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十二指腸癌診療ガイドライン 2021年版
本邦初!十二指腸癌診療の指標となるガイドライン登場
編 集 | 十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会 |
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定 価 | 3,300円 (3,000円+税) |
発行日 | 2021/08/05 |
ISBN | 978-4-307-20451-4 |
B5判・120頁・図数:2枚・カラー図数:7枚
在庫状況 | あり |
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本ガイドラインは非乳頭部十二指腸上皮性悪性腫瘍(腺腫・粘膜内癌を含む)の存在が疑われる患者、非乳頭部十二指腸上皮性悪性腫瘍と診断された患者を対象集団として編集した。十二指腸癌は希少癌に属するが、近年の消化管内視鏡検査技術や画像検査など診断モダリティの進歩により、発見される機会の増加が予想される。専門医のみならず十二指腸癌診療に携わるすべての臨床医に対し、広く十二指腸癌診療の指標を示した。
利益相反の開示
推奨決定会議における投票の棄権
総論・CQ 担当者一覧
略語一覧
本ガイドラインについて
1 本ガイドラインの目的
2 本ガイドラインの適応が想定される対象者、および想定される利用対象者
3 本ガイドラインを使用する場合の注意事項
4 本ガイドラインの特徴
5 エビデンス収集方法(文献検索)
6 エビデンスの評価・システマティックレビューの方法
7 推奨決定の方法
8 ガイドライン作成作業の実際
9 外部評価およびパブリックコメント
10 今後の改訂
11 資金
12 利益相反に関して
13 協力者
14 参考文献
CQ/ステートメント一覧
総論
[1]診断
I 治療前診断
II 術後、再発・転移のモニタリング
III 病理診断
[2]治療
I 内視鏡治療
II 外科的治療
III 薬物療法
診断・治療アルゴリズム
診断アルゴリズム
治療アルゴリズム
各論
診断・内視鏡治療CQ1-1 十二指腸癌の疫学について
診断・内視鏡治療CQ1-2 十二指腸癌のリスクは何か?
診断・内視鏡治療CQ2-1 十二指腸腺腫は治療対象か?
診断・内視鏡治療CQ2-2 十二指腸腫瘍における腺腫と癌の鑑別をどのように行うか?
診断・内視鏡治療CQ3-1 粘膜内癌と粘膜下層癌の鑑別には何が推奨されるか?
診断・内視鏡治療CQ3-2 遠隔転移診断に何が推奨されるか?
診断・内視鏡治療CQ4-1 十二指腸腫瘍に対する各種内視鏡治療の適応基準は何か?
診断・内視鏡治療CQ4-2 各種内視鏡治療の術者・施設要件は何か?
診断・内視鏡治療CQ5 表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する内視鏡治療後の偶発症予防は推奨されるか?
診断・内視鏡治療CQ6-1 内視鏡治療後に外科的治療を行う推奨基準は何か?
診断・内視鏡治療CQ6-2 内視鏡治療後局所再発ならびに異時性多発の早期発見のために、内視鏡によるサーベイランスは推奨されるか?
外科治療CQ1 十二指腸癌に対する外科的治療においてリンパ節郭清は推奨されるか?
外科治療CQ2 深達度や占居部位を考慮し、膵頭十二指腸切除術以外の術式を行うことは推奨されるか?
外科治療CQ3 十二指腸癌外科切除後の再発診断にはどのようなフォローアップが推奨されるか?
内視鏡・外科治療CQ1 閉塞症状を伴う切除不能十二指腸癌に対する消化管吻合術や内視鏡的ステント挿入は推奨されるか?
薬物療法CQ1 切除可能十二指腸癌を含む小腸癌に周術期補助療法を行うことは推奨されるか?
薬物療法CQ2 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌にMSI検査、HER2検査、RAS遺伝子検査は推奨されるか?
薬物療法CQ3 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌に全身薬物療法は推奨されるか?
薬物療法CQ4 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌に免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか?
