進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン 2023年版 第3版
がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版:改訂改題
対象疾患をがんと非がん進行性疾患として、7年ぶりに改訂
編 集 |
日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会 |
定 価 |
2,860円 (2,600円+税) |
発行日 |
2023/06/20 |
ISBN |
978-4-307-10219-3 |
B5判・208頁・図数:71枚
旧版『がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版』を7年ぶりに改訂。がんのみならず、非がん疾患に対する緩和ケアも求められている現状をふまえ、今版では対象疾患をがんおよび非がん進行性疾患として、内容を刷新した。非薬物療法はすべての進行性疾患患者を、薬物療法はがん患者を対象とし、呼吸器症状のなかから「呼吸困難」への対応のみに絞って臨床疑問を設定した。背景知識の章では、非がん進行性疾患の呼吸困難に対する薬物療法の解説などが追加され、さらに充実した内容の一冊となっている。
鎮静に関するよくある質問
I章 はじめに
1 ガイドライン作成の経緯と目的
1.これまでのガイドライン作成・改訂の経緯(2011年版、2016年版)
2.2023年版改訂の経緯
3.ガイドラインの目的
4.2023年版における主な改訂点
2 ガイドラインの使用上の注意
1.使用上の注意
2.構成とインストラクション
3.他の教育プログラムとの関係
3 作成過程
1.概要
2.臨床疑問の設定
3.系統的文献検索
4.推奨文の作成
5.推奨文の確定
6.日本緩和医療学会の承認
4 推奨の表現(推奨の方向、強さ、エビデンスの確実性)
1.推奨の方向
2.推奨の強さ
3.エビデンスの確実性
4.推奨の強さとエビデンスの確実性の臨床的意味
5 用語の定義と概念
II章 背景知識
1 呼吸困難のメカニズム
1.呼吸の調節機構
2.呼吸困難の発生
2 呼吸困難の原因
1.呼吸困難の原因
3 呼吸困難の評価
1.呼吸困難の評価尺度
2.医療従事者による呼吸困難の評価
3.身体所見と検査
4 がん患者の呼吸困難に関連する特定病態
1.胸水
2.がん性リンパ管症
3.上大静脈症候群
4.主要気道閉塞(major airway obstruction;MAO)
5 呼吸困難以外の呼吸器症状
1.咳嗽
2.死前喘鳴
3.血痰・喀血
6 呼吸困難に対する非薬物療法
1.酸素療法
2.高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula oxygen;HFNC)
3.送風療法
4.看護ケア
5.呼吸リハビリテーション
6.心理療法
7 呼吸困難の治療に使用する薬剤
1.オピオイド
2.オピオイド以外の薬剤
8 非がん進行性疾患の呼吸困難に対する薬物療法
1.COPD/間質性肺疾患患者の呼吸困難に対する症状緩和薬物療法
2.心不全患者の慢性呼吸困難に対する症状緩和薬物療法
3.筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の呼吸困難に対する症状緩和薬物療法
III章 推奨
●推奨の概要
1 進行性疾患患者の呼吸困難に対する非薬物療法
臨床疑問1-1 安静時低酸素血症があり呼吸困難を有する進行性疾患患者に対して、酸素吸入を行うことは呼吸困難の緩和に有用か?
臨床疑問1-2 安静時低酸素血症がない、または軽度にとどまるが呼吸困難を有する進行性疾患患者に対して、酸素吸入を行うことは呼吸困難の緩和に有用か?
臨床疑問2 低酸素血症があり呼吸困難を有する進行性疾患患者に対して、高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula oxygen;HFNC)を行うことは呼吸困難の緩和に有用か?
臨床疑問3 呼吸困難を有する進行性疾患患者に対して、送風療法(顔への送風)を行うことは有用か?
2 がん患者の呼吸困難に対する薬物療法
臨床疑問4-1 呼吸困難を有するがん患者に対して、モルヒネ全身投与は有用か?
臨床疑問4-2 呼吸困難を有するがん患者に対して、オキシコドン全身投与は有用か?
臨床疑問4-3 呼吸困難を有するがん患者に対して、ヒドロモルフォン全身投与は有用か?
臨床疑問4-4 呼吸困難を有するがん患者に対して、フェンタニル全身投与は有用か?
臨床疑問4-5 呼吸困難を有するがん患者に対して、モルヒネ吸入は有用か?
臨床疑問5-1 呼吸困難を有するがん患者に対して、ベンゾジアゼピン系薬の単独投与は有用か?
臨床疑問5-2 呼吸困難を有するがん患者に対して、ベンゾジアゼピン系薬をオピオイドに併用することは有用か?
臨床疑問6-1 呼吸困難を有するがん患者に対して、コルチコステロイドの全身投与は有用か?
臨床疑問6-2 がん性リンパ管症による呼吸困難を有するがん患者に対して、コルチコステロイドの全身投与は有用か?
臨床疑問6-3 上大静脈症候群による呼吸困難を有するがん患者に対して、コルチコステロイドの全身投与は有用か?
臨床疑問6-4 主要気道閉塞(major airway obstruction;MAO)による呼吸困難を有するがん患者に対して、コルチコステロイドの全身投与は有用か?
IV章 今後の検討課題
1.推奨項目について
V章 資料
1 臨床疑問の設定
2 文献検索式
3 ガイドライン作成者と利益相反
索引
発刊にあたって
日本緩和医療学会では、症状緩和ガイドラインのひとつとして2009年から呼吸器症状の緩和ケアに関するガイドラインの作成に取り組んできており、今回のガイドラインは2011年版、2016年版に次ぐ第3版のガイドラインになります。
この15年で緩和医療を取り巻く環境は大きく変わってきました。がん医療に携わる医師に対する基本的な緩和ケア研修プログラムPEACE の受講修了者は15万人を超え、オピオイド使用に対するバリアも以前に比べて少なくなってきていることを実感します。また、がん診療連携拠点病院では、病棟や外来で症状のスクリーニングが実施され、基本的な緩和ケアで緩和されない苦痛に対しては、緩和ケアチームによるコンサルテーション診療を利用することができるようになっています。それでも、対応が難しい症状の代表的なものが呼吸困難であると言うことができると思います。
そのような中で、2018年から山口崇呼吸器症状ガイドライン改訂WPG員長のもと、WPG員を中心に多くの執筆者、Systematic Reviewグループメンバー、レビュワーがMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017、2020に則って努力を重ね、関連学会代表者、患者会代表者にご参画を得て、総力を挙げて本書が作成されました。本ガイドラインには、この7年間に公表されたエビデンスが反映されているほか、大きな改訂が行われています。ガイドラインの名称が、「がん患者の呼吸器症状の緩和」から、「進行性疾患患者の呼吸困難の緩和」に変わっていることに注目してください。推奨に関しては、「呼吸困難への対処」に絞ってこのガイドラインは作成されています。また、非薬物療法の推奨に関しては、対象疾患を「がん、並びに非がん進行性疾患」としています。この努力は特筆に値するものだと思います。緩和ケアの対象疾患は今後急速に拡大することが期待されており、循環器疾患、呼吸器疾患で頻度の高い呼吸困難への対応は、疾患を問わず求められることであるからです。
本ガイドラインがわが国の緩和医療・ケアを支える医療従事者にとって、呼吸困難への対応をナビゲートする海図としての役割を果たし、患者のQOL向上の一助となることを切に願い、巻頭の言葉とさせていただきます。
2023年5月
特定非営利活動法人 日本緩和医療学会
理事長 木澤 義之