動画でわかる徹底レクチャー 腹腔鏡下S状結腸切除術ハンズオントレーニング[DVD付]

腹部モデルを用いた解説手術動画で著者による技術指導を体感!

著 者 伊藤 雅昭
定 価 9,350円
(8,500円+税)
発行日 2023/12/10
ISBN 978-4-307-20421-7

B5判・96頁・カラー図数:217枚

在庫状況 あり

手術を映画に見立てた作業分解アプローチで大好評を博した『腹腔鏡下S状結腸切除術徹底レクチャー』の著者、伊藤雅昭先生による腹部モデルを用いた手技&ピットフォール解説手術動画(約2時間)をDVDに収録。血管・神経・脂肪・膜等の構造を精巧に再現し、解剖の認識にも有用な腹部モデルに、実際に手技を施しながら解説。著者から直接指導を受けているかのような臨場感(ハンズオントレーニング)を目指した。

【関連書籍】腹腔鏡下S状結腸切除術徹底レクチャー(DVD付)

【付録DVDサンプル動画:腹腔鏡下S状結腸切除術ハンズオントレーニング】
序文
執筆者一覧
本書の読み方
付録DVDの使い方

■手術手技編
Scene 02 直腸後腔に入る
Cut 01 腸間膜を展開する
Cut 02 腸間膜を切開する
Cut 03 直腸固有筋膜を同定する
Cut 04 直腸固有筋膜に沿って剥離する(ME:mesorectal excision)

Scene 03 IMA処理前の内側アプローチ
Cut 01 直腸固有筋膜に沿った剥離を頭側に連続させる
Cut 02 SRAを露出しながらIMA根部に向かって下腹神経前筋膜を背側に剥離する
Cut 03 上方郭清の頭側のラインを決める
Cut 04 IMV背側で腎前筋膜腹側の層を同定する
Cut 05 腰内臓神経のI MAへの枝(結腸枝)を処理する

Scene 04 IMA処理
Cut 01 IMA根部の血管処理

Scene 05 IMA処理後の内側アプローチおよびLCA/IMV処理
Cut 01 IMA周囲の左腰内臓神経の枝(結腸枝)を適切な位置で処理する
Cut 02 IMV背側において腎前筋膜を広く露出する
Cut 03 SD junction付近を内側から剥離する
Cut 04 LCA/IMVの血管処理
Cut 05 内側アプローチで剥離したスペースにガーゼを入れ、外側アプローチへ

Scene 06 外側アプローチ
Cut 01 SD junctionより口側で下行結腸外側のMonk's white lineを脾彎曲に向けて切開する
Cut 02 腎前筋膜から下行結腸〜SD junctionを授動し、内側アプローチの層と交通させる
Cut 03 SD junction付近の生理的癒着を剥離する

Scene 07 直腸周囲剥離
Cut 01 直腸を頭側やや右側に引き出して左側腹膜を切開する
Cut 02 直腸後腔の剥離を追加する

Scene 08 直腸間膜処理
Cut 01 直腸間膜処理の位置決め
Cut 02 直腸右側・後壁・左側の処理

Scene 09 切離
Cut 01 肛門側直腸を切離する

■細心の注意を払うべきピットフォール編
ピットフォール Scene 02 直腸後腔に入る
1 直腸間膜が面状に展開されていない→【!】剥離ラインが直腸に寄っていく
2 剥離ラインが直腸へ寄る→【!】直腸固有筋膜へ入り込み血管損傷
3 剥離ラインが外側へ入る→【!】下腹神経、尿管等損傷

ピットフォール Scene 03 IMA処理前の内側アプローチ
1 不十分なトラクション→【!】深く入って下腹神経損傷
2 助手によるIMA近傍のpedicleの展開不良→【!】深く入って尿管損傷
3 IMVの位置がわかりにくい視野展開→【!】剥離層の誤認やIMVおよび尿管の損傷

