123腹部卵巣・卵管市立東大阪医療センター 放射線科 髙濱潤子19女性生殖器 卵巣・卵管病変は,婦人科医による超音波検査で基本的に充実成分を伴わない嚢胞性腫瘤を良性病変と取り扱い,大きく全体像が観察できない例や充実成分を疑うもの,非典型像を示す病変に対してMRIなど画像検査が依頼される。したがってMRI診断で求められる目的の一つは,存在がわかっている付属器病変の良悪を含めた病理組織像の類推といえる。卵巣・卵管腫瘍のMRI診断にO—RADSによるスコアリングシステムを適応する動きがあるが,本稿ではスコアリングにかかわらず,日常遭遇する頻度の高い付属器病変として,確実に良性病変であると診断すべき成熟奇形腫,子宮内膜症性嚢胞,そして悪性付属器腫瘍(境界悪性腫瘍を含む)を取り上げる。これらの病変のMRI所見を中心に典型像と非典型像について述べ,鑑別すべき類似の画像所見を示す他疾患に関して解説する。の観察が難しい病変の一つである。1)典型例 豊富な脂肪成分を伴った嚢胞性腫瘤が特徴的で,画像診断において脂肪を同定することが最大の鍵となる。CTでは嚢胞内の脂肪濃度に加え,しばしば歯牙や骨の粗大な石灰化が認められる(図1)。MRIでは脂肪を反映したT1・T2強調像で高信号域が認められる。また,嚢胞内には落屑や毛髪などを含み,脂肪と非脂肪成分の液面形成が認められることも多い。また,塊状の毛髪(hair ball)が嚢胞内の浮遊する異常信号域として認められることもある。 嚢胞壁から突出する充実成分もしばしば認められ,Rokitansky protuberanceと呼ばれる。造影効果は淡く不均一で索状,リング状濃染が多い。造影効果を伴う充実部分があっても悪性を疑わせる所見ではないことに留意する(図2)。ただ,密で強い造影効果が認められる場合は,後述する未分化胚細胞性腫瘍などの悪性腫瘍の可能性がある。2)非典型例 脂肪成分の同定が困難な成熟奇形腫:ほぼ漿液性の内容液からなる嚢胞性腫瘤を呈し,脂肪成分がわずかしか認められないことがある。上皮成分からの落屑が主体となって嚢胞内を充満するような例では,脂肪成分がCTや脂肪抑制像ではっきりしない場合がある。非常に粘稠なケラチンなどの内容物からなり,拡散強調像で著明な高信号を示す。よく見るとT2強調像でケミカルシフトアーチファクトがみられることがあり,診断の一助となる(図3)。また,ケミカルシフト画像を撮影することで微量な脂肪成分を描出可能となり,【索引用語】 卵巣成熟奇形腫,明細胞癌,粘液性腫瘍臨床放射線 Vol. 68 No. 12 20231295はじめに頻度の高い付属器良性病変19 女性生殖器 卵巣・卵管1.成熟奇形腫 成熟奇形腫は成熟した二胚葉や三胚葉由来の組織で構成される。卵巣腫瘍の約半数程度と最も頻度が高く,良性卵巣腫瘍の約60%を占める。両側性に奇形腫を認めることも約16%と多い1)。あらゆる年齢で認められるが,若年者から生殖可能年齢層に多く認められる。大きさも様々だが8 cm以上のものはまれで,90%以上は15 cm以下である。嚢胞内容の脂肪などにより超音波検査で全体
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