小児アレルギーのトリセツ

「小児トリセツシリーズ」始動!アレルギー診療をマスターせよ

監 修 笠井 正志
編 集 岡藤 郁夫
著 者 田中 裕也
定 価 3,960円
(3,600円+税)
発行日 2021/10/01
ISBN 978-4-307-17075-8

B6変判・240頁

在庫状況 あり

小児におけるアレルギー疾患は増加の一途をたどっている。今やアレルギー診療は小児医療にとってコモンスキルといえる。しかし、アレルギー診療は外来のなかで話を聞き、診察と鑑別を繰り返し、対応を考えるということを短時間に行わなければならない非常にタフな分野である。専門性の高い食物アレルギーや気管支喘息の長期管理などは専門医にお任せ、という医師も多いだろう。しかし「誰でも、アレルギーは診れる」。
本書は専門医ではないけれど、患者に相談されたときに的確に専門医レベルの対応ができるようになるためのマニュアルである。臨床で知りたいことがすぐわかる!「小児感染症のトリセツREMAKE」に続く、第一線・気鋭の単独著者による小児トリセツシリーズがついに始動。
「トリセツ」で小児科医療はもっと面白くなる。

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Chapter1 小児アレルギー診療の原則

1.こどものアレルギーを診るための基本事項
 1.なぜアレルギーを診るのか
 2.こどものアレルギーを診るときの大原則
 3.アレルギーの概念・病態・発症の機序(免疫とメカニズム)
  CoombsとGellの分類
  アレルギーマーチ
 4.アレルギーの診断
  問診
  アレルギー診療で用いる検査

2.こどものアレルギーに使う薬剤の基礎知識
 1.上手に薬を使いこなすための7ルール
  ルール1 新薬は「安全性」を確認し「エビデンス・使用感」を「短期間」でチェック
  ルール2 小出しにせず、徹底的に抑えてから減量(右)中止する
  ルール3 安定=減量/中止できないかを考える
  ルール4 いろいろな選択肢をもっておく
  ルール5 心に余裕をもつ
  ルール6 薬は患児が正しく使用してはじめて効果がある
  ルール7 薬の有効成分以外の要素も重要
 2.薬剤各論
  抗ヒスタミン薬
  ロイコトリエン受容体拮抗薬
  吸入薬
  外用薬
  点鼻薬
  点眼薬
 3.処方の実際


Chapter2 小児アレルギー診療の実践

1.アナフィラキシーをマスターする
 1.アナフィラキシーへの対応
  Step1 アナフィラキシーを認識する
  Step2 重症度を判定しアドレナリンを使うか判断する
  Step3 症状への対応
 2.初期対応後にするべきこと
  Step1 原因の評価
  Step2  再発防止の指導/症状出現時対応(エピペンRを処方するか)
 症例でレビューしよう!

2.気管支喘息をマスターする
 1.医療機関における急性増悪(喘息発作)の対応
  Step1  気管支喘息急性増悪の可能性を認識し、発作強度を判定する
  Step2  初期対応(酸素+気管支拡張薬)
  Step3  喘息急性増悪と診断し、治療を行う
  Step4  治療効果を判定し、方針(帰宅か入院)を決定する
 2.長期管理:二度と発作(入院)を起こさせない!
  重症度評価/長期管理薬決定
  具体的な患者指導
  外来での長期管理のフォローアップ

3.湿疹の診かた〜こどもの肌をツルツルにする
 1.湿疹をきれいにすること
  こどもによくあるきれいにすべき湿疹
  湿疹へのアプローチと鑑別疾患
 2.湿疹をきれいにするやり方:スキンケア+抗炎症剤外用が基本!
  スキンケアは「洗って保湿」がキーワード
  湿疹部には抗炎症外用剤(ステロイド外用剤、タクロリムス外用剤、
  デルゴシチニブ外用剤):「ツルツル、スベスベ」がキーワード
  アトピー性皮膚炎の重症度マーカー:TARC
 3.アトピー性皮膚炎で注意すべき合併症
  眼合併症
  伝染性膿痂疹
  カポジ水痘様発疹症
  伝染性軟属腫(水いぼ)
 症例でレビューしよう!

