小児感染対策のトリセツ

子どもとスタッフを感染症から守る! 小児科の感染対策の超実践法

監 修 笠井 正志
著 者 伊藤 雄介
定 価 4,620円
(4,200円+税)
発行日 2024/07/30
ISBN 978-4-307-17082-6

B6変判・280頁

在庫状況 あり

小児トリセツシリーズ第6弾。小児科の感染対策は、成人とは異なる事情を加味する必要がある。たとえば子どもの年齢によって流行しやすい感染症は異なり、感染症をうつしやすい環境や行動も多くある。さらに、子どもゆえに隔離の難しさや使用できる物品にも制限がある。 本書ではそんな小児科特有の事情にも配慮しつつ、メリハリがある感染対策を行うための知識とテクニックについて解説する。
コロナ禍を経た今だからこそ読みたい! ほんとうに現場で使える感染対策のトリセツ。

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Chapter 1 小児における感染対策の原則
1.感染対策のキホン
 1 感染対策をするうえで知っておくべき大人と子どもの違い
 2 標準予防策と経路別感染対策
 3 洗浄・消毒・滅菌
2.小児科スタッフの感染対策
 1 PPE のつけどころ
 2 患者環境の判断
 3 小児医療従事者のワクチンプログラム
3.感染対策のピットフォール
 1 感染対策のデメリット
 2 コホーティングの罠
 3 手袋は手指衛生最大の敵である
 4 検査結果と感染対策

Chapter 2 症状・微生物別にみる小児の感染対策
1.症状別にみる感染対策
 1 咳のある子どもの感染対策
 2 嘔吐や下痢のある子どもの感染対策
 3 皮疹のある子どもの感染対策
2.微生物別にみる感染対策
 1 RS ウイルス
 2 ヒトメタニューモウイルス
 3 インフルエンザウイルス
 4 パラインフルエンザウイルス
 5 新型コロナウイルス
 6 ライノウイルス
 7 エンテロウイルス
 8 パレコウイルス
 9 アデノウイルス(咽頭結膜熱,流行性角結膜炎)
 10 百日咳
 11 結核
 12 ノロウイルス・サポウイルス
 13 ロタウイルス
 14 腸管出血性大腸菌
 15 偽膜性腸炎(クロストリジオイデス・ディフィシル感染症)
 16 水痘・帯状疱疹ウイルス
 17 麻疹
 18 風疹
 19 ムンプスウイルス
 20 単純ヘルペス
 21 パルボウイルス
 22 伝染性軟属腫(みずいぼ)
 23 疥癬
 24 トコジラミ
 25 アタマジラミ
 26 A 群溶連菌
 27 B 群溶連菌
 28 髄膜炎菌
 29 薬剤耐性菌

Chapter 3 シチュエーション別にみる小児の感染対策
1.場所でみる感染対策
 1 小児科外来における感染対策
 2 保育施設における感染対策
 3 プレイルーム・おもちゃの感染対策
 4 NICU における感染対策
 5 産科新生児室における感染対策
 6 PICU における感染対策
 7 自宅における感染対策
2.患者背景でみる感染対策
 1 人工呼吸器関連肺炎
 2 カテーテル関連尿路感染症
 3 カテーテル関連血流感染症
 4 手術部位感染症
 5 周術期とワクチン
 6 先天性感染症の感染対策
3.困ったときの感染対策
 1 母親が感染症だが母乳をあげていい?/別の母親の母乳を投与してしまった!
 2 付き添いの保護者に,ガウンや手袋をつけてもらったほうがいいですか?
 3 面会者から感染症が流行しないか心配です
 4 ICU はスタッフの曝露リスクが高く心配です
 5 NICU でMRSA がアウトブレイクしてしまいました
 6 海外から高度耐性菌を持ち込まれることが怖いです!
 7 生ワクチン接種が院内感染の原因になることはありますか?
 8 手術直前に感染症に罹りました。延期したほうがいいですか?
 9 術前検査でHBV/HCV/梅毒関連検査が陽性になりました
 10 感染症法と届出を知りたい

アドバンストレクチャー 本質でみる感染対策
1.ほんとうに価値のあるICT のつくり方
 1 チームワークの嘘
 2 エンパワーメント
 3 説得より納得を
 4 効果的な伝え方
2.感染対策の本質─ COVID-19 感染妊婦の出産と母子同室
 1 母子分離をしなければいけないのか
 2  それでも日本では長い期間母子同室が推奨されなかった
 3 感染対策の本質をみる

