死後画像読影ガイドライン 2025年版 第3版

死因究明のための「死後画像診断」に必須のガイドラインが改訂!

編 集 日本医学放射線学会 / 死後画像読影ガイドライン作成委員会
定 価 5,500円
(5,000円+税)
発行日 2025/03/20
ISBN 978-4-307-07132-1

B5判・224頁

在庫状況 あり

2020年施行の「死因究明等推進基本法」にて死因究明において死後画像を活用する有用性が記されてから5年。この間の新たな経験やエビデンスを取り込み、ガイドラインが改訂された。CQ数は前版47から55へと増加し、個人識別や撮影技術に関するCQを追加した。また、本ガイドラインに必須である画像も大幅に差し替えや追加を行った。「見るガイドライン」としての利便性がより配慮された内容となっている。
序文
死後画像読影ガイドライン2025 年版 策定にあたって
死後画像読影ガイドライン2025 年版 発刊にあたって
死後画像読影ガイドライン2025 年版 編集・統括・作成委員
エビデンスレベルと推奨度(文献検索法)

はじめに
CQ1 死後CT・MRI で死後変化としての形態や吸収値・信号変化の所見は何か?
CQ2 死後CT・MRI で血液就下・血液凝固として認められる所見は何か?
CQ3 死後CTで死後変化として認められる液体貯留は何か?
CQ4 死後CT・MRIで腐敗・自家融解はどのような所見で推定できるか?
CQ5 体内液体の検出・定量・性状評価に死後CT・MRIを用いることは有用か?
CQ6 死後画像で死後の体温変化は画像所見に影響を及ぼすか?
CQ7 死後CT・MRIで生前胸水と死後胸膜腔液体貯留の識別は可能か?
CQ8 体内ガスの検出・定量に死後画像を用いることは有用か?
CQ9 死後CTにおけるガス評価で死後経過時間が推定できるか?
CQ10 死後CT・MRIは死因推定に有用か?
CQ11 死後CTは院外心肺停止例の死因判定に有用か?
CQ12 死後血管造影CT(PMCTA)は死因推定に有用か?
CQ13 死後CTにおける画像処理(3D再構成・MPR)は死因判定に有用か?
CQ14 死後画像を検案時に用いることは有用か?
CQ15 解剖前に死後画像を用いることは有用か?
CQ16 遠隔画像診断は死後画像読影に有用か?
CQ17 心肺蘇生術による肋骨骨折の判定に死後画像を用いることは有用か?
CQ18 心肺蘇生術による臓器損傷の判定に死後画像を用いることは有用か?
CQ19 心肺蘇生術による輸液は死後画像に影響するのか?
CQ20 死後画像で年齢推定に有用な所見は何か?
CQ21 死後画像で性別判定・推定に有用な所見は何か?
CQ22 死後画像で個人識別のために生前資料との照合に有用な所見は何か?
CQ23 死後画像で身長推定に有用な所見は何か?
CQ24 死後CTによる復顔像は個人識別に有用か?
CQ25 死後画像で内因死の判定に有用な所見は何か?
CQ26 死後画像で悪性腫瘍の読影(存在/死因)は可能か?
CQ27 死後頭部CTで頭蓋内に認められる高吸収域はすべて頭蓋内出血としてよいか?
CQ28 死後CTで死因となるくも膜下出血を指摘可能か?
CQ29 死後CTで死因となる脳出血の読影は可能か?
CQ30 死後画像で心血管内に認められる血液就下・凝血塊は血栓症と鑑別できるか?
CQ31 非造影死後CTで死因となる急性冠症候群の読影は可能か?
CQ32 死後画像で急性冠症候群を検出する画像診断モダリティとその判定に有用な所見は何か?
CQ33 死後CTで死因となる血性心タンポナーデの読影は可能か?
CQ34 死後画像で大動脈瘤破裂・大動脈解離の読影は可能か?
CQ35 死後画像で肺炎の判定に有用な所見は何か?
CQ36 死後CTで外因死を示唆する有用な所見は何か?
CQ37 死後CTで外因死をすべて除外することができるか?
CQ38 死後画像で鈍的外傷の評価に有用な所見は何か?
CQ39 死後画像で穿通性外傷(銃創以外)の評価に有用な所見は何か?
CQ40 死後画像で穿通性外傷(銃創)の評価に有用な所見は何か?
CQ41 死後画像は頸椎損傷/頸髄損傷の判定に有用か?
CQ42 窒息による死亡の判定に死後画像を用いることは有用か?
CQ43 死後画像で溺水の判定に有用な所見は何か?
CQ44 死後画像で飢餓・低栄養の判定に有用な所見は何か?
CQ45 死後CTで急性薬毒物中毒の判定に有用な所見は何か?
CQ46 死後CT・MRIで一酸化炭素中毒の判定に有用な所見は何か?
CQ47 死後画像で焼死(火災に関連した死亡)の判定に有用な所見は何か?
CQ48 死後画像で低体温症の判定に有用な所見は何か?
CQ49 死後CTで熱中症の判定に有用な所見は何か?
CQ50 死後CTは減圧障害の判定に有用か?
CQ51 小児の死後画像は解剖に匹敵する情報が得られるか?
CQ52 死後画像でCT・MRI撮影条件の最適化は必要か?
CQ53 死後画像に特有のアーチファクトは何か?
CQ54 死後MRIは安全に検査可能か?
CQ55 死後画像でのex-vivo検査は有用か?

