動画でわかる腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術 ―TAPP法のすべて―[解説DVD2枚付]

TAPPを極める! Dr.早川による待望のラパヘル書完成

著 者 早川 哲史
定 価 16,500円
(15,000円+税)
発行日 2022/06/10
ISBN 978-4-307-20444-6

A4判・176頁・カラー図数:161枚

在庫状況 あり

腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術の代表的な術式の一つである「TAPP」。本書は著者の5,000例を超えるTAPP経験より培った知識・理論を惜しみなく収録すると共に、多数の動画で実際の手術の流れ・ポイントを分かりやすく解説している。また、鼠径部ヘルニアでの技術認定の注意点についてもまとめた。腹腔鏡下手術全般の技術向上にも通じるTAPPの理解を通して外科医としての高みを目指せる、外科医必携の一冊!

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解説DVDの使い方

■ はじめに
1.世界のラパヘルの始まり
2.日本におけるラパヘルの歴史
(1)ラパヘルの変遷と成績
3.2021年版日本ヘルニア学会分類(新JHS分類)
4.腹腔内から見た鼠径部の解剖
5.TAPP手術時の基本的重要事項
6.ラパヘル再発率と偶発症・合併症

第1章 鼠径部ヘルニアガイドライン

第2章 鼠径部ヘルニア領域における日本内視鏡外科学会(JSES)技術認定制度
1.ヘルニア領域における技術認定審査の動向
2.ヘルニア領域審査基準の総論
(1)共通基準
(2)臓器基準

第3章 2021年版鼠径部ヘルニア分類(新JHS分類)とNCD登録
1.2021年版鼠径部ヘルニア分類(新JHS分類)
(1)2021年版鼠径部ヘルニア分類(新JHS分類)
(2)NCD登録時の追加項目
(3)補足説明
2.消化器外科学会における鼠径部ヘルニアにおけるNCD(National Clinical Database)登録

第4章 TAPPで重要な鼠径部解剖
1.鼠径部ヘルニアが発生する部位と修復する範囲の理解
2.皮膚から腹膜までの腹壁の解剖学的筋膜構造
3.損傷してはならない構造物の存在位置
4.ヘルニア門周囲の腹壁側と背側の筋膜層の融合
(1)ヘルニア門周囲の筋膜層融合の理解
5.T-TAPPにおける腹膜剥離時に必要な空間的・立体的概念
(1)カメラ位置と腹膜牽引展開操作について
(2)上下、左右、前後の空間的認識と腹膜剥離

第5章 de novo L型におけるT-TAPP
1.de novo L型の概念
2.de novo L型の早川分類
(1)タイプC
(2)タイプB
(3)タイプA

第6章 TAPPの合併症と注意点

第7章 術前準備と手術体位
1.手術前準備
2.手術機器・機材の整備
3.手術体位
4.トロッカー配置
5.ポート挿入
(1)第一ポートのオプティカル法
(2)第二ポート鉗子誘導挿入法
6.カメラの清拭・曇り防止
7.カメラオペレーターへの指導

第8章 T-TAPPの手術手技と手術手順(L型:外鼠径ヘルニア)
1.定型的な右側L型ヘルニアの手術手技(外側アプローチ)
(1)ヘルニア門環状切開
(2)クーパー靭帯周囲の剥離と重要な腹膜牽引・展開法
(3)難解な上縁腹壁腹膜の剥離
2.定型的な左側L型ヘルニアの手術手技(内側アプローチ)
(1)ヘルニア門環状切開
(2)クーパー靭帯周囲の剥離と重要な腹膜牽引・展開法
(3)腹膜剥離範囲(各症例のMPO剥離の確実な確認)
(4)メッシュの展開、固定

第9章 T-TAPPの手術手技と手術手順(M型:内鼠径ヘルニア)
1.M型(内鼠径)ヘルニア手術の基本的概念
(1)右側M型ヘルニアの手術手順
(2)左側M型ヘルニアの手術手順