検索式
索引
推奨決定会議における投票の棄権
総論・CQ 担当者一覧
略語一覧
本ガイドラインについて
1 本ガイドラインの目的
2 本ガイドラインの適応が想定される対象者、および想定される利用対象者
3 本ガイドラインを使用する場合の注意事項
4 本ガイドラインの特徴
5 エビデンス収集方法(文献検索)
6 エビデンスの評価・システマティックレビューの方法
7 推奨決定の方法
8 ガイドライン作成作業の実際
9 外部評価およびパブリックコメント
10 今後の改訂
11 資金
12 利益相反に関して
13 協力者
14 参考文献
CQ/ステートメント一覧
総論
[1]診断
I 治療前診断
II 術後、再発・転移のモニタリング
III 病理診断
[2]治療
I 内視鏡治療
II 外科的治療
III 薬物療法
診断・治療アルゴリズム
診断アルゴリズム
治療アルゴリズム
各論
診断・内視鏡治療CQ1-1 十二指腸癌の疫学について
診断・内視鏡治療CQ1-2 十二指腸癌のリスクは何か?
診断・内視鏡治療CQ2-1 十二指腸腺腫は治療対象か?
診断・内視鏡治療CQ2-2 十二指腸腫瘍における腺腫と癌の鑑別をどのように行うか?
診断・内視鏡治療CQ3-1 粘膜内癌と粘膜下層癌の鑑別には何が推奨されるか?
診断・内視鏡治療CQ3-2 遠隔転移診断に何が推奨されるか?
診断・内視鏡治療CQ4-1 十二指腸腫瘍に対する各種内視鏡治療の適応基準は何か?
診断・内視鏡治療CQ4-2 各種内視鏡治療の術者・施設要件は何か?
診断・内視鏡治療CQ5 表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する内視鏡治療後の偶発症予防は推奨されるか?
診断・内視鏡治療CQ6-1 内視鏡治療後に外科的治療を行う推奨基準は何か?
診断・内視鏡治療CQ6-2 内視鏡治療後局所再発ならびに異時性多発の早期発見のために、内視鏡によるサーベイランスは推奨されるか?
外科治療CQ1 十二指腸癌に対する外科的治療においてリンパ節郭清は推奨されるか?
外科治療CQ2 深達度や占居部位を考慮し、膵頭十二指腸切除術以外の術式を行うことは推奨されるか?
外科治療CQ3 十二指腸癌外科切除後の再発診断にはどのようなフォローアップが推奨されるか?
内視鏡・外科治療CQ1 閉塞症状を伴う切除不能十二指腸癌に対する消化管吻合術や内視鏡的ステント挿入は推奨されるか?
薬物療法CQ1 切除可能十二指腸癌を含む小腸癌に周術期補助療法を行うことは推奨されるか?
薬物療法CQ2 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌にMSI検査、HER2検査、RAS遺伝子検査は推奨されるか?
薬物療法CQ3 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌に全身薬物療法は推奨されるか?
薬物療法CQ4 切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌に免疫チェックポイント阻害薬は推奨されるか?
検索式
索引
・序文
希少がんとは疫学的に年間の罹患率が人口10万人当たり6例未満の癌を指す。その希少さゆえにエビデンスが不足しており、日常診療上問題になることが多い。各々の希少がんに罹患する可能性は低いわけだが、院内がん登録に基づいた調査によれば希少がんの定義を満たす癌はすべての癌の15%にのぼるとされており、ヒトが何らかの希少がんに罹患する可能性は決して低いとは言えない。したがって、希少がん対策はわが国のみならず世界中の癌診療における大きな課題である。
希少がんの問題点として、診療経験の少なさゆえに病理診断に難渋する場合がある点、手術療法においては切除範囲や郭清範囲についてのエビデンスが少ない点や稀にしか行われない手技を必要とする場合がある点、薬物療法においては開発治験の対象となりにくく、臨床試験によるエビデンスが存在するレジメンが特に高次治療において稀である点などが挙げられる。各担当医が時に症例報告も含めた文献検索を行って何らかの判断をしながら手探りで診療をすすめることになりがちで、あらかじめこうした検討が系統的になされていてその結果がエビデンスレベルの高さと共に記載されたもの、すなわちガイドラインがあれば、臨床の場では大いに役立つと思われる。また、われわれ日本人はこれまで国民皆保険という恵まれた制度の恩恵を受けてきたが、昨今のように非常に厳密にこれが適用されると保険収載されていない治療の実施はむずかしい。希少がんにあらゆる局面で対応できるように手技や処方が保険収載されているわけではないので、結果として希少がん診療においてはこの観点からも困惑する場面があり、こうした場合にもガイドラインは何らかの道しるべになるものと思われる。
