外傷治療のシステムⅣ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ターは大学整形外科医局の主導次第で「容易」に設立することができる(表2)。 日本で発生する整形外科外傷患者が適切に治療されるためには,人口10~30万に1箇所の「骨折センター」と200~300万に1箇所の「外傷再建センター」が設立されるのが妥当な目論見である。しかし,その実現が困難であることは周知のことである。 それでは,外傷整形外科治療の適正化に欠かせない教育は如何になされるべきだろうか? 外傷整形外科教育は,手術加療を行う医師ならば最低限身につけておかなければならない「ベーシックレベル」と,困難事例への対応や指導力が求められる「アドバンスレベル」,そして重度四肢外傷への対応を求められる「マスターレベル」に分けられる。 「ベーシックレベル」の知識と技量を身につけることは難しくない。それにはまず「外傷整形外科」を自分の専門と自覚して,セミナーや文献から「基本知識」を吸収することであるが,臨床事例を分析して周囲のスタッフと討論することで理解を深めることが必要である。これは「骨折センター」が構築されれば自ずと達成されることである。大学整形外科には「脊椎診」や「股関節診」 「膝関節診」などは必ずあるが,同じように「骨折診」を構築すれば事足りる。 「アドバンスレベル」の知識と技量を身につけることは容易ではない。これには高いレベルの討論が必要である。自分(達)の見解が正しいのかどうかを,他施設の「有識者(専門家)」と討論することが求められる。それには適切な場の確立が必須であるが,Webやオンライン環境が発達した現在において,場の確立は難しいことではない。それを担うのは,「日本骨折治療学会」や「AO Trauma Japan」や「JABO/OTC Japan」などの教育団体にほかならない。 「マスターレベル」の教育はさらに困難である。本来はon the job trainingによって専門医に手ほどきを受ける必要がある。まずは専門書を熟読し,セミナーで語られる内容をすべて理解することから始まる。知識を臨床応用することは誰にでもできることではなく,症例に対峙して「専門家」と対話して得られるものである。しかし,このような機会はなかなか得られるものではない。次善の策は折に触れて開催される「重度四肢外傷Peer Review Meeting」に参加し,そこで語られるすべてを吸収することである。 教育にはその担い手が必要であるが,その担い手であるリーダーは如何にして育成されるのであろうか?Ⅴ■■■■■■■ 整形外科外傷を適切に治療,教育するには「骨折センター」が必要であると述べた。そのセンターの長やファカルティがリーダーそのものである。すなわち,「骨折センター」が主要病院に構築できればリーダーは自ずと育成される。「骨折センター」を設置するのは大学整形外科医局の主導で簡単にできることなので,大学の役割はただこのセンターを作るのみである。 ところで,臨時手術がほとんどである外傷整形外科医療はブラックな労働環境であると思われているが実はそうではない。それはなぜだろうか?Ⅵ■■■■■■■■■■■■ 外傷整形外科は「ブラック領域」と考えている人が多く,「働き方改革」が最も難しい領域と思われているかもしれないが,それは全くの誤解である。 医師の仕事を長時間化させているのは「構造的な無駄の存在」と「スタッフスケールの小ささ」にほかならない。これを解決すれば決してブラック領域ではない。 解決には,あまりにも多い無駄を一掃することから始めなければならない。「無駄な手続き」 「無駄な会議」 「無駄な待ち時間」など,挙げればきりがない。おそらく医師が病院に滞在している時間のうち実質的な仕事は半分に満たないだろう。 特に「臨時手術が多い外傷」において,「手術の待ち時間」を削減することは大きなポイントである。ほかの定期手術が終わるのを待って「外傷整Vol.67No.52024― 453 ―■■■■■■■■■■■■■Ⅱ
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