小児栄養のトリセツ

小児医療に携わるすべての人に送る「はじめての栄養学」

監 修 笠井 正志
著 者 鳥井 隆志
定 価 3,960円
(3,600円+税)
発行日 2024/09/25
ISBN 978-4-307-17083-3

B6変判・176頁

在庫状況 あり

小児トリセツシリーズ第7弾。子どもは食べることで栄養を摂取し、成長していく。疾患によって栄養障害が起こった場合には、基礎疾患の治療とともに子どもの成長をサポートするための栄養管理が必要である。また、器質的な疾患によらない栄養障害も小児では問題になりやすい。乳幼児期や学童、思春期の「食べない・食べられない・食べすぎる」悩みは医学的なアプローチだけでなく、栄養学的な視点を加えることで解決に導けることも多い。
本書は小児医療に携わる人がはじめて栄養について学ぶための「トリセツ」である。

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Chapter 1 小児栄養の原則
1.栄養と成長のキホン
 1 栄養と成長需要の関係
 2 栄養摂取と身体活動
2.小児における栄養が問題になるとき
 栄養につまずきやすいタイミング
 1 食べ物が液体から固形に変わる時期─乳児期:乳汁から離乳食
 2 食べる場所が変わる時期─幼児期:家庭から集団
 3 心と身体が大きく変わる時期─学童期〜思春期:子どもから大人

Chapter 2 疾患と栄養管理のトリセツ
1.疾患による栄養障害
 1 栄養障害の要因
 2 疾患管理と順調な成長・発達の両立
 3 栄養療法が必要な疾患
2.栄養サポートを実践する
 1 栄養サポートの考え方
 2 栄養サポートの基本戦略:どこから・なにを・どれくらい
3.症候・疾患別にみる栄養管理
 1 下痢
 2 便秘
 3 短腸症候群
 4 炎症性腸疾患
 5 肝胆道系疾患
 6 膵疾患
 7 先天性心疾患
 8 急性糸球体腎炎・ネフローゼ症候群・慢性腎臓病
 9 ビタミンD 欠乏性くる病
 10 1型糖尿病
 11 肥満・メタボリック症候群
 12 脂質異常症
 13 貧血
 14 小児がん
 15 食物アレルギー
 16 重症心身障害
 17 ダウン症
 18 起立性調節障害
 19 過敏性腸症候群
 20 摂食障害
 21 小児集中治療の栄養管理
 22 低出生体重児

Chapter 3 「食べない・食べられない・食べすぎる」問題へのアプローチ
1.乳児期の「飲まない」「食べない」問題
 1 乳児期の栄養問題の特徴
 2 母乳・ミルクを「飲まない」への対応
 3 母乳が不足していないかをみる
 4 離乳食を「食べない」への対応
2.幼児期の「食べてくれない」問題
 1 幼児期の栄養問題の特徴
 2 幼児期の「食べない」を鑑別する手順
 3 摂食機能・行動の評価
 4 幼児期の「食べない」への対応
3.学童・思春期の「食べない(少食・欠食)」問題と「食べすぎる」問題
 1 学童・思春期の栄養問題の特徴
 2 学童・思春期の栄養評価
 3 学童期・思春期の「食べない」と「食べすぎる」への対応

Chapter 4 栄養食事療法のトリセツ
1.主な栄養食事療法の種類と適応
 1 栄養食事療法の考え方
 2 高濃度ミルク
 3 増粘ミルク・増粘栄養剤
 4 注入ミキサー食│半固形状流動食
 5 経腸栄養剤
2.その他の栄養療法
 1 低残渣食
 2 低FODMAP食
 3 ケトン食(てんかん食)

巻末資料1 本書の参考図書
巻末資料2 栄養補助食品のトリセツ
巻末資料3 平均身長と平均体重およびその標準偏差(2000 年)
<はじめに>

はじめまして、小児栄養の世界へようこそ!

 突然ですが、担当している子どもの栄養が気になったとき、誰か詳しい人はそばにいますか? 参考にできる教科書を持っていますか?

