臨床検査法提要 改訂第36版

臨床検査の現場を支えて84年―“Kanai's Manual”は次の世代へ

編 集 奥村 伸生 / 本田 孝行 / 矢冨 裕 / 山内 一由
編集協力 下澤 達雄 / 松田 和之 / 大川 龍之介
定 価 19,800円
(18,000円+税)
発行日 2025/09/25
ISBN 978-4-307-05055-5

A5判・2008頁・図数:866枚・カラー図数:576枚

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現在行われている臨床検査について、その原理や実際の手順を詳細に解説.検体検査から生理機能検査まで臨床検査技師・医師等が現場で必要とする内容を網羅し、基準値の精査、臨床検査に関わる法令や関連学会のガイドライン等、検査試薬や機器については更新を行った。タスクシフト/シェアによる臨床検査技師の追加業務を反映し、遺伝子検査は全体を一新した一方で、過去の検査もHPより閲覧可能。臨床検査のすべてがわかる1冊!
第1章 臨床検査総論
I.臨床検査の標準化・精度保証・基準範囲
 A 標準化
 B 測定法の信頼性に関する妥当性確認
 C 精度管理
 D 基準値・臨床判断値・臨床的有用性の評価
II.臨床検査室の第三者認定(ISO 15189)
III.検体検査に用いられる主な測定原理
 A 光学的検出法
 B 生化学的測定法
 C 免疫学的測定法(イムノアッセイ)
IV.POCT
V.採血と血液検体保存
VI.検体採取

第2章 尿・糞便検査
I.尿検査
 A 尿の一般的取り扱い法
 B 尿の一般性状検査法
 C 試験紙法による尿スクリーニング検査
 D 異常尿成分の化学的検査法
 E 尿中化学成分の定量
 F 尿沈渣検査法
 G 尿による乱用薬物スクリーニング検査
 H 尿妊娠検査・尿排卵日予測検査
 I 尿中肺炎球菌抗原検査・尿中レジオネラ抗原検査
 J 尿路結石検査法
II.糞便検査

第3章 穿刺液・髄液・精液検査
I.穿刺液検査
 A 漿膜腔液検査法
 B 関節液検査法
II.脳脊髄液(髄液)検査
III.精液検査

第4章 血球検査
I.血球計数検査
 A 自動測定法
 B 用手法
II.血球形態検査
 A 血液塗抹標本作製
 B 血液塗抹標本染色法― 普通染色
 C 血球形態の観察
 D 骨髄検査
III.造血器腫瘍の臨床検査
 A 造血器腫瘍のWHO 分類
 B フローサイトメトリーによる細胞表面マーカー検査
 C 染色体検査
 D 遺伝子検査
IV.溶血性貧血に関する検査
V.赤血球沈降速度

第5章 血栓・止血関連検査
I.血栓形成のしくみと検査
II.血管系および血小板機能検査
 A 検査法の種類、適応と進め方
 B 血管系検査法
 C 血小板機能検査法
III.血液凝固系の検査
 A 血液凝固検査に用いられる測定法の種類と特徴
 B 凝固系のスクリーニング検査
 C 血液凝固因子定量
 D 凝固・線溶の阻止因子
 E 凝固因子に対する獲得性抗体(凝固因子インヒビター)
 F ループスアンチコアグラント
IV.線溶系の検査
V.血栓・止血の分子マーカー
 A 凝固系の分子マーカー
 B 線溶系の分子マーカー
 C 血管内皮系の分子マーカー
 D 播種性血管内凝固
VI.血栓性素因の検査

第6章 臨床化学検査
I.血漿蛋白
 A 血漿蛋白の種類・機能・病態
 B 血清(血漿)蛋白測定法
II.非蛋白窒素化合物
III.糖質とその代謝関連物質(有機酸)
 A グルコース(血糖)
 B グリコヘモグロビン(HbA1c)
 C グリコアルブミン
 D 1,5アンヒドロDグルシトール
 E ヒアルロン酸
 F 有機酸
IV.血清脂質とリポ蛋白
 A 血清脂質・リポ蛋白の代謝と病態
 B 血清脂質の検査
 C 血清リポ蛋白分画の検査
 D 血清アポリポ蛋白の検査
 E リポ蛋白代謝関連酵素の検査
V.生体色素
VI.電解質(Na、K、Cl)・浸透圧・微量元素
 A 電解質(Na、K、Cl)
 B 浸透圧
 C その他の必須元素と微量元素
VII.酵素とアイソザイム測定法
 A 酵素測定法総論
 B 酵素測定法各論
VIII.腫瘍マーカー
IX.心不全マーカー・虚血性心疾患マーカー
X.骨代謝マーカー
XI.感染症マーカー
XII.その他の疾患マーカー
XIII.ビタミン
XIV.血中薬物濃度
XV.毒物
 A 総論
 B 各論
XVI.栄養アセスメントとエネルギーアセスメント

