がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ 1 がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版

がん診療の現場で役立つ、せん妄に関する指針を3年ぶりに改訂!

編 集 日本サイコオンコロジー学会 / 日本がんサポーティブケア学会
定 価 3,300円
(3,000円+税)
発行日 2025/09/20
ISBN 978-4-307-10228-5

B5判・264頁

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せん妄はがん医療の現場において高頻度で認められる病態であり、超高齢社会を迎えた日本では今後さらに、せん妄の予防と対策が重要となる。今版では、予防ではラメルテオンとオレキシン受容体拮抗薬に関する臨床疑問を、症状緩和では抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬・抗ヒスタミン薬の併用に関する臨床疑問を追加した。また総論の章には、臨床現場で重要となるアルコール離脱せん妄や術後せん妄をはじめとした7項目の解説が新たに追加されている。
I章 はじめに
 1 ガイドライン作成の経緯と目的
  1.ガイドライン作成の経緯
  2.ガイドラインの目的
 2 ガイドラインの使用上の注意
  1.使用上の注意
  2.構成とインストラクション
 3 エビデンスの確実性(質・強さ)と推奨の強さ
  1.エビデンスの確実性(質・強さ)
  2.推奨の強さ
  3.推奨の強さとエビデンスの確実性(強さ)の臨床的意味


II章 総論
 1 がん医療におけるせん妄
  1.せん妄とは何か
  2.がん患者におけるせん妄の頻度
  3.せん妄に関連した国内の対策の動向
  4.せん妄によるさまざまな影響
  5.がん患者におけるせん妄の特徴
 2 せん妄の評価と診断・分類
  1.せん妄の診断基準
  2.せん妄の分類
  3.鑑別診断
  4.せん妄の原因
  5.せん妄の評価方法
  6.がん終末期せん妄の評価
 3 せん妄の病態生理
  1.はじめに
  2.神経伝達物質の変化
  3.アセチルコリン
  4.ドパミン
  5.グルタミン酸
  6.ノルアドレナリン
  7.γ-アミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid:GABA)
  8.セロトニン
  9.メラトニン
  10.神経炎症
  11.グルココルチコイド
  12.酸化ストレス  
 4 せん妄の治療・ケア
  1.薬物療法
  2.非薬物療法
 5 終末期せん妄の治療とケアのゴール
  1.終末期せん妄とは
  2.終末期せん妄の苦痛や治療・ケアの望ましい評価とは
 6 病院の組織としてせん妄にどのように取り組むか
  1.せん妄に対する、組織的な対応の必要性について
  2.施設を挙げての取り組みの一例:DELTAプログラムの開発
 7 アルコール離脱せん妄とその治療
  1.アルコールとがん
  2.アルコール離脱せん妄とは
  3.アルコール離脱せん妄の評価
  4.アルコール離脱せん妄の治療
 8 術後せん妄
  1.がん患者における術後せん妄
  2.周術期神経認知障害
  3.術後せん妄のマネジメント
  4.超高齢社会におけるがん外科治療と術後せん妄の位置づけ
 9 がん患者における低活動型せん妄
  1.がん患者の低活動型せん妄の頻度
  2.がん患者の低活動型せん妄の原因
  3.がん患者の低活動型せん妄の症状
  4.がん患者の低活動型せん妄の問題点
  5.がん患者の低活動型せん妄の同定
  6.がん患者の低活動型せん妄の鑑別疾患
  7.がん患者の低活動型せん妄に対するマネジメント
 10 身体拘束に関する考え方
  1.はじめに
  2.身体拘束の実態
  3.身体拘束の問題の背景にあるもの
  4.現場における葛藤と課題
  5.身体拘束最小化のための多職種アプローチ
  6.法的・倫理的視点からの再構築
  7.おわりに
 11 認知症に重畳するせん妄
  1.はじめに
  2.認知症に重畳するせん妄の頻度
  3.認知症に重畳するせん妄の問題点
  4.認知症に重畳するせん妄のリスク因子
  5.認知症に重畳するせん妄の評価
  6.対応の基本
 12 せん妄とがん疼痛が合併した患者の治療とケア
  1.はじめに
  2.せん妄とがん疼痛が合併した患者の臨床像、全身状態、せん妄の可逆性
  3.せん妄とがん疼痛が合併した場合の痛みの評価
  4.せん妄が可逆性と判断した場合
  5.せん妄が可逆性か判断できない場合
  6.せん妄が不可逆性で終末期せん妄と判断した場合
 13 在宅におけるせん妄診療の特徴や課題
  1.介護者の心理的負担
  2.薬剤投与経路の制限
  3.在宅医療従事者のせん妄診療に対する困難感
  4.在宅療養継続の可能性
  5.在宅におけるアルゴリズム開発
  6.アルゴリズム・レジメンの特徴


