これからの乳癌診療 2017-2018

国内外の新知見を集約した乳癌診療アニュアルレポート最新刊!

監 修 園尾 博司
編 集 福田 護 / 池田 正 / 佐伯 俊昭 / 鹿間 直人
定 価 6,600円
(6,000円+税)
発行日 2017/07/15
ISBN 978-4-307-20368-5

B5判・174頁・図数:40枚・カラー図数:22枚

在庫状況 なし

国内外の新知見を集約した“乳癌診療アニュアルレポート”最新刊。膨大な情報の中から、いま最も関心の高い項目をラインナップ。「検診・診断」「外科療法」「薬物療法」「放射線療法」「疫学・予防」の各分野のエキスパートにより、分かりやすく解説されている。さらに「トピックス」「チーム医療に必要な最新の知識」として他領域の最新情報も掲載してあるので、多職種の連携にも役立つ。知識のアップデートに一役買うおススメの一冊。
第1章 検診・診断
OverView ……福田 護・園尾 博司
1.ハイリスクグループの検診(乳癌検診の個別化)……戸崎 光宏
2.乳癌骨転移の画像診断 ─骨シンチグラフィ、PET-CT、DWIBS ……岡田 幸法・印牧 義英・中島 康雄
3.マンモグラフィ検診の今後 ─高濃度乳房への対応(トモシンセシス、ABUSを含めて)……鯉淵 幸生

第2章 外科療法
OverView ……池田 正・園尾 博司
1.インプラントか自家組織か ……山川 知巳・三鍋 俊春
2.日本における乳房再建の成績と今後の課題 ─人工乳房再建を中心に ……朝戸 裕貴

第3章 薬物療法
OverView ……佐伯 俊昭・池田 正
1.分子標的薬の進歩2016〜2017 ……佐治 重衡
2.制吐療法の進歩 ……青儀 健二郎
3.ホルモン感受性乳癌の補助内分泌療法 ─長期投与に関する最近の動向 ……紅林 淳一
4.再発乳癌化学療法 ─最近の動向 ……山口 雄・向井 博文

第4章 放射線療法
OverView ……鹿間 直人・福田 護
1.乳房切除後1〜3個腋窩リンパ節転移陽性例における術後放射線療法の適応 ……平田 希美子・吉村 通央
2.PMRTにおける治療計画と精度管理 ……宮澤 一成・鹿間 直人

第5章 疫学・予防
OverView ……園尾 博司・佐伯 俊昭
1.最近の乳癌リスクファクター ─日本のデータを中心に ……溝田 友里・山本 精一郎
2.良性乳腺疾患の乳癌リスク ……森谷 卓也

第6章 トピックス
1.ASCO2016、SABCS2016のトピックス ……佐伯 俊昭
2.高額薬剤と乳がん診療 ─医療経済の立場から ……下妻 晃二郎
3.Precision Medicineと乳癌診療 ……荒木 和浩・三好 康雄
4.患者さんのための乳がん診療ガイドライン2016年版 ─改訂の要点 ……大住 省三
5.DCISに対する外科治療(low-grade DCISなどへの対応を含めて)……津川 浩一郎

第7章 チーム医療に必要な最新の知識
1.がん相談支援センターの現状と将来(就労支援など)……橋本 久美子
2.乳癌患者のリハビリテーション ……辻 哲也
3.Advanced Care Planningと緩和医療 ……深田 一平・大野 真司
 本書が創刊されて10年の節目を迎えた。年1回発行してきたが、今回も乳癌に関する内外知見の膨大な情報の中から研究の進歩やトピックスを集約し、各領域のエキスパートの皆様に簡潔に理解しやすく記述していただいた。今回の内容を含めて10年間を簡単に振り返ってみたい。
 この10年間、乳癌罹患数および死亡数は増加の一途を辿っている。最も罹患率が高く、40〜50歳代の働き盛りの女性に多い乳癌は仕事や家庭に大きな影響を及ぼす。乳癌の危険因子は、予防行動が「(1)不可能なもの」と「(2)可能なもの」に分類でき、(1)には検診受診勧奨、(2)には具体的な予防行動の実践啓発が可能である。マンモグラフィ(MMG)検診が導入されて17年が経過し、精度管理が標準化され、検診発見乳癌は全体の3割を占めるようになった。MMG検診における問題点として、受診率の低迷、不利益(高濃度乳房による偽陰性など)が挙げられる。効果的な受診率の向上策や早期の超音波併用検診の導入が待たれる。
 2004年に日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」が創刊され、同年に「乳腺専門医」の広告が認可された。これらを両輪として、我が国の乳癌診療の標準化が広く普及するに至った。乳房温存手術は早期の乳癌の標準手術となり、全体の60%を占めている。近年は、無理な温存を避け、乳房切除+再建を行う症例が増えたために60%で頭打ちになっている。また、乳房温存手術を行った非浸潤性乳管癌(とくにlow-grade)に対する術後放射線治療の省略が検討されている。さらに術後放射線治療については、近年、腋窩リンパ節転移1〜3個の症例に対する照射の省略、傍胸骨照射の適応が議論されている。
 また、センチネルリンパ節生検が2010年に保険適用となり、現在6割の症例に実施され、転移陰性例には腋窩郭清が省略される。近年では転移陽性例における郭清省略も検討されている。さらに乳房オンコプラステイックサージャリー学会の設立(2012年)と乳房インプラントの保険適用(2013年)は、乳癌手術の整容性の向上に寄与しており、インプラント乳房再建が年々増加している。
 一方、薬物療法は、この10数年間に次々に新しい有用な薬剤が開発され、診療ガイドラインの改訂とその遵守により、エビデンスに基づいた標準治療が広く行われるようになった。現在はホルモン受容体(ER、PgR)、増殖因子受容体(HER2)の発現、患者の病期や臓器機能、薬物の有害事象、社会的な側面を含めた個別化治療(personalized medicine)が行われている。今後は、新しい分子生物学的プロファイリングを加味した個々人に最適な個別化治療(precision medicine)の確立が期待されている。
 本書は、乳癌診療の最新情報を幅広くまとめた年鑑である。医師やコメデイカルの方々の日常診療に役立てて頂ければ幸いである。稿を終わるに臨み、この10年間編集に携わっていただいた福田護、池田正、佐伯俊昭、鹿間直人の各先生と金原出版編集部の宇野和代様、佐々木瞳様に心より感謝申し上げる。

2017年6月
園尾 博司