死の淵で闘う人々 ―奇跡の延命、生還者たち―

その患者はどのような治療を受けて光明を見出したのか?

著 者 大鐘 稔彦
定 価 1,980円
(1,800円+税)
発行日 2025/02/20
ISBN 978-4-307-00495-4

四六判・160頁

在庫状況 あり

医療界に衝撃を与えたベストセラー『孤高のメス』『緋色のメス』の著者による、がんと闘う人々の実録。淡路島の診療所で地域医療に従事してきた著者がこの四半世紀で診たがん患者は二百数十名を数える。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の新規開発をはじめとして近年のがん治療の進歩は目覚ましく、薬物療法などの副作用に耐えつつ劇的な効果が得られたがん患者も増えている。死の淵から奇跡の延命・生還を果たした事例を克明に記した、闘病中のがん患者の支えとなる一冊。
はじめに

第一章 強運(悪運?)はどこまで

第二章 最愛の妻を救った選択肢

第三章 色白の男前に? それは貧血の所為だよ

第四章 抗癌剤、ちょっと待った!

第五章 奥の手があった!

第六章 抗癌剤はもう厭と拒否したものの

第七章 奇跡を生んだ抗癌剤

おわりに

医療関係の主な著書
はじめに

 平成十一(一九九九)年、当地の公立診療所に着任して早四半世紀が経った。それまで三十年間は外科医として年平均二百件、延べ六千件の手術に携わってきた。その間のいきさつは、末尾に記した幾冊かの著作に書いてきた。折あらば繙いて頂けたら幸いである。
 五十五歳でメスを置くと意を決した時、余生は医療過疎地で診療したいと思い、北は北海道の旭川から南は故徳田虎雄氏が開拓した離島にまで足を伸ばして落ち着く先を求めたが、何の因果か、その真ん中の淡路島に根を下ろすことになった。
 診療所は無床で、外来通院できる患者さんだけが対象である。大きな手術を要しない疾病はほとんどが外来通院で治せる。プライマリケア(一次医療)医の醍醐味はそこにある。
 しかし、残念ながらこの四半世紀の間に入院手術を余儀なくされた病者も幾たりかいた。大半は癌患者である。毎年十人程度だから今日まで二百数十名を数える。
 私が医者になった頃は、癌患者は十人中六、七人までが助からなかった。それも早々に死の転帰を辿ったが、今日では逆に、五年以内に亡くなる人は十人中三、四人に減少している。医学の進歩のお陰である。有効な抗癌剤が開発され、時に劇的な効果をもたらしている。
 『患者よ、がんと闘うな』なるセンセーショナルなタイトルの著書で医療界のみならず一般社会にも激震をもたらした故近藤誠氏は、「癌になったら何もしないのがよい。手術や抗癌剤はかえって命を縮めるばかり」と喝破し、少なからぬ人々が彼の?がんもどき理論?に心酔し、手術や抗癌剤による治療を拒否したが、元より極論で、手術や抗癌剤によって命を縮める人は十人中一人か、精々二人であろう。
 無論、抗癌剤で生き永らえた人も、楽な闘病生活を送れることは稀である。その副作用が余りに強く、QOL(Quality of Life 命というよりは生活の質)を著しく損なうようであれば中止した方がよい。本書で紹介する患者さんの幾たりかはそうしている。しかし、何人かの人はこれに耐え、信じ難い成果を生んでいる。中には奇跡としか言い様のない事例も。
 どのような治療法を選ぶかは、あくまで患者本人の意思による。医者は持てる限りの知識と経験を示してアドバイスを提供するのみである。
 そんな患者さんとのやりとりを披瀝することで、闘病中の方々に何らかの光明を見出して頂ければと念じて止まない。