III章 臨床疑問
 臨床疑問1
  がん患者に対して、せん妄の発症予防を目的に非薬物療法を行うことは推奨されるか?
 臨床疑問2
  がん患者に対して、せん妄の発症予防を目的に抗精神病薬を単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問3
  がん患者に対して、せん妄の発症予防を目的にラメルテオンを単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問4
  がん患者に対して、せん妄の発症予防を目的にオレキシン受容体拮抗薬を単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問(背景疑問)5
  がん患者のせん妄の評価において、推奨される方法には、どのようなものが挙げられるか?
 臨床疑問(背景疑問)6
  がん患者のせん妄には、どのような原因(身体的要因・薬剤要因)があるか?
 臨床疑問7
  せん妄を有するがん患者に対して、せん妄の症状軽減を目的として、抗精神病薬を単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問8
  せん妄を有するがん患者に対して、せん妄の症状軽減を目的として、トラゾドンを単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問9
  せん妄を有するがん患者に対して、せん妄の症状軽減を目的として、ヒドロキシジンを単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問10
  せん妄を有するがん患者に対して、せん妄の症状軽減を目的として、ベンゾジアゼピン系薬を単独で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問11
  せん妄を有するがん患者に対して、せん妄の症状軽減を目的として、抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬を併用で投与することは推奨されるか?
 臨床疑問12
  せん妄を有するがん患者に対して、せん妄の症状軽減を目的として、抗精神病薬と抗ヒスタミン薬を併用投与することは推奨されるか?
 臨床疑問13
  せん妄を有するオピオイド投与中のがん患者に対して、せん妄の症状軽減を目的として、オピオイドスイッチングを行うことは推奨されるか?
 臨床疑問(背景疑問)14
  せん妄を有するがん患者に対して、せん妄の症状軽減を目的として推奨される非薬物療法には、どのようなものが挙げられるか?
 臨床疑問(背景疑問)15
  がん患者の終末期のせん妄に対して、せん妄の症状軽減を目的として推奨されるアプローチには、どのようなものが挙げられるか?


IV章 臨床の手引き
 せん妄薬物療法の手引き
  1.せん妄治療における薬物療法の位置付け
  2.本手引きについて
  3.がん患者におけるせん妄の薬物療法についての基本的な考え方
  4.せん妄で用いる各薬物の選択理由と特徴(長所・短所)についての基本的な考え方


V章 資料
 1 ガイドライン作成過程
  1.概要
  2.臨床疑問の設定
  3.システマティックレビュー
  4.妥当性の検証
  5.日本サイコオンコロジー学会、日本がんサポーティブケア学会の承認
 2 今後の検討課題
  1.今回のガイドラインでは、対応しなかったこと
  2.推奨について、今後の検討が必要なこと
 3 用語集


 主要な抗精神病薬一覧
 患者・家族へのせん妄説明パンフレット
 患者・家族へのせん妄説明パンフレット(終末期)
 Delirium Rating Scale-Revised-98
 略語表 
 既刊の序文・委員一覧
 索引
発刊にあたって

