小児の呼吸と循環管理のトリセツ
重症小児を救う! いつか来る、いざというときのためのトリセツ
監 修 |
笠井 正志 |
著 者 |
黒澤 寛史 |
定 価 |
4,400円 (4,000円+税) |
発行日 |
2024/03/20 |
ISBN |
978-4-307-17081-9 |
B6変判・224頁
Chapter 1 小児の心肺蘇生
1.小児科医における心肺蘇生の目標
1 教育コースで基本を学ぶ
2 心肺蘇生アルゴリズムの成り立ち
2.エビデンスに基づいた心肺蘇生
1 BLS アルゴリズム
2 心停止アルゴリズム
3 心肺「脳」蘇生
Chapter 2 小児の呼吸評価と重症度判定
1.呼吸の評価項目
1 呼吸数
2 呼吸努力/呼吸筋などの動き
3 呼吸音/空気の入り/換気量
4 皮膚の色/パルスオキシメータ
5 呼吸の重症度判定
2.血液ガス分析による呼吸評価
1 動脈血vs 静脈血
2 酸素化の評価
3 いつ血液ガス分析を行うか
4 血液ガス分析の解釈
Chapter 3 小児の呼吸管理法と実践
1.低流量酸素システム
1 概要
2 低流量酸素システムの効果と注意点
3 各デバイスの種類と装着方法
4 導入方法
5 経過のみかた
6 いつやめるか
2.高流量酸素システム
1 概要
2 HFNC によるハイフローセラピーの効果と注意点
3 導入方法
4 経過のみかた
5 いつやめるか
症例でレビューしよう!
3.非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation;NPPV)
1 概要
2 非侵襲的陽圧換気の効果と注意点
3 導入方法
4 経過のみかた
5 いつやめるか
4.侵襲的人工呼吸(invasive mechanical ventilation;IMV)
1 概要
2 侵襲的人工呼吸の効果と注意点
3 導入方法〜気管挿管の準備
4 導入方法〜気管挿管の手順
5 挿管後の振り返り
6 注意点
7 経過のみかた
8 いつやめるか
9 トラブルシューティング
アドバンストレクチャー 人工呼吸管理をすべきか、せざるべきか
Chapter 4 小児の循環評価と重症度判定
1.循環評価の5箇条
1 血圧が正常値だから大丈夫、と言ってはいけない
2 機器に頼りすぎてはいけない
3 1 つのパラメータだけを根拠に判断してはいけない
4 心拍数に着目せよ
5 患者に触れてみよ
2.循環の評価項目
1 「循環」の話は難しい?
2 循環の評価項目とポイント
3.循環の重症度判定
1 ショックとは
4.ショックを見抜く─頻脈の鑑別
1 心拍数(脈拍数)は雄弁
A Arrhythmia(不整脈)、Anatomy(解剖)
B Bleeding(出血)、Breathing(呼吸)
C Low cardiac output(低心拍出量)、Pulmonary hypertension(肺高血圧)
D Pain(疼痛)、Seizure(けいれん)
E Temperature(発熱)、Medication(薬剤性)
2 重症の小児=頻拍・頻脈!
症例でレビューしよう!
Chapter 5 小児の循環管理法と実践
1.ショックに対応する
1 是正輸液
2 心血管作動薬の使い方
3 フェーズに応じた輸液療法
症例でレビューしよう!