 どちらにも「はい」と答えられる方は少ないのではないでしょうか。そう、小児栄養に関するリソースは少ないのです。
 このことに気づいたのは、私が成人の総合病院から小児専門病院へ転勤して間もないころ、今から10 年以上前のことです。必要に迫られて、さまざまな勉強会や学会に参加し、専門書や論文も読みました。今でこそ小児栄養に特化した医学書や雑誌の特集号が企画されるようになってきましたが、それでもなお、目の前の子どもたちが抱える栄養問題に直面するたびに、タブレットに保存している資料を読み直し、足りなければ新たな文献を探すという日々を繰り返していました。

 そんなある日、笠井正志先生から『小児栄養のトリセツ』の出版のお話をいただきました。まさか自分が“トリセツシリーズの書き手”になるとは夢にも思っていませんでした。しかし、これまでタブレットに埋もれていた資料や自作のノートを“トリセツ”的にまとめることで、自分だけでなく、同じような悩みを持つ小児科の若手の先生やこれから小児領域に関わるメディカルスタッフ、広くは教育、福祉、保健の領域で働くみなさまにもお役に立つのではないかと感じ、本書の執筆をはじめました。

 本書は、最新の研究成果やエビデンスに基づいた情報をすべて網羅しているわけではありません。日常臨床で直面する具体的な栄養問題の取扱い方(トリセツ)を提供することを目指しています。たとえば、疾患と栄養療法、成長障害や極端な偏食など、現場でよくみられる悩みどころを取り上げ、それぞれに対する実践的なアプローチを紹介しています。
 子どもたちやその家族の状況はさまざまで、それぞれの対策についてすべて書くと内容が膨大で複雑になり、かえって読者にとってはわかりにくくなってしまいます。 そのため、本書では詳しく書きたい気持ちをグッと抑え、誤解を招くかもしれないギリギリのラインでまとめています。これにより、読者のみなさんが実際の臨床現場で直面する問題に対して、シンプルで実用的な解決策を見つけやすくなると考えています。
 伝わりやすさを追求したため、不十分な点も多々あると思います。そんな時は巻末資料に挙げた成書をぜひ読んでください。そして小児栄養のエキスパートになってください。

 最後に、この本が、子どもたちに関わるすべての専門職と私たち管理栄養士との協働を促進し、子どもたちとその家族の健康と幸せのための新たな一歩となることを願っています。

If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.
一緒に小児栄養の世界をより良くする旅に出かけましょう!

2024 年9 月
兵庫県立尼崎総合医療センター 栄養管理部 栄養管理課 課長補佐
著者 鳥井 隆志
小児栄養学を学んでいない小児医療関係者へ

 それは私です。そんな私も通読できました。
 小児科の先生、栄養管理って難しいと思っていませんか? 実は私もそうでした。集中治療医として働いていたころは、「とにかく早く栄養を入れなきゃ!」と躍起になるだけで、栄養の奥深さや重要性について深く考える余裕はありませんでした。経腸栄養を始めるタイミングやカロリー計算など、表面的な知識だけでなんとかやり過ごしていたように思います。
 この本は、小児栄養のエキスパートである鳥井隆志先生が、長年の経験と知識を惜しみなく詰め込んだ一冊です。栄養学の基礎から臨床現場での実践的なノウハウまで、幅広い内容がわかりやすく解説されています。本書の読みどころはすべてですが、面白い挿話もたくさんあります。その一部を先出しします。

・PICU での新しいCRP の使い方(p.69)
・ボトルフィーディングは直母乳を飲むより3 倍早い(p.83)。
・検査値異常のない肥満(p.119)。

 栄養学というと難しいカロリー計算などの算術と思われがちですが、単純にどうやって美味しく食べるかもけっこう大事です(p.57)。
 私が、2019 年秋にスウェーデンの大学病院小児腫瘍病棟を訪問し、その代表医師に小児腫瘍患者のマネジメントで一番大事なこと何か、と問いました。たった一言“Appetite is the issue.”と。その病棟では、いつ何を食べても、何を持ち込んでも、本人が望めば外食してもいいようです。食べることは生きること。
 小児医療関係者として、子どもたちの健やかな成長をサポートするためには、栄養に関する正しい知識と実践的なスキルが欠かせません。『小児栄養のトリセツ』は、そんな私たちにとって頼りになる、まさに小児医療の「トリセツ」といえる一冊です。

兵庫県立こども病院 感染症内科 部長
監修 笠井 正志