712104第Ⅴ章 炎症性角化症・角化症ドであるLL—37を放出し,傷害された角化細胞やNETsなどに由来する自己DNAやRNAと結合して,それぞれ形質細胞様DC(plasmacytoid DC,以下pDC)やmDCを活性化させ,炎症反応が始まる。pDCはmDCと異なるDCの亜型であり,Ⅰ型IFNのIFN—αを産生してmDCを活性化する。シクロスポリン20),生物学的製剤21)など個別の治療法のガイドラインや解説はあるが,乾癬を包括するガイドラインは作成されていない。 乾癬の治療ターゲットは,その病態に基づき,① 表皮角化細胞に作用して,その増殖と角化異常を抑制するものと,② 血球系の免疫担当細胞,特に活性化T細胞に作用することで炎症を抑制するものがある。図2にその概略を示すが,両ターゲット間には相互作用がある。 外用薬のうち,副腎皮質ステロイド外用薬の作用点は主に ② で,活性型ビタミンD3外用薬は ① である。光線療法は ①② の両者が考えられるが,② の作用が主体と考えられており,ナローバンドUVB療法は活性化T細胞をアポトーシスで除去しつつTregを誘導する。内服療法は,シクロスポリンが ② で,レチノイドは主に ① である。メトトレキサート(MTX)は,以前は ① と考えられていたが,おそらく ② が主体である。アプレミラストは ①② の両者に働いてサイトカイン産生を制御する。JAK阻害薬は,特にサイトカインの細胞内シグナル伝達の抑制によって ①② 両者のサイトカインに対する応答を制御する。蛋白質である生物学的製剤は細胞のなかには入らず,③ 特定のサイトカイン(TNF-α,IL—17,IL—12/23,IL—23)をピンポイントに抑制することで炎症・免疫反応を抑制する。病態と対応した治療の基本方針Ⅱ6.乾癬と併存疾患・全身性炎症 乾癬の患者は,その10~15%程度に関節症状を生じる(乾癬性関節炎)。また,肥満やメタボリック症候群の併存率が高く,肥満は乾癬の発症と増悪のリスク因子のひとつである14)15)。肥満があると,脂肪細胞の産生するTNF-αなどのアディポカインが炎症惹起物質として働いて全身性の炎症をもたらし,皮膚とも相互作用して炎症を増強する。それによってインスリン抵抗性が誘導され,血管内皮やマクロファージの活性化から粥状動脈硬化につながると考えられ,重症の乾癬患者が段階的に心血管疾患の発症に至る,「乾癬マーチ」の概念も提唱されている16)。実際に,乾癬の皮疹が重症なほど,高血圧症,2型糖尿病や心血管疾患のリスクが上昇する。また,非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)も乾癬の併存症として注目されるほか,乾癬と共通する遺伝的背景から,炎症性腸疾患やぶどう膜炎にも注意が必要である。1.治療法の概略とそのターゲット 乾癬の治療目標は完治でなく,皮疹をよい状態に保ってquality of life(QOL)を高めることにある。また,全身療法の選択にあたっては,乾癬を単なる皮膚疾患と見なすのでなく,関節症状を含む個別の併存症や全身性炎症の存在を見据えた治療法の選択が望まれる6)15)。海外では,複数の包括的な乾癬ガイドラインが策定されている。しかし本邦では,膿疱性乾癬17)や乾癬性関節炎18)のような一部の病型に対して,あるいは光線療法19),2.各治療法の概略と選択 乾癬治療の基本は外用療法であり,皮疹が軽症であれば外用のみで改善する。ただし,皮疹の体表に占める面積(Body Surface Area,以下BSA)が10%以上を超える場合や,頭皮部,爪乾癬,掌蹠の皮疹のような難治部位では外用薬に抵抗性になりやすい。全身療法を必要とする目安として,Psoriasis Area and Severity Index(以下PASI)スコア10以上,BSA 10%以上,あるいはDermatol-ogy Life Quality Index(DLQI)スコア10以上の,「10の法則」が提唱されている21)。なお,患者の日常的な生活指導も合わせて行い,乾癬の出現や悪化の要因となる肥満,喫煙,感染症,偏食,ス
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