4.専門医へつなぐ食物アレルギー診療
 1.アウトライン
  分類・症状
  疫学・自然歴
  予知・予防
  検査
 2.乳児アトピー性皮膚炎(FA/AD)
 3.即時型の食物アレルギーの診療
  Step1 必要最小限の除去=食物アレルギーの正しい診断
  Step2 除去すべき食品の除去
  Step3 アレルギー症状出現時の対応
  Step4 他のアレルギー疾患のコントロール
  Step5 社会的対応
 4.経口免疫療法(OIT)
<食品別・食物アレルギーのトリセツ>
  卵
  牛乳
  小麦
  大豆
  甲殻類
  ピーナッツ
  ナッツ類
  魚卵
  魚
  軟体類:イカ、タコ、貝
  果物(花粉が関係しないもの)
  そば

5.鼻炎の診かた〜鼻水や鼻づまりを見たら、鼻を診る
 1.アレルギー性鼻炎をなぜ診る必要があるのか
 2.診断する
  典型的症状がある→感染症ではなくアレルギーっぽいか→季節性か通年性か
 3.重症度を決定する
  問診
  鼻内所見〜小児科医でも鼻の中をみる!
 4.対応
  介入するか決める
  感作を精査、抗原除去
  薬物療法

6.こどもの未来を変えるアレルゲン免疫療法
 1.アレルギーのこどもにアレルゲン免疫療法を行うことは正義である
  なぜ効くのか
  皮下免疫療法と舌下免疫療法
 2.舌下免疫療法の効果と安全性
  効果
  安全性
 3.舌下免疫療法の実際
  Step1 SLIT処方医になろう!
  Step2 対象/適応を考える
  Step3 SLITの説明+導入
  Step4 SLITの維持

7.薬剤による過敏反応
 1.薬疹と薬剤アレルギー
  即時型と遅延型を判断する
 2.重症薬疹の特徴〜皮膚科医以外が判断するために
  SJSとTEN
  DIHS
  そのほか
 3.即時型、軽症の薬疹(遅延型)への対応
  まず原因薬剤の中止、治療
  原因検索
 4.臨床でよく経験する薬剤〜抗菌薬、造影剤、解熱鎮痛薬、局所麻酔薬
  抗菌薬
  造影剤
  解熱鎮痛薬
  局所麻酔薬

8.アレルギーをもつこどもへの予防接種
 1.基本的な考え方
  注意事項:ステロイド薬による治療を受けている児
 2.食物アレルギー患者への予防接種
  インフルエンザワクチン
  その他のワクチン

9.花粉−食物アレルギー症候群(PFAS)
 1.特徴
 2.疫学
 3.診断
  病歴聴取/鼻の診察
  皮膚テストが有用
  食べてみる
  血液検査
 4.治療と患者への説明

10.蕁麻疹
 1.蕁麻疹の診断
  Step1 蕁麻疹と湿疹を区別し、蕁麻疹であると判断する
  Step2 問診で原因を調べる
  Step3 蕁麻疹の改善方法の提案
 2.蕁麻疹の治療

11.消化管アレルギー
 1.消化管アレルギーとは
 2.疾患概念の理解
  原因食品
 3.いつ疑って診断するのか
  出生〜離乳食開始まで
  離乳食開始以降
  血液検査
  診断
 4.診断後の対応
  消化管アレルギー管理のポイント
  治療乳選択のアルゴリズム
  消化管アレルギーにおける負荷試験
 症例でレビューしよう!