◆コラム
脳の死後画像所見は様々な要因に影響される
MRI による体温計測
胸水と胸膜腔液体貯留の違い
空気塞栓症の歴史
画像診断技術の進歩
死後画像検査における診療放射線技師の有用性と課題
3D画像の活用
解剖と死後画像を用いる別の理由
歯科パノラマ再構成
後頭蓋窩〜上位脊柱管(真性血腫・偽性血腫)
脳出血─内因死?外因死?
死後画像で感染症の推定は可能か?
異状死体の届出について
創の名称
窒息死後画像読影の心得
熱傷深達度
焼死にみられる死後変化の画像所見
氷点下環境における低体温症
熱中症の臨床研究
体温変化による画像コントラスト変化
死体自身の変化がもたらす画像上のアーチファクト
体内金属などのMRI適合性
<序文>

 我々放射線診断専門医は日々の画像診断業務において、「生きている」患者さんのCT画像やMRI画像を毎日のように読影している。正常解剖を頭に入れ、疾患や病態の知識を基に画像上の異常部位を見出し、考えうる疾患や病態を考察し、鑑別診断を挙げ、画像上の最終診断を下す。一人前の放射線診断専門医になるには医学部を卒業して医師国家試験に合格後、2年間の臨床研修を経て、3年間の放射線科領域専門研修プログラム、さらに2年間の放射線診断領域専門研修カリキュラムを修了し、専門医試験に合格する必要がある。そして、晴れて放射線診断専門医になった後も日々の研鑽や知識のアップデートは必須である。新しい撮像法、新しい解析法、新しい診断法、新しい疾患概念、そして新しい治療法の理解が求められる。
 死後画像の読影は放射線診断専門医にとっては特殊な領域である。死後画像の読影手法は生体の画像診断の延長上にあり、正常解剖の知識がなければ画像の読影は不可能であり、病気を原因とした内因死の診断には疾患や病態による画像所見の知識が不可欠である。つまり、放射線診断専門医としての知識は存分に発揮できる。一方、生体の画像診断ができたとしても、それだけでは死後画像の読影はできない。生体画像と死後画像の読影で一番の違いは死後変化であり、画像上の異常所見が単なる死後変化なのか、死亡前の病的変化なのか、死因に直結した所見なのかの判断が重要となる。さらに、病院ではほとんど経験しないような溺水や火災に関連した死亡など、特殊な画像所見も学ぶ必要がある。
 本ガイドラインは2015年の初版、2020年の第2版に続き、今回が第3版となる。死後画像の読影においては必ずしもエビデンスが十分ではないものもあるが、死後画像に精通したエキスパートが執筆した本ガイドラインは、死後画像読影にはなくてはならない必須のバイブルであると言える。死因究明において、死後画像診断は解剖と共に重要な役割を担っている。今後の普及によってエビデンスがさらに蓄積され、それによってガイドラインがさらに充実していくことが期待される。