Chapter 6 疾患別にみる小児の呼吸と循環管理
1.肺 炎
1 肺炎の呼吸管理
2 肺炎の循環管理
2.気管支喘息
1 気管支喘息の呼吸管理
2 気管支喘息の循環管理
3.RSウイルス感染症
1 RS ウイルス感染症の呼吸管理
2 RS ウイルス感染症の循環管理
4.小児のARDS(pediatric acute respiratory distress syndrome;PARDS)
1 定義と管理のポイント
2 PARDS の呼吸管理
3 PARDS の循環管理
5.敗血症性ショック
1 敗血症性ショックの呼吸管理
2 敗血症性ショックの循環管理
6.心筋炎
1 心筋炎の呼吸管理
2 心筋炎の循環管理
Chapter 7 重症小児診療のエッセンス
1.バイシステムで考える
1 バイシステムとは
2 バイシステムの評価項目
3 重症患者をプレゼンするときの注意点
2.どんな小児に人工呼吸が必要なのか
1 人工呼吸はABCDE で考える
3.重症小児のモニタリング
1 臨床能力で差がつくモニタリング
2 アラームへの感受性
4.重症小児の搬送のトリセツ
1 搬送スキルの重要性
2 搬送にあたって気をつけること
3 転院前患者情報
巻末資料1 気管挿管患者の鎮痛・鎮静薬のトリセツ
A 麻薬
B ベンゾジアゼピン
C ケタミン
D デクスメデトミジン
E クロニジン
F バルビツール
G 抱水クロラール
H プロポフォール
I ロクロニウム
鎮静・鎮痛薬の減量アルゴリズム
SBS(State Behavioral Scale)
WAT-1(The Withdrawal Assessment Tool-1)
巻末資料2 心血管作動薬のトリセツ
1 アドレナリン注
2 ノルアドレナリン
3 ドブタミン
4 ドパミン
5 ミルリノン
巻末資料3 重症患者の症例プレゼンテーションの極意
1 重症患者のプレゼンの基本
2 重症患者のプレゼン│実践編
<はじめに>
この本は、ついついPICUで働いているときの感覚で書き進めてしまい、何度も書き直しました。集中治療だけでなく、小児の急性期医療全般に携わる医療者のみなさんにも手に取ってほしいからです。小児患者はあまりいない、しかも重症小児は年に数えるほど。そんな施設でがんばっている医師・看護師が何かひとつでもヒントを得られるような、そしてそれが一人でも多くの小児のためになるような、そんな本を目指しました。
PICUで働いているからこそ分かる、現代医療の限界があります。PICUに来てからでは何をやっても手遅れ。もう少しだけ早く気づけていたら、もう少しだけ早く手を打てていたら変わっていたかもしれない。PICUで待っているだけではいけない。そう思うことが少なからずあります。
そんな折、この企画をいただきました。まずは、思うままに書いてみました。どんどん筆が進むような気がしたのですが、読み返してみたらかなりマニアックな内容で、全然「トリセツ」じゃありませんでした。そこで、ごく一部の人しか読んでくれないようなものはやめ、分かりやすさを第一義とすることにしました。細かなニュアンスや精確な記載にこだわりすぎないようにしました。
エビデンス? びっくりするくらい文献は出てきません。そう言いきっちゃっていいの? と思われる記述が少なからずあるかもしれません。でも、いいんです。小児に携わることのある医療者に最も大切なスキルを身につけてもらうための入り口に、つまらないこだわりはいらないのです。まずは割り切って、基本となる考え方やスキルをしっかりと身につけること。小児急性期医療の底上げのためには、それが一番大事です。その先にあるエビデンス云々は小児の集中治療を専門とする医療者が考えればいいのです。
PICUで働く医師は、自分も含めて、そういった大切なことを後進に伝える努力をなんだかんだ理由をつけて怠ってきた、あるいは出し惜しみをしてきたのではないか、と思うことがあります。
子どもの呼吸や循環の評価・管理をイチから学び、悪いサインにいち早く気づくまでのスキルを身につけることは、けっこう難しいと思います。教科書を読んでも、なかなか臨床と結びつかないという経験があるのではないでしょうか。私はそのために地元東北を離れてPICUでトレーニングを受け、成人の急性期医療を学び、海外にも臨床能力を高めるための場を求めました。
そして、そうして身につけた考え方やスキルをどうすれば多くの医療者に伝えられるか、考えました。臨床の現場でしか伝えられないこともたくさんあるけれど、それがすべてではありません。文章だからこそ伝えられることもたくさんあるのではないか、そう思いました。
たとえば、巻末資料に「重症患者のプレゼンテーションの極意」を付けました。プレゼンのたびに一つ一つ指摘していたらきりがありません。でもこれを読んで自己あるいは同僚のプレゼンを振り返り、ブラッシュアップしていくことができます。もともとは筆者の施設での教育のために書いたものですが、彼・彼女らは文章からスキルを身につけることを実践しています。