第7章 電解質・酸塩基平衡検査
I.電解質検査:電解質・浸透圧
II.酸塩基平衡検査
III.輸液の基本

第8章 内分泌代謝機能検査
I.内分泌疾患の検査総論
II.視床下部―下垂体系機能検査
III.下垂体―甲状腺系機能検査
IV.副甲状腺機能検査およびその関連項目
V.下垂体―副腎皮質機能検査
VI.副腎髄質機能検査
VII.下垂体―性腺系機能検査
VIII.膵内分泌機能検査
 A 膵内分泌機能検査
 B 糖尿病の診断・治療と関連検査
IX.遺伝学的検査
 A 多発性内分泌腺腫症
 B ACTH 不応症
 C 先天性副腎低形成症
 D ビタミンD 依存性くる病

第9章 免疫血清検査
I.免疫グロブリン・補体系の検査
 A 免疫グロブリンの検査法
 B 補体に関する検査
II.感染症(非ウイルス性)の免疫血清検査
III.自己免疫疾患に関する検査
IV.アレルギーに関する検査
V.リンパ球・食細胞(好中球)機能検査
 A リンパ球機能検査
 B 食細胞(好中球)機能検査
 C 原発性免疫不全症候群の検査
 D 自己炎症性症候群の検査
VI.サイトカイン・ケモカイン・接着分子に関する検査
 A サイトカインおよびその受容体
 B ケモカインおよびその受容体
 C 接着分子

第10章 輸血・移植関連検査
I.輸血関連検査
 A 赤血球型検査
 B 血小板関連検査
 C 輸血の臨床
II.移植関連検査
III.HLA検査
IV.キメリズム検査

第11章 臨床微生物検査
I.臨床細菌検査(含真菌)
 A 臨床細菌検査の基本技術
 B 抗酸菌検査
 C 真菌検査
 D 各種感染症の臨床細菌検査
II.ウイルス・リケッチア・クラミジア感染症と検査
 A ウイルス感染症と検査
 B ウイルス感染症検査法
 C 各種ウイルス感染症の検査
 D リケッチア・クラミジア感染症の検査
III.寄生虫・原虫検査
 A 寄生虫・原虫の基礎
 B 検体と検査法の選択
 C 寄生虫・原虫検査各論
IV.衛生動物
V.「感染症法」の基本構造と病原体種別・感染症類別

第12章 遺伝子関連検査・染色体検査
I.遺伝子関連検査・染色体検査総論
II.遺伝子関連検査
 A 遺伝子関連検査の理解に必要な基礎知識
 B 遺伝子関連検査の検体種類と測定前プロセス
 C 遺伝子関連検査に用いられる解析技術
 D 臨床で実施される遺伝子関連検査
III.染色体検査
 A 染色体検査法(分染法とFISH法)
 B アレイCGH 法
 C 染色体検査における留意点
 D 遺伝学的検査としての染色体検査が有用な疾患

第13章 病理検査
I.組織学的検査(組織診)
II.細胞学的検査(細胞診)

第14章 消化器関連検査
I.消化管検査
 A 食道・胃機能検査
 B 吸収不良症候群関連検査
 C 蛋白漏出性胃腸症関連検査
 D 消化管内視鏡検査
II.膵機能検査
III.肝・胆道機能検査
 A 肝機能検査総論
 B 解毒機能検査
 C 異物排泄機能検査
 D 胆道機能検査
 E 腹腔鏡検査
 F 肝生検
IV.腹部(肝・胆・膵)画像検査
 A 肝画像検査
 B 胆道系画像検査
 C 膵画像検査

第15章 腎機能検査
I.基礎知識と検査計画
II.糸球体濾過量と腎血漿流量
III.尿細管機能検査
IV.腎・尿路の画像診断
V.泌尿器科的検査
VI.腎生検
VII.血液浄化治療と臨床検査

第16章 循環機能検査
I.血圧測定法
II.心電図
III.心臓超音波検査
IV.心臓カテーテル法
V.心不全マーカー・虚血性心疾患マーカー検査
VI.末梢血管検査
VII.血管超音波検査(頸動脈、大動脈、腎動脈、下肢動脈、下肢静脈、バスキュラーアクセス)