2025年3月
日本医学放射線学会 理事/診療・ガイドライン委員会委員長
北海道大学大学院医学研究院 画像診断学教室
教授 工藤 與亮


<死後画像読影ガイドライン2025年版 策定にあたって>

 本ガイドラインは、平成24年度厚生労働科研「医療機関外死亡における死後画像診断の実施に関する研究」(兵頭班)を端緒としています。日本医学放射線学会のサポートのもと、日本法医学会等に所属する多くの先生方のご協力により、2015年版が刊行されました。また、平成26年(2014年)6月に閣議決定された「死因究明等推進計画」の重要施策の一環として、死因究明等に係る実施体制の強化および人材の育成と資質の向上を目的に、北海道大学の支援を受けて2020年に改訂されました。この流れを途絶えさせることなく、死後画像に関する知見を広く共有することを目的に、日本放射線技術学会等に所属する先生方にもご参加いただき、2025年版(第3版)として今回改訂される運びとなりました。
 2015年版および2020年版では、死後変化や死因究明、画像から得られる状態評価に関する知見を集積し、可能な限り客観的な評価ができるよう、既発表論文の知見をもとに執筆者の主観に頼らない記述を試みました。この方針は2025年版でも踏襲されており、本文中の記述には高い学術的検討が含まれています。記述内容と画像を対比することが知見の理解に重要であるため、各CQに可能な限り画像を挿入し、新しい画像に差し替えるなど、旧版と異なる内容にすることで「見るガイドライン」としての利便性にも配慮しました。
 死後画像に関する研究はわずか10数年の歴史しかなく、近年、新たな画像技術の応用も進んでいますが、依然として死後画像に関する研究は道半ばといえます。そのため、十分な知見に基づかないが、読者が知っておくことで死後画像の読影に有益である、または今後の研究に役立つと考えられる事項については、コラムとして記述しています。2020年版と比較して多くのコラムが追加されており、目次も設けることで閲覧性の向上に努めました。
 死後画像が法的な係争の場で扱われる機会も増えており、本ガイドラインが判断材料として用いられることに対する問題点を指摘されることもあります。他の診療ガイドラインと異なり、『死後画像読影ガイドライン』は必ず遵守されるべき基本指針ではなく、これまで誰も経験したことのない死後画像読影の領域に一筋の道を示そうとするものです。そのため、事案によっては画像所見の解釈に特別な配慮が必要となることを、読影実務者は理解したうえで本ガイドラインを活用していただきたいと思います。また、本文記載内容には法規範の性格はなく、法的な拘束力がないことをここに明記しておきます。
 最後に、日常診療、実務、研究、教育でご多忙の中、ボランティアとして本ガイドラインの策定に膨大な労力を割いていただいた作成委員、統括委員、編集委員の諸先生方に、心より感謝申し上げます。

2025年3月
死後画像読影ガイドライン2025年版 作成委員会委員長
福井大学学術研究院医学系部門 国際社会医学講座 法医学分野
教授 兵頭 秀樹


<死後画像読影ガイドライン2025年版 発刊にあたって>

 令和2年に施行された「死因究明等推進基本法」では、第十五条において、「死因究明のための死亡時画像診断の有用性に鑑み、死因究明に関係する者の間における死亡時画像診断を活用するための連携協力体制の整備その他の死因究明のための死体の科学調査の活用を図るために必要な施策を講ずる」(一部改編)と規定している。令和6年版の死因究明等推進白書によると、令和5年に全国の法医学教室で実施された死後画像撮影は12,310体であり、監察医務機関で実施された撮影が4,194体であることから法医・行政解剖機関で実施された死後画像撮影は16,504体となる。その他、医療機関等で実施されたものを含めると、本邦では多数の死後画像が死因究明等に利用されていることがわかる。しかし、死後に撮影された画像は、死後変化・死後修飾を受けるため、生体の時とは異なる所見が見られることがあり、放射線診断専門医であっても診断に苦慮することがあると聞く。さらに、各大学の法医学教室で実施された死後画像診断の読影は、放射線診断医によって診断されることは少なく、解剖医が直接診断している施設も多いと思われ、また、放射線診断専門医が在籍していない病院やクリニックでも実施されている。この状況を踏まえると、放射線診断専門医はもとより、死後画像診断に携わっている臨床医や解剖医に対して適切な参考書・ガイドラインが必要である。
 「死後画像読影ガイドライン」は平成27年に最初の版が世に出され、令和2年に改訂版が出版され、「死後画像読影ガイドライン2025年版」は、福井大学法医学分野教授の兵頭秀樹先生が中心となり改訂作業が進められた。編集・作成委員に多少の交代はあるが、初版から主要なメンバーに変更はなく、死後画像診断に造詣が深い放射線診断医と解剖医によって執筆されている。他のガイドライン同様、本ガイドラインもエビデンスレベルと推奨度(文献検索法)が明記されており、死後画像診断を学ぶには解剖所見との対比が欠かせないことから、死後画像と剖検写真とがわかりやすく配置されている。また、これまでの版と同様、臨床医になじみが薄い法医学用語についてもコラムの形式での紹介もある。
 死因究明に死後画像診断は非常に有用であり必須の検査であることは言うまでもないが、本書を通して解剖診断も欠かすことができないことを理解していただきたいと考える。

2025年3月
新潟大学大学院医歯学総合研究科 法医学分野・死因究明教育センター
教授 高塚 尚和