本書を手に取った人は向上心があり、小児のためにスキルを身につけようとしており、文章から多くを学び取ることができる人です。重症小児のことを20 年考えてきた筆者の頭が、どんな思考過程をたどっているのか、そんなことを読者のみなさんと共有する試みもしてみました。こうでないといけない、というものではなく、何も道標がない人にとっての入り口だと思って楽しんでもらえれば幸いです。
最後になりましたが、絶妙のタイミングで素晴らしい企画をくださった盟友・笠井正志先生と、伝わりやすさを追求してくださった編集の中立稔生様に深謝いたします。
2024年2月
兵庫県立こども病院 小児集中治療科 部長
著者 黒澤 寛史
<監修のことば>
本気と本音で書かれた小児集中医療の本質
トリセツシリーズ5冊目、重症小児医療業界における本格派エースが、重症小児管理の中心である呼吸・循環について本音で本気で書き切った本となりました。
呼吸・循環は深く広い世界ですので、その本質を理解していないと、情報過多になり読みにくいし、面白くないし、逆に端的に論を展開することはできないと、フンワリな内容になりがちなものです。
しかし本書は、徹頭徹尾、呼吸・循環について端的な記述かつ本気のフルスイングで展開されています。また実践的でありつつ筆者の臨床哲学(ブラックな本音も少し)が詰まっているので、とても読みやすくなっています。小児科医・小児集中治療医のほか、小児を診る機会のある救急・集中治療医などにとっては、トリセツどころかバイブルになるでしょう。
私見ですが、特に役に立つのは、黒澤先生の頭の中をいつも知りたいと願っている兵庫県立こども病院 集中治療科フェローの先生たちかな。ぜひ回診プレゼンから診療にお役立ててください。
最後に個人的なメッセージをお許しください。著者を信頼していたため、編集部との最初のオリエンテーション以降、ほぼ進捗も内容も確認しませんでした。そして2023年年末にほぼ最終稿ができたとのことで、年末年始に読みました。監修者の最大のメリットは、最初の読者になれることで、本当に幸せな時間でした。自分が15年前に小児集中治療をやっていたときに、この本に出会えていれば、集中治療科から感染症科へ進路変更しなかったかもな、と過去を振り返りながら読み切りました。これからも小児医療の明るい未来のために、同僚・親友として一緒に行動を続けよう(飲み屋さんではブラックな本音トークを)。
兵庫県立こども病院 感染症内科 部長
監修 笠井 正志
評者:鉄原 健一(福岡市立こども病院 集中治療科 科長)
同じ釜の飯を食える本
「同じ釜の飯を食う」とは「生活を共にした親しい仲間であることのたとえ(デジタル大辞林)」とある.COVID-19 の流行、医師の働き方改革を含めた時代の変化によって、同じ組織にいても仲間と一緒にいる時間は減ったのではないだろうか.私は懐古主義ではないが、何事も程度問題で、そんなちょっと前の時代がよかったと思う部分もある.仕事をしていない時間に、なんとなく一緒にいるときに、上司や同僚にとってはなにげなく発せられたが、自分にとっては心に残ることばを聞くことがあった.
私が小児救急のトレーニングを受けていた時に、いつ、誰から聞いたかも忘れてしまったが「意識障害だけで来る腸重積がある」と聞いたことがある.いわゆるクリニカルパールである.それを知ったうえで成書を読めば、たしかに腸重積の症状のひとつに意識障害と書いてある.しかし、おそらく本を読むだけではさらっと読んで心には留めていなかっただろう.腸重積といえば、嘔吐、ソーセージ様腫瘤、血便、間欠的啼泣であって、意識障害だけの腸重積とかほんとにあるのか? と思うだろう.そしてその後、たしかに、まれではない頻度で意識障害のみの腸重積に遭遇した.
このように、専門にどっぷりつかる時間は、意図しない会話に出てくるクリニカルパールを学んだり、その分野の思考の型を文字情報ではなくフワッと身に纏うように身につけたりする機会になる.では、専門にひたひたに浸かる時間が減ったり、そもそも専門家のなかで学ぶ機会がない場合、どうすればよいのだろう.そう、小児の呼吸と循環の分野に関しては心配ない.まず本書を読むとよい.
呼吸、循環というと、難しい生理学、解剖学について難しく書いてある本はたくさんある.それはそれで学び深い.しかし、小児の呼吸と循環について、読者の立場を想像した著者が、難しいはずのことをやさしく語りかけてくれる本書のような本は他にはない.それはまるで、著者と同じフロアで働き、休憩時間にカンファレンス室でコーヒーを飲みながら話をしているうちに、ポッと著者から出てきたクリニカルパールを伝授してもらっているように感じる.参考文献はほぼない.エビデンスがないじゃないかと思うかもしれない.他の本には書いてないことももちろんある.しかし、そのことは本書の価値をまったく損なわない.それは著者のもとで学んだ多くの医師たちが証明してくれる.
本書は、著者と、著者の同志と同じ釜の飯を食える本である.
というわけで、僕を弟子にしてください、黒澤先生!
<小児科 Vol.65 No.6、2024年6月号、金原出版より転載>