第17章 呼吸(気管支・肺)機能検査
I.呼吸機能検査
II.気管支鏡検査

第18章 神経・筋機能検査
I.筋電図
II.末梢神経伝導機能検査
III.脳波
IV.誘発電位
V.自律神経機能検査

第19章 感覚機能検査
I.聴覚機能検査
II.平衡機能検査
III.眼底検査
IV.眼圧検査
V.味覚検査
VI.嗅覚検査

巻末付録
各種臨床検査の基準範囲一覧
臨床検査用略語
索引


第36版 序

 本書の初版は、原著者 金井 泉氏(1895年生まれ、1993年没)が海軍軍医学校在職中に「生物学的臨床診断学の教典」(初版の序より)として執筆し、1941年「臨床検査法提要」として金原商店(当時)から出版された。その内容は尿・血液・髄液・胃液などの検体検査のほか臓器の機能検査を含み当時のわが国における臨床検査をほぼ包括したものであった。戦後の厳しい状況下にあっても阿部正和、小酒井 望、柴田 進、斎藤正行、三輪史朗ら諸先達の協力によって内容が更新され、アメリカの先端的な検査などが的確に収録され、改版が重ねられた。
 金井正光氏(1926年生まれ)は、第25版(1968年)から第29版(1983年)まで、共同編集者として泉氏に協力し、本書を出版してきた。1993年の第30版では、総頁1,984頁となった大著を一人で編集し、ほぼ現在のスタイルに至った。その後、共同編集体制となった第33版から第35版まで、本書の監修者として大所高所から我々編集者に対して厳しくも暖かなアドバイスをしていただいた。84年の歴史ある本書をインターネット、AIの時代にどのように継続していくかが大きな命題である。
 この歴史ある著書を後世に受け継ぐため、2010年の第33版と2015年の第34版では奥村伸生・戸塚 実・矢冨 裕の3名が編集し、また、2020年の第35版では本田孝行が加わり編集を分担した。以来5年が経過し、戸塚 実の勇退に伴い山内一由を新たな編集者として迎え、さらに国際医療福祉大学の下澤達雄、信州大学の松田和之、東京科学大学の大川龍之介の3氏に編集協力者とし加わっていただき、改訂を行ってきた。作業開始以来2年半が経過し、第36版を上梓できることは、大変な喜びである。

 今回の改訂では、以下の4点を編集コンセプトとした。
(1)最新の検査項目を取り入れ、臨床検査技師養成校の臨地実習や臨床検査技師の初期卒後教育に本書1冊で対応可能とする。
(2)日本臨床検査標準化協議会(JCCLS)の「共用基準範囲」を取り入れた検査データの評価基準を採用し、必要に応じ日本人間ドック学会の「異常なし判定基準」と各専門学会の「臨床判断値」を併記する。
(3)従来は免疫血清検査に記載していた肝炎ウイルス関連検査を臨床微生物検査のウイルス検査に移動し、臨床化学検査などとの重複のあった消化器関連検査の肝機能検査総論を簡略化する。
(4)2015年から臨床検査技師に認められた微生物検査関連の検体採取、2021年の医師の働き方改革に伴うタスクシフト・シェアにより臨床検査技師が実施可能となった検査や手技について記載を充実する。

 改訂第35版刊行以降の臨床検査関連の主な動向は以下の通りである。
(1)2020年1月COVID-19の日本での感染確認・非常事態宣言発令、一般市民にPCR抗原、抗体検査という言葉が広く浸透し、中小病院の検査室にも遺伝子検査(定量PCR装置)が導入された。2023年5月のCOVID-19の5類移行までのCOVID-19パンデミックは社会に大きな変革をもたらし、検査室にとっても一大転換期であった。
(2)測定値の国際的利用のためにALP, LD測定法がJSCC法からIFCC法に変更された(2020年4月1日)。
(3)ISO15189:2022(第4版)が発行された(2022年12月)。
(4)「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療法)が公布・施行された(2023年6月)。本法の基本計画の策定にあたり、日本医学会・日本医学会連合、および日本医師会が案を作成し、日本医学会所属の142分科会の意見を取り入れた上で、2024年3月に提言として公表した。
(5)造血器腫瘍のWHO分類改訂第5版が刊行された(2024年8月)。

 ご執筆いただいた先生には、本書の頁数の制約から貴重な原稿や図表の削除・修正などをお願いしたことをお詫び申し上げるとともに、ご協力に心から感謝の意を表したい。また、改訂35版までの執筆者である諸先生には貴重な写真・図・表などを提供していただいたことに深謝する。
 現在「検査値の読み方」的な書籍は多数刊行されているが、原著者は実際に手にして検査ができる「マニュアル」であることを目指していた。このため本書の英文表記は“Kanai’s Manual of Clinical Laboratory Medicine”である。しかし、現在の検体検査は自動分析装置を用いることが大部分であるので、用手法的記述は省略したが試薬組成についてはできるだけ詳細に記載することに努めた。今回の改訂第36 版が、臨床検査に携わる多くの臨床検査技師や医師などの医療従事者に幅広くかつ的確に利用されることを切望する。また、極力誤りのない記述に努めたが、より良い次期改編のために本書に対する忌憚のない意見をいただければ幸いである。
 最後に、資料提供などで終始ご協力いただいた信州大学医学部、東京大学医学部、国際医療福祉大学医学部の教職員各位に心より御礼申し上げる。

 長年にわたり本書の編集に情熱を傾けてきた金井正光氏は、2022年2月16日、第36版の完成を待たずに永眠された(享年95歳)。ここに謹んで哀悼の意を捧げる。

2025年7月

編者 奥村 伸生
   本田 孝行
   矢冨 裕
   山内 一由