩くと,強固な母床が完成する14)。このことで,どのような形状の髄腔においても閉鎖空間を作成するようにしているが,峡部を越えるようなロングステムを使用する際は注意が必要である。 髄腔プラグの作成後,骨セメントの混合を開始する。骨セメント注入までには時間を要するため,それまで髄腔のパルス洗浄とその後にガーゼパッキングを行う(図2A)。これらは,髄腔内の骨片,血液,脂肪などをできるだけ取り除くことが目的である。髄腔内を十分に洗浄した後,ガーゼ挿入棒を用いてガーゼを髄腔の奥までしっかりと挿入する。その作業をガーゼに付着する血液が極力なくなるまで繰り返す。最後は遠位にガーゼ1枚と,近位に1枚もしくは2枚挿入しパッキングを行い,骨セメント充填前までそのままにしておく。4逆行性骨セメント注入 Vacuum mixingを用いて骨セメントを撹拌し,セメントガンにセットする。ノズル先端まで骨セメントを押し出すが,この一連の作業工程内で空気の混入を予防するために,セメントガンは使用するまで先端を常に上方に向けておく必要がある。押し出された骨セメントが手袋につかなくなるまで粘性が上昇すれば,注入開始の目安になる(図3)。パッキングしたガーゼを除去するとほぼ同時にノズル先端を大腿骨の遠位まで挿入し,遠位から骨セメント注入を開始する(図2B)。この際のポイントは,ノズルを自分の力により手前に引いて充填させるのではなく,骨セメント注入圧により自然にノズルが出てくるように操作していく。大腿骨頚部骨切り部より徐々に溢れてくる骨セメントは,セメントガンのトリガーを引いている手とは逆の手の母指で入口をパッキングして,髄腔内の骨セメントに持続的に圧がかかるようにする。5Pressurization 骨セメント注入後,骨セメントの粘性が十分に高まるまでの間も骨セメントに圧をかける必要がある。セメントガンのノズルを短く切断しpres-surizerを装着,大腿骨骨切り部に合わせ加圧するように骨セメントを押し出していく(図2C)。この際,髄腔内セメント圧を髄腔内圧より高く維持することが目的なので,骨セメントを押し出すスピードはゆっくりでよい。粘性が上がればセメントガンを外すが,この際も骨セメントを注入しながら陰圧にならないよう気をつける。6ステムの挿入 ステムの挿入は骨セメントの抵抗を感じながら,一定の速度で進める(図2D)。この際,カルカー部分より骨セメントが溢れてくるが,ステムを押している手とは逆の手の指で骨セメントの漏れを防ぐようにすると圧をかけながら挿入できる(図2E)。挿入し終わった後に,ステムの前後捻
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