目の前の患者からはじまる臨床研究 症例報告からステップアップする思考術

症例報告から臨床研究へ。両者をつなぐ道筋を見出すための一冊

著 者 康永 秀生
定 価 3,520円
(3,200円+税)
発行日 2023/01/30
ISBN 978-4-307-00493-0

A5判・144頁・図数:2枚

在庫状況 あり

臨床研究はいつも、日常臨床の現場で生まれたクリニカル・クエスチョン(CQ)から、つまり「目の前の患者」からはじまっている。本書では、前半で症例報告の学会発表・論文発表の作法を解説し、後半で症例経験から紡ぎだしたCQをリサーチ・クエスチョンへ発展させる実践的な手法とともに、症例経験から臨床研究につなげた実例を解説する。「今まで症例報告をしたことがない人」も、「症例報告はしたことがあるが臨床研究の経験はない人」も必読の一冊。

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第1章 症例報告の学会発表
 1. 症例報告とは
  1 症例報告の意義
  2 どのような症例が報告されるべきか?
 2. 症例報告を学会発表しよう
  1 学会発表の意義
  2 学会発表に向けた準備

第2章 症例報告論文の執筆
 1. 症例報告を論文発表しよう
  1 学会発表で終わらせず論文発表する意義
  2 どのような症例が論文化に適しているか?
  3 症例報告を掲載するジャーナル
 2. 症例報告論文の書き方
  1 症例報告論文執筆の基礎知識
  2 Title(タイトル)とAbstract(抄録)
  3 Introduction(緒言)
  4 Case(症例)
  5 Discussion(考察)
  6 Conclusion(結論)

第3章 症例経験から臨床研究へ
 1. 臨床研究に踏み出すための基礎知識
  1 症例報告と臨床研究の違い
  2 臨床研究の目的と心構え
  3 臨床疫学と臨床研究
  4 臨床研究デザイン
  5 臨床研究の内容による分類
  6 症例データの収集
 2. CQ からRQ へ―解説編
  1 先行研究のレビュー
  2 PE(I)CO への当てはめ
  3 FINER のチェック
 3. CQ からRQ へ―実践編
  1 胸部大動脈疾患に対する人工血管置換術後の縦隔炎発生の予測
  2 膵体尾部切除術後の膵液漏の治癒までの期間
  3 アンジオテンシン変換酵素阻害薬による誤嚥性肺炎の再発予防
  4 重症外傷に対するドクターヘリの効果

第4章 症例経験から臨床研究へ発展させた実例
 1. ツツガムシ病の症例経験から後向きコホート研究へ
  1 私の症例経験
  2 臨床研究への発展
 2. 乾癬の症例報告から症例シリーズ研究へ
  1 症例報告の積み重ね
  2 臨床研究への発展
 3. 院外心肺停止の症例経験から前向きコホート研究へ
  1 背景
  2 症例経験
  3 臨床研究への発展

コラム
・私の学会発表デビュー
・学会発表後の論文出版率
・私が最も衝撃を受けた症例報告
・ジャーナルの発行元
・ノーシーボ効果
・出版バイアス
・アンジェリーナ・ジョリー効果
・UpToDate
・「つつがない」とツツガムシ
・ハイジャックされたジャーナル
・オープンアクセスジャーナルの論文掲載料
はじめに

 本書は、2021年10月30-31日に開催された日本臨床疫学会第4回年次学術大会の特別企画「症例報告の経験を生かして臨床研究にチャレンジしよう」における私の講演内容を基に大幅加筆したものです。同学術大会のテーマは「原点回帰 ―患者に始まり、患者に還る―」でした。このテーマの通り、日常臨床を通じて目の前の患者や医療現場からクリニカル・クエスチョン(clinical question、CQ)が生まれ、それを解決するために臨床研究が行われます。臨床研究のネタは、日常臨床の現場に転がっています。つまり臨床研究は、日常臨床からすでに始まっているのです。本書は、目の前の患者から始まる臨床研究、という考え方をもう一度見直し、症例報告から臨床研究につなぐ道筋を解説します。
 症例報告とは、珍しい疾患や病態、教科書の記載とは異なる症状や経過、新規の副作用や有害事象、診断・治療法の改良や新しい試みなどを記録し、その臨床的意義や背後にある生物学的・臨床的メカニズムについて考察を加えた報告です。この症例報告を論文形式にまとめたものが症例報告論文です。症例報告論文の特徴として、原著論文に比べて執筆に取り組みやすい形式であることが挙げられます。原著論文には数百例、少なくとも数十例の症例が必要であるのに対し、症例報告論文は1例からでも成立します。しかし、症例報告の多くが学会発表のみにとどまり論文化されていません。そこで本書では、症例報告の学会発表におけるTipsのみならず、症例報告論文のまとめ方も解説します。
 症例報告は、疾患の予防・診断・治療のヒントを生み、臨床研究へと発展させる契機にもなります。そこで本書では、症例報告の経験を生かし、症例シリーズ研究や効果比較研究などの臨床研究に発展させる方策について解説します。また、複数の研究者がこれまで実際に症例経験や症例報告を臨床研究につなげ、原著論文出版にまでこぎつけた実例を紹介します。
 これまで私は、論文の書き方、臨床研究の方法論、論文の読み方に関する書籍をこの順に出版してきました。実際に臨床研究を行うためのステップはこれと真逆であり、(1)論文の読み方⇒(2)臨床研究の方法論⇒(3)論文の書き方、の順となります。しかし、左記の(1)⇒(2)の間にギャップがあります。そのため、論文をある程度読んでもなかなか臨床研究につなげられない若手研究者は少なくないようです。本書は、この(1)⇒(2)のギャップを埋めるものといえるでしょう。
 本書の読者対象は、臨床研究を志すすべての医療従事者、医療系学生です。これまで症例報告も臨床研究も行ったことがない方々だけでなく、症例報告は行ったことはあるものの臨床研究に踏み出せていない「症例報告までの人」も対象です。本書の内容をヒントに、自らの手で症例報告から臨床研究につなげることに果敢にチャレンジすれば、「症例報告までの人」から「症例報告からの人」に進化できるでしょう。
 最後に、本書執筆中にも絶えず細やかなご支援をいただいた、金原出版の編集者である須之内和也氏に心からお礼を申し上げます。

2022年12月
康永 秀生