現代精神医学定説批判
ネオヒポクラティズムの眺望
著 |
八木 剛平 |
定 価 |
6,270円 (5,700円+税) |
発行日 |
2005/10/11 |
ISBN |
978-4-307-15060-6 |
B5変判・202頁・図数:20枚
本書は『精神分裂病の薬物治療学−ネオヒポクラティズムの提唱』(1993),『精神病治療の開発思想史−ネオヒポクラティズムの系譜』(1999)に続く著者渾身のネオヒポクラティズム3部作の最終作である。
自然治癒力の科学的解明とその治療的応用をめざしたもので,今回は著者の日常診療で最もなじみの深い統合失調症とうつ病を通じて,現代日本の精神医学界に普及している5つの定説(専門家の社会で正しいと広く認められている学説)または通説(世間で普通に認められている考え)について,それぞれ違った見かたや考えかたもあることを示した。
おもな内容
●クロルプロマジンは「偶然の発見」か
−発病論的治療観の桎梏
現代精神医学の治療観
モーラル・トリートメントの復権
その起源と背景/その原理/その盛衰/日本におけるモーラル・トリートメント/モーラル・トリートメントの現代的意義
20世紀に廃れた治療と残った治療
マラリア発熱療法からショック療法へ/ロボトミーと精神分析療法―その発想の共通点
クロルプロマジンと侵襲後振動反応
クロルプロマジン開発の経緯/疾病モデルとしての侵襲後振動反応/侵襲後振動反応の精神医学的意義
●統合失調症は原発性の脳疾患か
脳病説の現状 脳病説の歴史−「心の病気」におけるその功罪
近代医学における「脳の病気」と「心の病気」/「脳の病気」の解明/「病人の心」の理解/「心の病気」の心因論から「病人の脳」の生物学へ
現代版・脳病説の検証
二症候群仮説と神経発達障害仮説―過程モデルから発病モデルへ/ドーパミン仮説―発病論から回復論へ
日本における統合失調症の理解
脳病説の輸入/経験二元論/精神医学の「基本問題」とは何か/精神病理学の再出発
統合失調症は「脳の病気」か「心の病気」か
脳病説の日本的特徴/「脳の医学」と「心の医学」−その接点をめぐって/「体の病気」と「心の病気」−二分法の解体をめぐって/“Schizophrenie”概念(E.ブロイラー)とその発展/脳病化の終焉−脳科学への期待
●うつ病は治療で治るのか
−回復モデルとしてのうつ病から学ぶこと
現在,うつ病はどのように理解されているか
「治る病気」としての啓蒙活動/「治る病気」から「治す病気」へ
うつ病経験者の手記から何を学ぶか
うつ病者の疾病認識と「底力」/自殺をめぐる自動思考・自問自答と他者の役割/うつ病からの回復契機と治療体験
いわゆる生物学的知見をどうみるか モノアミン仮説はなぜ暗礁に乗りあげたか/生化学的異常は「悪玉」か「善玉」か/うつ病回復の脳画像/治療はどの程度まで効くのか/うつ病における自然治癒力―養生と治療
病気とは何か
うつ病は「適応adaptation」の一つか/「うつ」をめぐる正常(normal)と病理(pathologique)/生活概念としての「病気」は生物概念としての「疾患」に還元されるか
●“Bio-Psycho-Social”階層モデルは普遍的か
−伝統医学的治療と比較文化精神医学から学ぶこと
治療の進化と階層化
先進国における伝統医学的治療/近代医学的治療
伝統的社会と近代的社会の統合失調症 先進国と途上国における長期予後/都市と農村における発病危険性/結論−“Spiritual-Natural-Socio-Psycho-Biological”医療階層モデルの提出
●日本は精神医療の後進国か
「二重の不幸」説の氾濫・過熱とその背景 呉秀三の精神医療史観
処刑と投獄/恐怖と苦痛/病院改革と無拘束運動/日本の近代精神医療史
日欧米精神医療史の再検討
19世紀後半から20世紀前半まで―治療ニヒリズムとアクティビズム/20世紀後半からの動向―脱入院化とノーマライゼーション
21世紀・日本精神医療の課題
いわゆる先進国の脱入院化は何をもたらしたか/日本の脱入院化はどこへ向かうのか/日本は精神医学のグローバル化をどう迎え撃つか