がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 4 がん患者における気持ちのつらさガイドライン 2024年版

がん患者の精神心理的苦痛の緩和に関する、本邦初の指針

編 集 日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会
定 価 3,850円
(3,500円+税)
発行日 2024/09/30
ISBN 978-4-307-10209-4

B5判・356頁

在庫状況 あり

現在のがん医療では、がんの診断や治療の過程で患者に生じる精神心理的苦痛の緩和も重要な課題とされている。本ガイドラインでは、そのような「気持ちのつらさ」の緩和に関する9件の臨床疑問を設定し、推奨と解説を提示した。総論の章ではがん患者における気持ちのつらさの定義や疫学、評価法、薬物療法・非薬物療法などに関する知見を包括的に解説した。
明日からの臨床に役立つことを目指した、充実した内容の一冊。


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I章 はじめに
 1 ガイドライン作成の経緯と目的
  1.ガイドライン作成の経緯
  2.ガイドラインの目的
 2 ガイドラインの使用上の注意
  1.使用上の注意
  2.構成とインストラクション
 3 エビデンスの確実性(質・強さ)と推奨の強さ
  1.エビデンスの確実性(質・強さ)
  2.推奨の強さ
  3.推奨の強さとエビデンスの確実性(強さ)の臨床的意味


II章 総論
 1 がん医療における「気持ちのつらさ」の位置づけ
 2 気持ちのつらさの定義と症状
  1 「がん患者における気持ちのつらさ」の定義
  2 気持ちのつらさの症状
   1.気持ちのつらさの症状の概略
   2.抑うつ・うつ病
   3.不安
   4.適応障害
   5.睡眠症状
   6.再発恐怖
   7.がん患者における精神医学的診断の留意事項
   8.アルコール、薬物の問題
   9.その他の精神障害
 3 がん医療における気持ちのつらさの疫学と重要性
   1.気持ちのつらさの頻度と影響
   2.再発恐怖の評価と影響
   3.自殺・希死念慮の頻度、リスク因子
 4 気持ちのつらさの背景
  1 気持ちのつらさに関連する要因(心理モデル)
  2 病期・各治療段階など、各場面に特有の気持ちのつらさと対応の考え方
   1.診断直後
   2.治療中
   3.再発・根治不能の告知とその後
   4.終末期
   5.遺伝子診断・遺伝カウンセリング
  3 世代や背景特有の問題と対応の考え方
   1.AYA世代
   2.高齢者
   3.家族
 5 気持ちのつらさの評価方法
   1.どういった時に気持ちのつらさの存在を考えるか
   2.スクリーニング
   3.問診法
   4.自己記入式評価尺度
   5.他の精神疾患との鑑別と必要な検査
   6.見立て(成育歴、心理社会的状況の評価など)
 6 「気持ちのつらさ」のケアの概略
 7 すべての医療者が実践すべき対応
   1.支持的なコミュニケーション
   2.包括的アセスメント
   3.気持ちのつらさに類似した医学的状況の除外
   4.家族への関わり方・連携
   5.専門家への依頼を考える時
 8 薬物療法
   1.気持ちのつらさに対する薬物療法の考え方
   2.がん患者を含む身体疾患患者の精神症状に対する薬物療法
   3.抗うつ薬
   4.抗不安薬
   5.睡眠薬
   6.その他(抗精神病薬など)
 9 非薬物療法
  A 精神療法(心理療法、サイコセラピー)
  1 がん患者の気持ちのつらさに対する精神療法
  2 具体的なアプローチ
   1.リラクセーション法
   2.支持的精神療法
   3.がん患者に対する問題解決療法
   4.精神分析的・精神力動的精神療法
   5.認知行動療法
   6.行動活性化療法
   7.アクセプタンス&コミットメント・セラピー
   8.マインドフルネス
   9.がん患者における集団精神療法
   10.ディグニティセラピー
   11.回想法・ライフレビュー
   12.CALM
   13.Meaning-centered Psychotherapy
   14.IoT を用いた精神療法
  B その他の介入
   1.協働的ケア
   2.早期からの緩和ケア
   3.家族介入
   4.がんピアサポート
 10 チーム医療
   1.多職種の連携と分担
   2.看護師の関わり
   3.心理士の関わり
   4.病院管理者の立場からみた病院組織としての関わり