第10章 T-TAPPの手術手技と手術手順
(F型:大腿ヘルニア・女性鼠径部ヘルニア・LPEC法)
1.F型(大腿)ヘルニア手術の基本的概念
(1)F型手術手技の注意点
2.女性鼠径部ヘルニアの基本的概念
(1)女性ヘルニアの手術手技
3.LPEC法の概念とT-TAPPにおける手術手技
 私が外科医となって早いもので40年が過ぎました。今から31年前の1991年に手術創を最小化する腹腔鏡下手術に出会い、恋をしました。その当時、10年目の若さで地域医療を求めて開業することを検討していた私の外科医人生は大きく変化し、開業は中止、この腹腔鏡下手術の普及と確立を人生のlife workとすることを決意しました。2005年には日本内視鏡外科学会(JSES:Japan Society for Endoscopic Surgery)のJSES技術認定をヘルニアではなく、胃癌で取得しました。その後、胃癌、大腸癌の腹腔鏡手術、胃癌のダビンチによるロボット支援手術を含め、1,000人以上行ってきました。2000年当時の私の将来に向けた目標は、一般臨床病院におけるGeneral Laparoscopic Surgeonの育成でした。つまり、それまでは開腹手術で修練してきた胃癌、大腸癌、ヘルニア、胆石症、虫垂炎などの代表的な外科疾患すべてを腹腔鏡下手術で治療できる外科医を育成することでした。
 JSESの最新の第15回アンケート調査によると、1991年に日本で始まった腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(本書では以後 ラパヘル)は、2019年の現在では21,706症例に施行され、鼠径部ヘルニア治療の標準術式の代表的な一つとなりました。1991年の開始当初は、腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパコレ)と同様にラパヘルも日本中に大きく広がっていきました。その後、ラパヘルは手術の難易度が高い、手術時間が長い、教育が難しい、全身麻酔が必要であることなどから次第に敬遠され、同時期に普及したメッシュプラグ法などのtension free術式に圧倒されるようになり、1996年をピークに10年ほど衰退していきました。私は腹腔鏡下手術の恩師である松本純夫先生のラパヘル手術書を参考に、1993年から胃癌、大腸癌手術と同時にラパヘルを開始しました。当初から、ラパヘルは術後疼痛の緩和・早期社会復帰などの術後QOL(Quality of life)が改善できる重要な術式であると高く評価していました。ラパヘル開始後は腹腔鏡下手術が圧倒的に患者のQOLを改善することを肌で学び、将来的にほとんどの外科手術が腹腔鏡下手術に置き換わり、近い将来に外科手術の中心となる時代が必ず来ることを若くして確信しました。その中でも、ラパヘルをGeneral Laparoscopic Surgeonの育成に最重要の腹腔鏡下手術と位置付けました。
 ラパヘルを日本中に普及させるために、一般外科医に向けた鼠径部筋膜解剖構造の究明、標準的な手術術式の改良と確立、難症例への対応、L 型特殊タイプであるde novo L型ヘルニアの認識と周知、若い外科医への継続性のある教育法の確立などに長い間取り組んできました。2022年までの外科医生活40年間に5,000例以上のTransabdominal Preperitoneal Repair(以後 TAPP)を経験してきました。その間に教育講演、ビデオシンポジウムでの発表、動物による実技講習、日本中の臨床病院への直接の手術指導、多数の手術手技書の作成などを行い、また200名を超える全国の外科医が私の施設に手術見学にみえました。
 この書籍では、一般外科医に知っていて欲しい私が培ってきたTAPPのすべてを網羅しました。基礎編では、日本や世界の歴史、分類、ガイドラインなどに加えて、鼠径部解剖の理論、de novo L型の概念、手術時の準備や術中・術後の重要なポイント、標準的なL型・M型・F型・女性ヘルニアに対する手術理論、手術手技、技術認定試験への考え方などの詳細を解説しました。早川独自理論によるHayakawa Tetsushi理論のTAPP(以後 T-TAPP)の経験から得たすべてを集約しました。日本全国の講演やセミナーで発信してきた多数の手術動画を再編集し、多数のビデオを追加して音声付きビデオでまとめました。本書を読みながら早川と一緒に手術を行っている風景を感じていただければと思います。
 また、別途de novo L型症例の手術、再発症例の手術法、難症例への対応、前立腺癌手術後のTAPP、ピットホール、複雑症例などの多数のビデオ解説を中心とした応用編を作成中です。現在TAPPを担当・指導している外科医や、これからTAPPを学ぼうとしている若い外科医のTAPPバイブルとなるように、心を込めて編集しました。TAPPは腹腔鏡下手術のすべての手技が鏤ちりばめられている手術です。本書は、今まで語ることのなかったT-TAPPにおける詳細な早川理論と重要ポイントを列挙し、5,000例以上のTAPP手術経験から習得してきた知識と理論の玉手箱となっています。楽しみながら読んでいただけるように重要ポイント、早川メモも追加しました。このT-TAPPの理論・技術を習得していただき、安全な手術が短時間で完遂できれば、胃癌、大腸癌などの高難度の腹腔鏡下手術も自然と安全に完遂できるようになります。
 I.解剖・発生学的知識の習得
 II.腹腔鏡下手術の理論武装
 III.腹腔鏡下手術の技術習得
 IV.自らの経験を反省する勤勉な態度
 V.手術機器・機材と環境の知識
以上の5点は外科医が習得すべきすべてであり、特に疎かにしがちなI、IIに全精力を注ぐように若手を常日頃から厳しく指導してまいりました。本書はT-TAPPにおけるI〜Vのすべてを微に入り細に入り解説しています。手術映像を中心とした本書は、5,000例以上のT-TAPPにおける早川の集大成でもあり、皆様のお役に立てることを切に願っています。
今後保険適用になると思われるロボット支援手術のロボヘルを行うときにも、このT-TAPPの概念と理論は必ず必要になります。皆様がこの書籍を手に取り、笑顔になっていただければ外科医冥利に尽きます。
本書籍の編集にあたって我儘な早川の意見を採用していただいた金原出版の片山晴一さん、中川茜さんはじめ編集部の皆様によるご尽力に心より感謝いたします。