ピットフォール Scene 04 IMA処理
1 IMAと後腹膜の間に角度がとれていない→【!】IMA背側のスペースに安全に入れない
2 Vessel sheathの処理が不十分→【!】クリップのかかり具合不良
3 血管外膜に迫る際のアクティブブレードの誤った向き→【!】血管を熱損傷
4 クリップ間の距離が短い→【!】クリップに熱が伝わり脱落

ピットフォール Scene 05 (1)IMA処理後の内側アプローチ
1 ドーム状展開・トラクション不良→【!】正確な剥離層が出ず性腺血管損傷
2 SD junction付近での上方向へのトラクション不良→【!】尿管損傷、左下腹神経損傷

ピットフォール Scene 05 (2)LCA/IMV処理
1 LCAやIMVが血管処理時に寝ている→【!】デバイスが当たり血管損傷
2 LCA/IMV間での誤った鉗子・デバイス操作→【!】血管損傷
3 LCA切離後の余分な剥離辺縁→【!】血管損傷

ピットフォール Scene 06 外側アプローチ
1 SD junction付近外側から深く入る→【!】性腺血管・尿管損傷
2 助手右手のみの視野展開→【!】切り進める先のトラクションが弱くなる

ピットフォール Scene 07 直腸周囲剥離
1 直腸左側:トラクション不良→【!】性腺血管・尿管・左総腸骨血管損傷
2 直腸左側:視野展開不良→【!】下腹神経損傷

ピットフォール Scene 08 直腸間膜処理
1 直腸周囲を剥離し過ぎる→【!】余分な剥離
2 腸管を露出させる際の視野展開不良→【!】腸管壁を損傷
3 直腸とデバイスの角度不一致→【!】腸管の熱損傷/剥離ラインが斜めに
4 視野展開不良→【!】直腸剥離の先にある腸間膜損傷
5 直腸左側での術者の鉗子・デバイス操作不良→【!】血管損傷

ピットフォール Scene 09 切離
1 直腸を立てて切離:自動縫合器の操作不良→【!】切離ラインが斜めに/周囲の巻き込み
2 直腸を寝かせて切離:自動縫合器の操作不良→【!】切離ラインが斜めに/周囲の巻き込み
外科手術は合理的な治療方法だと今でも僕は信じている――

 およそ25年位前、僕は国立がん研究センター東病院の外科レジデントで、僕の手術に対する基盤的な考え方や判断思考は、主にこの3年間にその土台が築かれたと思う。毎日毎日行われるエキスパートの先生方の開腹手術を見ながら、自分と何が違うのか探した。
 左手の臓器の持ち方、組織の引っ張り具合やその方向、電気メスの焼き方やその動かすスピード……。
 僕ら若い外科医は術者の背後からその手術を盗み見ながら、十分とはいえない情報量のなかから先輩の手技を自分のものにしようともがいていた。外科医としてのスキルを高めるために精進し、外科の未来を疑うことはなかった。しかし当時、前向きな若手外科医に対してナイフのような言葉が突き刺さる。
 「将来、がんの手術はなくなる」
 このテーマが病院の飲み会の席でよく話題になっていた。今の東病院も変わりないが、当時も内科の諸先輩方は総じて「将来、がんを薬で治す」ことに並々ならぬ精力を注いでいた。お酒が入ったある偉い先生からこんなことを言われたことを思い出す。
 「外科医は木こりみたいなものだよな……。そこに立っている木を切り続ける、そんな単純な繰り返し作業に、がん治療の未来はない」
 当時、僕はお酒の力に任せて偉い先生に反撃を試みたが、彼らを説き伏せるほどの知識も経験も発言力もなく、議論の結末は毎回惨敗だった。
 そのような議論をしていた時代から二十数年経過したが、僕ら外科医は今なお「そこにあるがん」を切り続けている。
 そして外科医はがん治療の主役であり続けている。さらにいうと外科手術は切り続けるだけでなく、見事に進化を遂げてきた。
 