III章 臨床疑問
 臨床疑問1
  閾値以上の気持ちのつらさを有する成人がん患者に対して、
  気持ちのつらさの軽減を目的として、抗不安薬を投与することは推奨されるか?
 臨床疑問2
  閾値以上の気持ちのつらさを有する成人がん患者に対して、
  気持ちのつらさの軽減を目的として、抗うつ薬を投与することは推奨されるか?
 臨床疑問3
  閾値以上の気持ちのつらさを有する成人がん患者に対して、気持ちのつらさの軽減を
  目的として、精神療法(心理療法、サイコセラピー)は推奨されるか?
 臨床疑問4
  閾値以上の気持ちのつらさを有する成人がん患者に対して、
  気持ちのつらさの軽減を目的として、協働的ケアは推奨されるか?
 臨床疑問5
  閾値以上の気持ちのつらさを有する成人がん患者に対して、気持ちのつらさの軽減を
  目的として、早期からの専門的緩和ケア(進行・再発のがんと診断された患者に対する
  早期からの専門的緩和ケアサービスによる包括的ケア)は推奨されるか?
 臨床疑問6
  閾値以上の気持ちのつらさを有する成人がん患者において、患者の気持ちのつらさの
  軽減を目的として、介護者に対する心理社会的介入は推奨されるか?
 臨床疑問7
  閾値以上の気持ちのつらさを有する成人がん患者に対して、
  気持ちのつらさの軽減を目的として、ピアサポートは推奨されるか?
 臨床疑問8
  成人がん患者に対して,再発恐怖の軽減を目的として、
  精神療法(心理療法、サイコセラピー)は推奨されるか?
 臨床疑問(背景疑問)9
  再発恐怖を有する成人がん患者に対して、
  精神療法(心理療法、サイコセラピー)以外に有効な介入方法はあるか?


IV章 ガイドライン作成過程と今後の課題
 1 本ガイドラインの作成過程
   1.概要
   2.臨床疑問の設定
   3.システマティックレビュー
   4.妥当性の検証
   5.日本サイコオンコロジー学会、日本がんサポーティブケア学会の承認
 2 今後の検討課題
   1.今回の版で対応しなかったこと
   2.総論などで取り扱うことを検討する必要があること
   3.臨床疑問や推奨について、今後さらに検討が必要なこと
   4.新たな臨床疑問に設定することが望ましいテーマ

 索引

Column
コラム1 スピリチュアルペイン
コラム2 身体的問題/精神的問題の鑑別:痛み、食欲不振、倦怠感など
コラム3 身体的苦痛への精神心理的側面による修飾・関与
コラム4 ケミカル・コーピング
コラム5 早い死を願うがん患者の評価と対応
コラム6 気持ちのつらさと発達障害
コラム7 気持ちのつらさと倫理
コラム8 運動(身体活動)の抑うつ症状に対する効果
コラム9 セルフマネージメント
コラム10 補完代替療法(CAM):ヨガ、鍼灸、その他
コラム11 医療者カンファレンス(多職種カンファレンス)の開催方法
発刊にあたって

