これからの乳癌診療 2016-2017
国内外の新知見を集約した乳癌診療アニュアルレポート最新刊!
監 修 |
園尾 博司 |
編 集 |
福田 護 / 池田 正 / 佐伯 俊昭 / 鹿間 直人 |
定 価 |
6,600円 (6,000円+税) |
発行日 |
2016/06/20 |
ISBN |
978-4-307-20355-5 |
B5判・192頁・図数:17枚・カラー図数:25枚
いま知っておくべき新知見を集約した“乳癌診療アニュアルレポート”最新刊。2年毎に改訂される日本乳癌学会編「乳癌診療ガイドライン」と編集形態を共にし、各々「薬物療法」「外科療法」「放射線療法」「疫学・予防」「検診・診断」のアップデートに一役買う。さらに「トピックス」「チーム医療に必要な最新の知識」の章ではいっそうの最新情報と、医師をはじめとする多くのメディカルスタッフの連携に役立つ内容を盛り込んだ。
第1章 検診・診断
1.乳がん検診の現状と超音波検診の将来性―Dense Breastにどう向き合うか
2.乳がん検診における利益・不利益
3.乳癌診療ガイドライン2015「検診・画像診断」改訂の要点
4.乳癌診療ガイドライン2015「病理診断」改訂の要点
第2章 外科療法
1.センチネルリンパ節生検後の局所・領域再発―実態と治療方針
2.乳房再建後の局所再発―その原因と対処法
3.乳癌診療ガイドライン2015「外科療法」改訂の要点
第3章 薬物療法
1.HER2陽性転移乳癌に対する治療
2.ホルモン依存性乳癌に対する新しい分子標的治療薬―mTOR阻害薬、Palbociclibを中心として
3.ER陽性乳癌における内分泌療法から化学療法への移行のタイミング
4.妊孕性保持と卵巣保護―LHRH analogue併用化学療法を含めて
5.乳癌診療ガイドライン2015「薬物療法」改訂の要点
第4章 放射線療法
1.乳癌所属リンパ節に対する術後放射線療法の諸問題
2.乳癌診療における粒子線治療の役割
3.乳癌診療ガイドライン2015「放射線療法」改訂の要点
第5章 疫学・予防
1.被ばくと乳癌発生リスク
2.がん登録―乳癌を中心に
3.乳癌診療ガイドライン2015「疫学・予防」改訂の要点
第6章 トピックス
1.ASCO2015、ABC3のポイント
2.乳癌の薬物療法における免疫バイオマーカー
3.ペグG-CSFの出現による抗癌薬治療の変化
4.次世代シークエンサーを導入した乳癌の診療
5.BRAVAと脂肪移植による乳房再建術
第7章 チーム医療に必要な最新の知識
1.薬物療法と間質性肺炎―治療と対策
2.電子カルテを共有した病診連携システム
3.乳癌における高額医療制度の考え方
4.乳癌治療における医科歯科連携
我が国の乳癌は依然として罹患率・死亡率ともに年々増加し続けている。2016年1月に施行された「がん登録推進法」により全国医療機関のがん登録が義務化され、国立がん研究センターがん対策情報センターで集計されるようになった。日本の乳癌の罹患・死亡の実態をより正確につかみ、がん対策に利用されることを期待したい。近年、マンモグラフィ(MMG)検診では、がん発見という利益とともに不利益(偽陽性・偽陰性・過剰診断・放射線被曝など)を考慮すべきことが議論されている。一方、我が国の40歳代MMG検診において、乳房超音波検査の上乗せ効果が明らかにされた(J─START試験)。この結果は、今後40歳代の検診に超音波検査を加える動きに発展するものと期待される。また、MMGと超音波検査を併用すると要精検率が高くなるという欠点を補うために「MMGと超音波検査の併用検診における総合判定基準」が作成され、実用化に向かっている。
乳房温存術は徐々に増加してきたが、近年は全体の60%で頭打ちになっている。根治性と整容性を重視し、無理な温存を避け、乳房再建術を行うようになったためである。乳房再建術は、人工乳房(インプラント)の保険適用(2013年)によって、急速に普及してきている。今後は、乳房再建後の局所・領域リンパ節再発例を経験することも多くなると推測され、それを避けるための手術適応や術式の工夫が必要である。一方、センチネルリンパ節(SN)生検は転移陰性例に対する腋窩リンパ節郭清を省略するために開発されたが、最近では一定の条件のもとでSN転移陽性例に対する腋窩郭清の省略も是認されている。今後、SN生検後の腋窩再発に対する適切な対処法などが課題となる。
薬物療法は免疫染色によるサブタイプ分類に基づいて治療薬が選択される。再発乳癌では、(1)HER2陽性症例に対するペルツヅマブおよびT─DM1、(2)ER陽性ホルモン療法抵抗性症例に対するmTOR阻害薬およびCDK4/6阻害薬の効果により予後改善がもたらされている。一方、トリプルネガティブ症例は、不均一性があり、治療が困難であるが、最近このタイプにTIL(腫瘍浸潤リンパ球)陽性例が多く、免疫チェックポイント阻害薬の有用性が期待されている。
本書は、1年間の国内外の膨大な乳癌情報の中から研究の進歩やトピックスを集約し、各領域のエクスパートによって簡潔に理解しやすく記述されている。乳癌診療に携わっている医師は勿論のこと、研修医、コメディカルの方々の明日からの乳癌診療や研究に役立てて頂ければ幸いである。
2016年6月
園尾 博司