 近年、薬の治療は大きくがん治療に貢献した。特にこの10年、がんに関連した遺伝子の変異に応じた適切な化学療法が選択される時代になった。また、術前に抗がん剤や放射線療法の適切なコンビネーションを模索することにより、がんを極限まで消滅させ、ときに手術すら回避できるようになってきた。しかし、抗がん剤は長い治療期間や少なくない治療費用を要する。さらに抗がん剤のみで100%がんを消滅させることは極めて難しく、正常細胞への負の効果は今なお解決できていない。では、外科手術は?
 手術は数時間のうちにがん病巣を100%切り取り、一度の手術で患者さんの体からがん病巣を除去することができる。昔の手術では、大きな開腹の傷を避けることはできなかったが、内視鏡手術の到来により、手術の傷は小さく、それに伴う痛みも軽減された。
 ただそればかりでなく、内視鏡手術がもたらした最も大きな功績の一つは「手術に情報が導入されたこと」だと僕は思う。
 かつて僕が若かりし頃、直腸癌の手術は苦痛だった。助手として狭い骨盤腔を術者の先生のために視野展開することが若い医師の役割で、ときに10時間以上そのようなハードな肉体労働が課されていた。また、手術しているところをのぞき込むとよく叱られた。
 「頭が邪魔だ」
 内視鏡手術時代になり、手術は術者であろうと助手であろうと看護師であろうと、みんな同時に同じ情報を共有できるようになった。昨日行った手術を今日、みんなで振り返ることができるようになった。手術で行われた動画情報は大きな価値を有している。
 手術は暗黙知であるといわれる。だが、手術に導入された情報は蓄積され、解析されると、暗黙知は形式知に変換可能となる。すなわち手術を言語化し、視覚化することはおそらく、手術という以前はうまく説明できなかった治療行為をより客観的な作業に変換できる。そして手術は言葉になり、見えるようなものに変換されたとしたら、次の後進にそれを見せながら言葉で伝えることができる。すなわちトレーニングに応用できる。
 現状の外科医のトレーニングは十分な環境にあるとは言い難い。動物を用いた外科トレーニング、カダバートレーニング、あるいはシミュレーターを用いたトレーニングなどを利用して、我々は外科医としての技術を高める努力をしてきた。しかし、手術手技のすべての工程を、我々が通常の手術で使う鉗子やデバイスを使って繰り返し、完遂できるトレーニングモデルはない。
 このような外科医のトレーニング環境を改善したい、患者さんの手術をする前に、想定された外科手技をトレーニングする機会を増やしたいという外科医のニーズに対して、我々は「SIGMASTER」を開発した。SIGMASTERは手術を言語化し、視覚化できる有用なツールである。手術のなかで重要な解剖の把握、視野展開の重要性、剥離手技の会得、チームビルデイング、これらすべてを練習できるモデルである。かつ、人体でないモデルであるがゆえに、間違った手術手技を行ってしまった場合にどのような状況になるのか、どのようなデメリットを生じ得るのかも説明できる。
 本書の最も大きな特徴は、このモデルを使ってすべての腹腔鏡下S状結腸切除術の手技を「言語化」し、その手術工程を完全に「可視化」したことである。SIGMASTERの作成には数年の歳月を要した。このようなモデルを作成したいという発想は以前よりあったが、なかなかよい出会いがなかった。そのようななかでジョンソン・エンド・ジョンソンの関係者の方々のサポート、何よりもEBM代表の朴栄光さんのあきらめない力に、この場を借りて感謝申し上げたいと思います。そして金原出版の片山晴一さんには言葉にならないほどお世話になりました。皆さんがいなかったら、この本は完成しませんでした。
 そしてこの序文の最後に、僕のお祈りです。
 「あした天気になあれ」
 小学生が明日の遠足前に雨が降らないことを祈るように、僕が書いたこの本が皆さんに届き、少しでも多くの患者さんを笑顔にすることに役立てればと祈っています。

2023年11月12日
伊藤 雅昭