うつ病のTMS療法

副作用が極めて少なく薬物療法に反応しないうつ患者さんに朗報!!

編 著 鬼頭 伸輔
著 者 長谷川 崇 / 高宮 彰紘
定 価 4,400円
(4,000円+税)
発行日 2016/07/10
ISBN 978-4-307-15072-9

B5判・104頁・図数:45枚・カラー図数:14枚

在庫状況 あり

わが国では薬物療法抵抗性うつ病患者は推計30万人いるとされおり、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)により非侵襲的に大脳皮質を刺激することで症状が寛解する可能性が高く、かつ副作用は極めて少ない。また抗うつ薬の副作用により十分量を投与できない患者に対しても有用であると期待されている。rTMSの施行には、相応の知識と技術の習得が不可欠で、実践法を一般臨床医に向けて解説し、臨床現場で使えるプラクティカルな情報をまとめたガイド。
第1章 TMSの位置づけ
1. 脳刺激法としてのTMS
 A 侵襲的脳刺激
 B 非侵襲的脳刺激
 C けいれん療法
2. 抗うつ療法としてのTMS

第2章 TMSの歴史と現況
1. TMSの原理
2. TMSの歴史
3. TMSの現況

第3章 rTMSとうつ病治療
1.rTMSの抗うつ機序
 A 脳血流・脳代謝とうつ病
 B うつ病と神経画像
 C rTMSと機能的結合
2.rTMSの刺激条件
3.rTMSの有効性
 A 抗うつ効果の評価
 B 薬物療法との比較
 C 抗うつ効果の現状

第4章 rTMSの実際
1.適応と禁忌
 A rTMSに治療反応性を示す患者の臨床的特徴
 B 磁気刺激法の安全性
2.有害事象
 A 疼痛
 B けいれん
 C 手指の筋収縮
3.問診すべき事項など

第5章 rTMSの手順
1.rTMSによるうつ病治療の手順
2.刺激部位と刺激強度の決め方−APBを基準とした5cm法
 A 刺激部位の決め方
 B 刺激強度の決め方

第6章 症例
1. うつ病の再燃後に反復経頭蓋磁気刺激が奏効し復職が可能となった症例
2. 反復経頭蓋磁気刺激が奏効し自動車の運転業務が可能となった症例
3. 癌発症後のうつ病に低頻度反復経頭蓋磁気刺激が奏効した症例
4. 両側性の反復経頭蓋磁気刺激が奏効した症例
5. 反復経頭蓋磁気刺激ではなく電気けいれん療法を施行すべきだった症例
6. 電気けいれん療法の施行が困難であり反復経頭蓋磁気刺激により昏迷が改善した症例

第7章 応用編 Tips and Topics
1.うつ病に対する治療効果を高めることはできるのか
 A 背外側前頭前野という広い脳部位の中でより有効性の高い部分はあるのか
 B 背外側前頭前野以外の部位への刺激は有効か
 C 脳深部への刺激は有効か
2.rTMSのうつ病に対する治療時間は短縮できるのか
 A 1回のセッションを40分より短くすることができるのか
 B 1コースにかかる期間を4〜6週間より短くすることができるのか
 C 急性期治療後に再燃・再発を防ぐためにTMSを用いることはできるのか
3.磁気けいれん療法

第8章 TMSの課題と展望
1.rTMSの治療中の薬物療法について
2.rTMSの治療期間について
3.右前頭前野への低頻度刺激について
 うつ病は、抑うつ気分、興味・関心の喪失を主症状とする疾患で、日本国内における患者数は100万人以上と推計される。自殺の誘因となるほか、就労や就学が困難となるため、うつ病がもたらす社会的損失は、きわめて大きく、より効果的な治療法の確立が切望されている。なかでも、うつ病治療の中心となる薬物療法に対して、約30%の患者は反応しないことが報告されており、このような治療抵抗性を示す患者への新規治療法の確立は喫緊の課題であり、経頭蓋磁気刺激が注目される理由の一つとなっている。
 経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)は、非侵襲的に脳を刺激することで、脳活動を変化させる技術である。規則的な刺激を連続して行うものを反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)という。海外では、2008年に薬物療法に反応しないうつ病患者への治療方法として認可されている。日本でも、2016年6月現在、薬物療法に反応しないうつ病患者に対して、rTMS療法が薬事承認審査中である。こうした現状をふまえると、近い将来、国内でも、rTMSが新規抗うつ療法として承認され、臨床現場に導入されていくことが予想される。
 rTMSの実施には、正しい知識と相応の技術の習得が必要である。しかし、国内では、臨床医を対象としたrTMSによるうつ病治療の実際の手順を解説した日本語の成書はないのが実情である。このような経緯から、臨床の現場でrTMSが使えるようにプラクティカルな側面からまとめたものが本書である。著者らのグループは、2003年からrTMSを応用したうつ病治療に取り組んでおり、日本でも先駆的な役割を果たしてきた。また、国内外の専門学会や医学雑誌にその成果を多数、発表しており、経験症例数も国内トップレベルである。本書は、これまでの経験から得られたノウハウを反映すべく企画した。
 最後に、臨床における治療の選択肢が広がることで、今後のうつ病治療の発展に少しでも寄与できれば幸いである。
平成28年6月
鬼頭 伸輔