巻末資料1 筆者厳選の頻用アレルギー治療薬のトリセツ
巻末資料2 小児アレルギー診療に役立つウェブサイト
<トリセツ進化論>

─ この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ─ チャールズ・ダーウィン

 イケメン小児科医 田中裕也先生の「小児アレルギーのトリセツ」を上梓することができました。この本は、アレルギー疾患に悩める患者さんとその患者さんのマネジメントに悩める小児科医のための書籍です。
 アレルギー業界にはたくさんのガイドラインや書籍が出版されています。しかし、単著はほとんどありません。これはアレルギーという領域の広さを物語っていますが、逆に言うと俯瞰できる人材がいないことも物語っています。本書はアレルギー疾患に長年にわたり本気で向き合い、アレルギーで悩む患者さんに寄り添い続けてきた田中先生ならではのTipsが散りばめられています。そしてガイドラインとしても使えるくらい、システマティックに整理されています。イチからアレルギーに本気で取り組みたい人、しっかり本質をつかんで患者さんに向き合いたい方にこそ手に取っていただきたいです。
 私が2012年に初代トリセツ「小児抗菌薬と感染症のトリセツ」を上梓してから9年以上経過しました。小児感染症領域では、肺炎球菌ワクチンやHibワクチンが定期接種導入され、重症感染症が激減し、小児診療がよい方向に変化しました。そして2020年1月から流行したCOVID-19によって医療が「間に合わない」といううれしくない変化を経験しました。
 進化論では、変化に対応できる生き物が生き残るという有名なフレーズがあります。書籍も人が編み出す一種の「生き物」(生もの)です。現状のエビデンスだけに留まらない、もっとよくできるために変化することが大事です。トリセツは現状をもっとよく・もっとうまくいくように変化することを厭わない書籍です。そして、現場をよく知る教育的な医療者達が執筆していくシリーズに変化します。これからも引き続き、元気な著者達から、ちょっと変わった切り口やニッチな場から、続々とトリセツシリーズが誕生しますよ。お楽しみに。まずは本書をお楽しみあれ!

兵庫県立こども病院 感染症内科 部長
監修 笠井 正志


<小児アレルギーのトリセツプロジェクト、始動中!>

 田中裕也先生とは神戸市立医療センター中央市民病院で7年間一緒に仕事をしてきた。アレルギーはもちろん、一般小児から新生児まで幅広く診療しながら、当時国内ではあまり普及していなかったアレルゲン免疫療法も積極的に取り入れて、軽やかに仕事をしていた。そこから得た知見を国内外の学会で報告したり論文を書いたり、小児アレルギー関連のガイドライン作成の仕事にも関わっており、大活躍の小児科医である。ご自身の小児期の喘息での長期入院経験もあり、患者さんおよび保護者が何に困っているかを嗅ぎ取る嗅覚もある。ちょっと褒めすぎた。疲れていたらすぐに顔に出るわかりやすく単純なところもある。
 
 「アレルギーのトリセツ、作りたいんです」
 一昨年の夏、そう相談された。「ええやん」と私。そして、次に会ったときにはもうプロジェクトは始動していた。本書はそんな感じですごい勢いで仕上がっていった。
 笠井正志先生という頼もしい援助者にも支えていただけた。この本には、多くの小児科後期研修医との交わりを通して感じられたアレルギー初学者が見落としがちな重要なポイントが簡潔にまとめられている。当直中のフラフラな状態でも目の前の患者さんに基本的な診療ができるように、という田中先生の心遣いである。荒削りなところもあるかもしれない。不十分なところもあるかもしれない。気になった点があれば愛情を持ってぜひ知らせてほしい。そしてみんなの力でこのトリセツを磨いていってほしい。田中先生ならきっと応えてくれる。そう、小児アレルギーのトリセツプロジェクトは今も進行中である。

神戸市立医療センター中央市民病院 小児科 医長
編集 岡藤 郁夫


<はじめに>

 「小児感染症のトリセツ」。この本を見たときに衝撃を受けました。
 困ったときに何をやるかが、簡潔にわかるのですから。しかも内容も革新的! これまで上の先生に教えられたままに広域抗菌薬を使っていたのが、ちゃんと考えて(笑)使えるようになりました。呼吸器感染症で入院したのに抗菌薬を使わない、アンピシリンが非常に有用ということなど目から鱗でした。何より、知りたいときにすぐ必要な知識が手に入れられ、そのまま臨床に使えるという本はこれまで見たことがありません。
 
