エッセンシャル医療安全

病院内でのさまざまなインシデントやアクシデントに対応するための実践的な教科書!

著 者 安田 聖栄
定 価 2,200円
(2,000円+税)
発行日 2015/10/30
ISBN 978-4-307-00477-0

A5判・110頁・図数:5枚・カラー図数:20枚

在庫状況 あり

病院内でのさまざまなインシデントやアクシデントに対応するための実践的な教科書。
医療スタッフにとって本書のような実用的な医療安全のテキストは少ない。
本書により必要な医療安全知識の全体像を概観でき,医療安全の基本を理解できる。
また,各論を重視し,医療安全の考え方や取り組み、医療事故発生時の対 応など、現場で役立つ実践的な内容と
なっている。
1.総論
 1歴史的経緯
 2医療事故とは
 3医療事故の頻度
 4病院での医療安全対策
 5日本医療機能評価機構
 6 PMDA

2.医療安全対策
 1医薬品
  規制医薬品
  抗癌剤
  インスリン
  抗血栓薬
  禁忌薬
  その他
 2医療機器
  呼吸器(ventilator)
  輸液ポンプ、シリンジポンプ
  モニタ−
  酸素療法
  その他
 3検査
  採血
  内視鏡検査
  MRI検査
  病理検査
 4気道関係
  気道確保
  気管チュ−ブ、カニュ−レの管理
  気管チュ−ブの抜管
 5中心静脈カテ−テル
 6チュ−ブ・ドレ−ン
  経鼻栄養チュ−ブ
  胃瘻チュ−ブ
  硬膜外カテ−テル
  胸腔ドレ−ン
  移動時のドレ−ン・チュ−ブ類の偶発的な抜去
 7転倒・転落
 8手術室
 9小児
 10予期せぬ急変
 11患者情報の確認
  アレルギ−
  妊娠
  感染症
  抗血栓薬
 12その他の医療行為
  患者誤認
  患者離院
  輸血
  浣腸
  肺動脈血栓塞栓症
  血液透析
  放射線治療
 13Never Event

3.医療事故への対応
 1有害事象発生時の初期対応
 2重大医療事故発生時の初期対応
 3公表基準
 4外部機関への報告
 5立入検査
 6私立医科大学医療安全相互ラウンド
 7医療安全支援センタ−
 8医療訴訟
 9医療ADR
 10死亡診断書
 11異状死の届け出
 12医療事故調査制度

4.医療と社会
 1医療はサ−ビスか
 2医療の恩恵とリスク
 3医療での失敗責任

文献
索引
 大学病院で医療安全の責任者を丸々7年間担当すると、さまざまな体験をします。担当前(before)と現在(after)を比較すると、格段に知識量は増えました。しかし知識量が増えたからといって、いろんな医療事故事例の再発防止策を速やかに立案できるようになったかといえば、そうではありません。医療安全はなかなか一筋縄ではいきません。
 各部署からさまざまなインシデントやアクシデントの報告が提出されてきます。1日に15件程度ですから、年間では5、000件位です。いろんなエラ−の症例を経験し、知恵を絞って再発防止策を検討しました。重大医療事故も経験し、事例調査会や検証委員会の委員長も務めました。調査報告書も少なからず書きました。医療安全が大切であることは皆が認識しています。またその業務が大変であることは、多少の診療経験のある医療スタッフには実感できます。何が大変かというと、エラ−が発生した場合、まず詳細な事実関係の把握が重要なのですが、これが大変なのです。事実関係の確認なしに自分の見識を述べる人を時に見かけますが、それでは根本解決に結びつきません。医療機器については現物を見なければ理解できません。医薬品については現場の具体的運用を把握しなければなりませんが、それぞれの病棟で運用が一定していないことはよくあります。病院では数多くの医療行為が実施されていますが、放射線治療室や病理検査室など専門性の高い業務の詳細は、即座に理解できるものではありません。ですから事実関係の確認には大変エネルギ−を使います。そして再発防止策を決めるのですが、その運用が年月を経過しても現場で適切に遂行されているかとなると、必ずしもそうではありません。定期的な点検も欠かせないのです。医療安全を担当する当事者には「つらくて苦しい仕事」が続くことになります。そして「つらくて苦しい」と感じている人には当事者意識があるのです。
 私の様な勤務医にとって、大学病院は最先端の医療に従事できることと、研究ができる環境にあることが大きな魅力です。そして研究活動の成果は「業績」として残ります。過去に書いた論文は小さな宝物のようなものです。症例報告であれば、当時、一生懸命に勉強したことは、いまだに身についており時に役立ちます。インパクトファクタ−の高い英文雑誌の論文は勲章のようなものです。
 それにひきかえ、医療安全業務を含め病院業務でエネルギ−を注いだことは、その個人になかなか見える形で残りません。しんしんと雪が降り積もる道を努力しながら前進し、後ろを振り返ってみると自分の足跡が雪で消えてしまっているようなものです。そこで数多くのことを経験したこの機会に、知識と考えを整理し、書籍の形でまとめておきたいと思うようになりました。それと医療安全業務を行うことは、いろんなことを考える契機になりました。十分に考えずに行ってきたことをもう一度見直し、疑問に思っていることを今一度掘り下げて整理したいと考えました。
 そして書き進むにつれ、現場の医療スタッフに役立つ実のある書籍に仕上げたいと思うようになりました。医療スタッフにとって実用的な医療安全のテキストは数多くないと思います。医療安全は総論より各論が大切で、現場で少しでも役立たなければ価値がありません。関心のある箇所をつまみ読みして戴くのでもよろしいでしょう。きっと現場で必要な医療安全知識の全体像を概観でき、医療安全の基本を理解して戴けると思います。

2015年10月
東海大学医学部消化器外科教授
同付属病院 副病院長
安田聖栄