 "がんと診断された患者の気持ちのつらさはどのようなもので、どのような支障があり、どのようにケアを提供しなければいけないのか"、という命題は1970年代にサイコオンコロジーという学問が発足した時から連綿と続く課題です。がん患者の気持ちのつらさは、診断直後から治癒後、もしくは終末期まで続き、時に精神医学的診断がつくレベルの負担であり、患者のみならず家族にとっても問題であるなどということが研究により明らかになっています。このような気持ちのつらさにどう対応すればよいかの問題には、がん診療にかかわる医療者、がん患者・家族自身それぞれが日々直面しています。
 日本サイコオンコロジー学会は、日本がんサポーティブケア学会と協力して、Minds診療ガイドライン作成マニュアルに基づくガイドライン作成を進めており、これまでせん妄、遺族ケア、コミュニケーションのガイドラインを発刊してきました。「気持ちのつらさ」はサイコオンコロジーにとっても最も重要なテーマの一つとして、4本目のガイドラインです。
 うつ病など精神疾患に対する診療ガイドラインは各種発刊されていますが、がんという大きなストレスにさらされ続けている患者の通常反応を含む心理状態にどのように対応するかの知見は様々です。十分とはいえないまでも幅広い研究があり、個人が日々勉強するだけでは網羅することができません。このガイドラインの一つの役割は、体系的な文献レビューと気持ちのつらさへの効果を含めた包括的な議論をもとに、現状で役立てるべき介入を明らかにすることです。そしてこれらを明らかにしたその次の課題は、推奨される介入について、それを必要とするがん患者に提供できるような医療体制をつくること、介入技法をもったサイコオンコロジスト育成などです。もう一つの役割は、明らかになっていないことを示し、今後の研究課題を提案することです。まだどのような介入が役立つか明らかになっていない状態のつらさを抱えた患者さんに光を届けられるよう、新たな研究開発を行わなければいけません。
 本ガイドラインは、気持ちのつらさに対する現状での最善の推奨を示すとともに、今後の気持ちのつらさへの対策を考える出発点でもあります。がんに伴う気持ちのつらさに苦しむ患者、家族のつらさをやわらげ、よりよい人生を送るための一助になることを願い、日本サイコオンコロジー学会としてはさらなる努力を続けていきます。

2024年8月
一般社団法人 日本サイコオンコロジー学会
代表理事 秋月 伸哉



 日本がんサポーティブケア学会(JASCC)は2015年に設立され、「がん医療における支持医療をその教育、研究、診療を通して確立し、国民の福祉(Welfare)に寄与する」ことをビジョンとして掲げております。これらを達成するためのミッションには、「適切ながん支持医療の普及・促進」「標準治療の情報発信」「医療従事者・患者・その家族の教育」「国内外のがん関連の学術団体との連携」を含めており、本学会において、支持医療に関するガイドライン・ガイダンスの発信は、極めて重要な事業となります。
 既に、15の書籍を発刊済みではありますが、この中の5 つは他団体との共同編集となっております。特に、日本サイコオンコロジー学会とは、「がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ」として、3つの書籍を共同編集させていただいており、本書は、このシリーズの4番目の書籍となります。また、JASCCは、その学術的な活動母体として17の部会を設置しており、その中の、藤森麻衣子先生、内富庸介先生を中心とするサイコオンコロジー部会が、本書の作成に関わらせていただきました。
 さて、エビデンスに基づくガイドラインとしては、本書中盤以降の?章の9つの臨床疑問がその本体となります。支持医療の多くの分野は、客観的なエンドポイントの設定が難しく、高いエビデンスの臨床試験を実施することは、困難を極めます。結果として、十分なエビデンスの確実性に基づく推奨ができない項目が多数を占めることになります。ただ、そのような状況であるからこそ、支持医療にはエビデンスを超えた診療が必要であり、本書は、それを行う上での現状を、正確・客観的に把握していただくために、最も役にたつ成書の一つではないかと考えております。また、本書の?章には、がん医療における「気持ちのつらさの位置づけ」からチーム医療まで、がん患者さんの気持ちのつらさを知り判断する上での基本事項が網羅されており、本書をご理解いただく上で、最も重要な部分となっておりますので、ぜひご通読いただけますと幸いです。
 最後に、評価が困難ですが非常に重要な指標である「がん患者の気持ちのつらさ」に関して、現状が包括的かつ客観的にまとめられた本書の作成に関わった方々に感謝いたします。

2024年8月
一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会
理事長 山本 信之