 「アレルギーでもトリセツあったらいいのにな」
 これが今回この本を世の中に出した動機です。アレルギー疾患は子どもでも非常に増加しており、小児医療にとってアレルギー診療は今やコモンスキルといえるでしょう。しかも、コロナ禍で感染症での受診が一時期激減した中でもアレルギーはコンスタントに集患できる分野ということがわかりました。小児医療に携わる方なら、アレルギー診療はできておいて損はありません。
 アレルギー診療について「アレルギーは誰でもできる」とよく言われます。ある程度は当たっているかもしれません。でも、プロのサッカー選手とアマチュアでは歴然と差があるように、アレルギーでも経験・知識で患者の予後・満足度は全然違います。一方でアレルギー診療の主戦場は外来診療ですが、外来診療は話を聞きながら、診察しながら、鑑別しながら、対応を考えるということを短時間に行わないといけない非常にタフな仕事です。つまりアレルギー診療は「プロとしての適切な対応」を「迅速に」行われるべき分野の一つなのです。
 この本はトリセツシリーズとして、最善の医療が迅速に誰でも提供できることを目的にしている、マニュアル本です。近くに置いてもらい、わからないことがあれば、ググる感じで見て診療に生かしてください。
 でも、本音ははじめから全部サラッとでも目を通してもらえるともっと嬉しいです。本書の編集をお願いした神戸市立医療センター中央市民病院の岡藤郁夫先生は「アレルギーは食物アレルギー、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎など様々な疾患があるがTotal Controlが非常に重要」と常々おっしゃっています。これは何でも診ることが出来る小児医療と通じるところもあり大事なところなので、まずザーッと読んでいただいてそのエッセンスを感じていただきたいです。
 本書は教科書ではありません。内容も標準治療に沿うように心がけてはいますが、私自身が普段行っている医療をそのまま示しています。みなさんの患者さんへ適用するにも大丈夫だとは思っていますが、間違っている部分もあるかもしれません。ぜひ忌憚ないご意見をいただければ本当にありがたく思います。
 
 最後にトリセツの看板を使わせていただいた笠井正志先生、普段のアレルギー診療や本書の内容についてご指導いただいている岡藤郁夫先生、出版にあたりいつも素敵な励ましをいただいた金原出版の中立稔生様に深く感謝申し上げます。
 
 本書が皆様のアレルギー診療の一助となり、アレルギーに悩む子ども達が幸せになることを祈っています。

兵庫県立こども病院 アレルギー科 科長
著者 田中 裕也
評者:堀向健太(東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科)

小児アレルギー疾患診療のエッセンスが詰まっている

 同じシリーズの『小児感染症のトリセツ』は、多くの若手の小児科医のデスクに並ぶ名著です。2012年に発刊されたシリーズが、なんとアレルギー学でも出るという話を聞き、楽しみにしていました。
 でも、ちょっと心配もしていました。
 コモンな疾患であるアレルギー疾患は、ともすれば『誰でもみれる』と思われがちですが、アレルギー診療は最近15年ほどで大幅に進歩し、少し前の知識が役に立たなくなるような分野になりました。そして、多臓器多彩な疾患分野でもあり、ひとりでまとめるのは簡単ではないはずなのです。そんな分野をどのようにコンパクトにまとめるのだろうかと……(いや、そうそうできないだろうという気持ちもありました)。
 しかし、この本では、エッセンスを伝えることに特化し、わかりやすさを優先し、うまく料理してしまいました。アレルギーを心配しながら外来に押し寄せる患者さんと保護者さんに押しつぶされそうな若手小児科医にとって大きな朗報となりました。

 脱帽です。
 さて、医学書ならば誤解が生まれないように例外事項や、あくまで著者の考えであることの注釈をつけ、さらに出典で固めていく必要があります。この本は、トリセツに徹し、その部分をかなり省略しているようにみえます。
 文献しばりに陥った年配の医師として本書に少し注文をつけるならば、出典をより明確にしていただければ、初学者がさらに深く学ぶためのツールになるかもしれないと思いました。
 でも、これはあくまで、著者の田中先生の目標に基づくものと思います。
田中先生ののびのびとした筆致は、そんな私の注文をはねのけ、『患者さんへ届くこと』をターゲットとしているのでしょう。
 専門ではないけれどもアレルギー診療をしなければならない多くの医師・医療者の方々に、ぜひ手にとっていただきたいと思います。

<小児科 Vol.62 No.13、2021年12月号、金原出版より転載>