 せん妄は入院がん患者に最も多く認められる精神症状です。高齢者医療、がん治療の複雑化が進む昨今において、適切にがん診療を行い、苦痛を緩和し、安全と尊厳を守るため、せん妄の予防、適切な介入の重要性は増しています。
 日本サイコオンコロジー学会は、日本がんサポーティブケア学会と協働し、2019年に「がん患者におけるせん妄ガイドライン」を発刊しました。ガイドラインはその時点での最善の診療、ならびに知見の限界を明らかにすることが役割であり、発刊後の普及・臨床実装や必要に応じて不明な点を明らかにする研究を行うことが重要です。2019年の発刊後、ガイドライン作成グループはガイドラインを実臨床で活用するためのワークショップなどを通じて普及に努めてきました。またその過程で新たな臨床疑問を検討し、不足している知見について臨床研究を行いました。その結果がこの度発刊された第3版に反映されています。ガイドラインは発刊された日から古くなっていきますが、このように普及・実装と改訂のプロセスを繰り返すことで生きたガイドラインとなるのだと感じます。
 また総論パートでは、従来のテーマに加え、新しく「身体拘束に関する考え方」「認知症に重畳するせん妄」「せん妄とがん疼痛が合併した患者の治療とケア」「在宅におけるせん妄診療の特徴や課題」など、がん患者の診療に特徴的であり、頻度が高く複雑なテーマについて加筆されています。単純な答えのあるテーマではありませんが、臨床場面での困難を整理するための一助となることを期待します。
 発刊にあたり、日本サイコオンコロジー学会ガイドライン策定委員会の皆様をはじめ、様々な視点からご意見を下さった関連学会の有識者の皆様、当事者の視点から重要な示唆を下さった患者団体の方々には、心より御礼を申し上げます。
 「がん患者におけるせん妄ガイドライン2025年版」が、これまで以上にせん妄に対応する医療従事者の皆様のせん妄への理解や、最適な治療に寄与し、ひいてはがん患者、家族のQOL向上に役立つことを祈念し、巻頭言といたします。

2025年8月
一般社団法人 日本サイコオンコロジー学会
代表理事 秋月 伸哉


 「がん患者におけるせん妄ガイドライン2025年版」が日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会との共同編集で発刊されることになりました。前版からおよそ3年ぶりの改訂となります。
 我々、日本がんサポーティブケア学会は、2015年に設立された比較的新しい学会です。そのビジョンは、支持医療を通じてがんに伴う苦しみのない社会を目指すことであり、ミッションとして、がん医療における支持医療を向上させることを掲げております。これらの使命を遂行するために7つのバリューを設定しており、それを実現するために17の部会、11のワーキンググループが活動しております。その中のサイコオンコロジー部会が、本ガイドライン作成に深くかかわっております。
 せん妄は、がん患者において頻繁に見られる精神的・身体的な症状であり、患者本人およびその家族にとって大きな負担をもたらします。この状態は、急性の注意力や認知機能の変化を特徴とし、多くの場合、それに伴う混乱や不安が生じます。また、がん治療の過程や進行状況、痛み管理、薬物の副作用、さらには身体的ストレスに起因することが多い症状です。
 本ガイドラインは、このようにがん患者に対して大きな不利益を与えるせん妄について、その定義、診断、病態生理の説明から、マネジメントについて詳しく記述されております。主に医療従事者への支援に焦点を当てておりますが、在宅におけるせん妄についての項目もあり、患者やそのご家族等にも参考になる内容が含まれております。
 せん妄の適切なマネジメントは、患者の生活の質を向上させるだけでなく、治療結果の改善にも寄与します。医療従事者にとっては、せん妄を早期に認識し、適切に対処する能力が求められますし、患者家族には、患者の状況を理解し、適切な対応を行うための情報やサポートが必要です。
 本ガイドラインが、医療従事者、患者、そしてその家族がせん妄に対して包括的かつ協力的なアプローチを取れるための道しるべとなることを期待いたします。

2025年8月
一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会
理事長 山本 信之