巻末資料 微生物別の感染対策まとめ
はじめに

 「感染対策なんてどうでもよい」

 ICT の意見に反発するベテラン医師から言われた言葉ではありません。ICT の医師が言った言葉です。筆者が小児感染症内科のトレーニングをはじめた兵庫県立こども病院での話。病院自体が大きな引っ越しをして、新しく生まれ変わるタイミングでした。
 場所や建物だけではなく、たとえばPICU はそれまでの各科管理から24 時間専従の集中治療科が管理するようになり、看護スタッフも含めてPICU だけで数十人の新任者が働きはじめ、電子カルテシステムをはじめて動かし、というようなてんやわんやの状況でした。

 その中でPICU での感染対策を考えるカンファレンスがはじめて行われました。新しい部署だからこそ最初に決める感染対策のルールは重要でしたし、最初によい感染対策の文化を根付かせることができればと思っていました。
 しかしそのカンファレンスのなかで、小児感染症内科の部長である笠井正志先生がしゃべったのが上記の言葉でした。
 「感染対策は大事。でも今は、注射のオーダー間違いをしない、患者の取り違いをしない、そういったことのほうが大事。感染対策のことを無理に気にしなくていい」と。

 ICT が目指すアウトカムは患者の幸せです。いくら手指衛生をたくさんしたからといって、患者が助からなければ意味がなく、手指衛生のためにインシデントが多発するようであればやらないほうがいいわけです。
 まずは自分たちが目指す最終的なアウトカムが何なのかを現場と共有すること。自分たちの主張ややり方を受け入れるだけの余裕がいま現場にあるかを確認し、押しつけないこと。ICT としてそういう姿勢は大事です。
 ちなみにカンファレンスのときに「こんな格好いいこと言ったら、そりゃ部長の言うこと聞くことになるよな。ズルイなあ」と思ったのはナイショです。

 さて、当初、本書は主に成人診療中心のICT や感染症医に向けて書きはじめました。どのような視点で小児病棟を観察すればよいのか、どのように保護者に説明をすればよいのか、小児の感染対策にちょっと苦手意識をもっているICT の方々の参考になればと思っています。
 "こどもは小さなおとなではない"という言葉がある意味免罪符のようになってしまい、小児医療と壁を作ってしまうのは望ましくありません。
年齢による違いや保護者への対応など小児特有のポイントを押さえつつ、成人医療でも普遍的な感染対策の基本を忠実にやっていければ、困ることはあまりありません。

 本書を書き進めているうちにICT 側だけではなく小児科医師や小児病棟のスタッフにも届けることができたらと思うようになりました。感染対策をする意味は何なのか、今やっている感染対策は本当に子どもたちのためになっているのか。すべてのスタッフがそんな感染対策の本質を考えるきっかけにもなってほしいと考えています。

 成人や小児に関係なく、ICT と現場のスタッフが一緒になって悩み、考え、実行することができれば、病院全体の感染対策の実力はもっと伸びると思っています。

2024 年7 月
兵庫県立尼崎総合医療センター
小児救急集中治療科/小児感染症内科 科長
著者 伊藤 雄介
目の前の患児が自分の子どもだったら?

 感染対策は、院内では地道な活動で、また同僚への指摘など、ときにストレスを感じる場面が多い仕事です。しかし、その重要性は言うまでもありません。本書の著者である伊藤雄介先生は、私が兵庫県立こども病院感染症内科を立ち上げたときの初代フェローです。すごい時代でした。
 感染症科医の重要な役割のひとつに、他科からのコンサルテーションがあります。しかし、当初はなかなかその必要性を理解してもらえず、苦労することもありました。そこで私たちは、まずは感染対策活動を通して信頼を得ようと、院内のさまざまな部署とのコミュニケーションを積極的に行いました。伊藤先生は昼、私は夜(?)と、それぞれの得意分野を生かしながら活動を重ねた結果、徐々にコンサルテーションの依頼が増えていきました。この経験から、コンサルテーションの前にはまずはコミュニケーションが大切だと学びました。

 伊藤先生は常に「目の前の患者さんが自分の子どもだったら、どうする?」という視点で感染対策を考えていました。たとえば、手指衛生や環境整備など、基本的な対策を一つひとつ丁寧に行うことの重要性とともに、子どもたちのために過度な隔離などの感染対策をやり過ぎないことのバランスの重要性など、本書には、そんな伊藤先生の思いやりにあふれた感染対策の哲学が詰まっています。
 感染症の脅威は、今もなお私たちの生活に大きな影を落としています。本書は、すべてのお子さんの感染対策に関わる医療従事者のみならず、保育士、教員、保護者など、子どもたちの健康を守るすべての方々に読んでいただきたい一冊です。
 伊藤先生の豊富な経験と深い知識に基づいた実践的なアドバイスは、きっとみなさまの感染対策活動に役立つはずです。

兵庫県立こども病院 感染症内科 部長
監修 笠井 正志