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細菌感染症皮膚科の臨床 Vol.64 No.5 2022303911る。以前はsynergistic necrotizing cellulitisとされていた。通常高齢者で基礎疾患をもつ。好発因子としては糖尿病,糖尿病性潰瘍,痔核,直腸裂傷,会陰切開,大腸や泌尿器科手術,婦人科的手技などがあげられる。しばしば,軟部組織にガス像を認める。非クロストリジウム性ガス壊疽はⅠ型壊死性筋膜炎のバリアントである。Ⅱ型はA群やそのほかのレンサ球菌により,比較的急速に進行する。Ⅲ型はVibrio属など海洋と関係する。オーストラリアやアジアに多い。Ⅳ型はカンジダなど真菌感染症でまれである。起炎菌と進行度についてみると,急速型ではS. pyogenes,Vibrio(以下V.)vulnificus,Aeromonas(以下A.)hydrophilaが多く,緩徐型では腸内細菌を含む複数菌が検出される場合が多い。予後については急速型では予後が悪く,緩徐型では予後がよい11)。しかし,宿主の免疫状態を加えて考慮する必要があり,菌種のみの要因で進行度・予後を規定できるわけではない。急激な経過をたどり,高率に死亡する日和見感染症である。ほかのVibrio属と異なり,消化器症状はほとんど呈しない。❹ Aeromonas感染症 Aeromonas属は,Vibrionaceae科に属するグラム陰性通性嫌気性菌である。淡水,汽水,海水で生息可能,好冷菌で5℃でも生育可能である13)。A. hydrophilaとA. sobriaが大多数を占める。発生時期は通年性である。大多数は経口感染で冷凍食品を含めた魚介類,乳肉類が感染源となり得る。白血病や肝硬変など基礎疾患を有する例が多い。40%に皮疹(軟部組織感染症)を認める。V. vulnificus感染症との大きな相違点はAeromonas感染症が下痢から壊死性腸炎まで高率に消化器症状を伴う点とガス産生像を認める点である。❺ 非クロストリジウム性ガス壊疽 クロストリジウム属による皮膚感染症のうち,深層,主として筋層を侵すものをガス壊疽gas gangreneという。特にClostridium perfringensとほかの細菌の混合感染によるものが多い。触診上,捻髪音を聞き,X線像上ガス像を認める。糖尿病などの基礎疾患を有し,予後不良の非クロストリジウム属による報告が増加しているが,これは壊死性筋膜炎と区別する必要はない。6.特殊型❶ 頭頸部の壊死性筋膜炎 解剖学的な特殊型として頸部壊死性筋膜炎は,歯性感染,咽頭や喉頭の感染が,深頸部の解剖学的間隙に波及し,急速に頸部や縦隔に進展する。積極的な外科的デブリードマンが推奨されている。❷ フルニエ壊疽(Fournier’s gangrene) 1884年Fournierが外陰部に急速に壊死が生じた症例を報告した。陰囊から陰茎,恥丘部から下腹部へ進展する部位に視点を置いた特殊型である。糖尿病,尿道周囲炎,カテーテル留置,外科手術,局所注射などが病因,誘因となる。菌種はⅠ型に準ずる。❸ V. vulnificus感染症 V. vulnificusは温暖な海水や汽水の魚介類から高頻度に検出されるグラム陰性桿菌である12)。発生時期は夏に多く,発生地は西日本に集中する。V. vulnificus感染症は,夏に肝硬変などの基礎疾患を有する患者が,魚介類を生で摂取したり,汽水中で外傷を受けた後,数時間~48時間ほどで発症する壊死性筋膜炎で,敗血症性ショックに陥り7.病理・病態 浅在性筋膜を主病変とする感染症である。表皮,表皮付属器の壊死,表皮下水疱,真皮から皮下組織にかけての壊死,好中球の浸潤,大小の血管の閉塞,血栓の像を認める。臨床的に皮膚に変化がみられない部では表皮,真皮には変化がみられないが,脂肪織内の血管周囲に好中球の浸潤がみられるのが特徴である9)。 レンサ球菌性の壊死性筋膜炎では2つの異なる臨床症状が報告されている。細菌の侵入門戸が明らかな感染と,明白な傷や病変を伴わずに深部組織で自然に発生する感染がある。S. pyogenesは,虫刺や裂傷などの表在性皮膚病変や注射,外科的切開,または出産による皮膚粘膜の破綻から深部に入る。最初の病変は軽度の紅斑であるが,24~

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