2022年6月吉日
早川 哲史
早川先生の繊細で鮮やかなTAPPを、より多くの外科専攻医に
“技術認定試験合格への道”

 早川先生との初対面がいつだったか資料を探した。2006年1月12日の日付で早川先生から頂いたお手紙が、お付き合いの始まりだったように思う。そのお手紙の始まりは「遠隔医療支援システム参画のお願い」であった。そして以下の内容が続く。「豊田会刈谷総合病院では手術手技の向上及び若手医師の教育・研修を目的とした手術室映像遠隔医療支援システムを立ち上げ……全国の核となる病院を光ファイバー網で繋ぐことにより腹腔鏡下手術を中心としたリアルタイムの先進医療・技術の共有化及び若手医師の研修レベルの向上を図る……。」技術革新に伴う斬新な手術教育にかける早川先生の熱い想いが綴られていた。コロナ禍で国内のデジタル化の遅れが露見し、医療界でも遠隔診療・遠隔手術支援が叫ばれる折、早川先生の時代を先取りした考えと行動力を再認識した。
 豊田会から遠隔医療システムが提供され京都大学で稼働したのは2006年10月である。早速、刈谷総合病院からTAPP手術が中継されてきた。私自身は遠い昔の前方アプローチの経験しかなく、さらに難解な解剖用語のためかヘルニア手術に辟易していた。しかし、初めて見るTAPPに驚嘆したことを覚えている。難解な解剖用語が削ぎ落とされ、繊細で鮮やかなTAPPは自分にもできそうな気持ちになった。何回か遠隔医療システムを用いたTAPP手術指導を受け、教室でもTAPPを採用し、その後関係病院へこの手術が普及した。
 このたび、『動画でわかる腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術─ TAPP法のすべて─』が上梓された。ラパヘルの歴史、国内外の現状、外科解剖、手術器具、そして圧巻はシェーマと静止画を用いての手術操作・手順のきめ細かい解説である。しかも解説付きの動画も添付され、危険な操作がどのような場面で起きるのか、その防止策まで視覚的に理解することができる。早川先生のTAPPへのこだわり、外科教育への情熱の集大成である。日本内視鏡外科学会技術認定試験・ヘルニアの合格率は20%と大変厳しいが、本書はまさに“技術認定試験合格への道”となる教科書であり、ひいては合併症や再発率の防止により国民医療への多大な貢献につながるものと確信する。一人でも多くの外科専攻医に手にしてもらいたい教科書である。
 豊田会から提供された遠隔医療システムは、その後国内でのライブサージャリーへの注意喚起もあり十分活用できなかったことが残念である。

大阪赤十字病院 院長
坂井 義治