このような背景から、がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上(2017年度〜2019年度)」では希少がんのガイドライン作成をもっとも重要な使命としてきた。私は研究代表者として、消化器外科医でありながら脳腫瘍や泌尿器科領域のガイドライン作成を先行させていたが、教室の手術件数の動向からも様々な調査からも、十二指腸癌は近年増加傾向であると感じていた。胃癌のスクリーニングに内視鏡が用いられるようになり、多くの内視鏡医が乳頭部まで観察してくれるので、比較的早期の病変が見つかる契機となっているように思われた。十二指腸は消化管ではあるが、外科治療においては膵臓や胆道に触れざるを得ない複雑な解剖学的位置にあることから、和歌山県立医科大学の山上裕機教授に相談させていただいたところ、すぐに日本肝胆膵外科学会の山本雅一理事長(当時)とご相談いただき、日本胃癌学会と共にガイドラインを作成するお許しをいただいた。また、十二指腸は厳密に言えば小腸の一部であることから、小腸腫瘍の取扱い規約やガイドラインの編纂を進めておられる大腸癌研究会の橋口陽二郎ガイドライン委員長とも相談し、十二指腸癌の診療ガイドラインを別途作成するお許しをいただいた。山上教授には引き続き総括的な指導をいただきつつ奈良県立医科大学の庄雅之教授に作成委員長をお願いし、両学会から推薦を受けた比較的若いメンバー構成で2018年8月16日に東京で行われた第1回の作成委員会を皮切りに作成が開始された。以後、領域に分かれての小委員会を除いて9回にわたる作成委員会が開催され、エビデンスが少ない希少がんというハンディにもかかわらずMinds診療ガイドライン作成マニュアルに則った方法でこのような立派なガイドラインが出来上がった。まずは庄委員長以下、ガイドライン委員の先生方に深く感謝申し上げる次第である。
なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響で作成委員会の開催を見合わせた時期があり、このために完成が数か月遅れる羽目となった。第6回以降の作成委員会はweb開催となり移動時間が省けるメリットもあったのだが、それまでに対面で会議を重ね人間関係が形成されていなければむずかしい面もあったのではないかと思われる。しかし、現在のメンバーが中心であればwithCorona時代のガイドライン改訂も円滑に進められることであろう。庄委員長を中心に行われた大規模な調査によって改訂のために必要ないくつかのエビデンスが既に出そろい始めていることも申し添える。今後は消化器疾患の診療に関わる多くの医療者の方々に本ガイドラインをご利用いただくとともに、改訂に向けてご意見を賜れれば幸いである。
私にとって、本ガイドラインはがん対策推進総合研究事業の中で自ら最初から完成まですべての行程を見届けることができた唯一のガイドラインである。そこでは作成委員会を重ねるごとに若い作成委員や事務局の方々がMinds診療ガイドライン作成マニュアルに習熟していかれる姿を目の当たりにすることができ、強い感銘を受けた。本ガイドラインの作成に関わってくださった方々は、今後は本ガイドラインの改訂のみならず他のガイドラインの作成においても中心的な役割を果たすことができるものと信じて疑わない。そこに本がん対策推進総合研究事業の真価を見た思いであったことから、後継のがん対策推進総合研究事業は「学会連携を通じた希少癌の適切な医療の質向上と次世代を担う希少がん領域の人材育成に資する研究(2020年度〜2022年度)」と名付けた。今後も希少がん対策としてのガイドライン作成やそれに付随する研究を幅広く支援していきたいと考えている。
がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上(2017年度〜2019年度)」 研究代表者
がん対策推進総合研究事業「学会連携を通じた希少癌の適切な医療の質向上と次世代を担う希少がん領域の人材育成に資する研究(2020年度〜2022年度)」 研究代表者
名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学
小寺 泰弘
・初版の序
十二指腸癌(乳頭部癌を除く)は消化器癌の中でも希少がんに属する疾患である。しかし、日常診療においては遭遇する機会が少しずつ増えている印象がある。実際、当委員会で実施した直近10年の手術症例に関する全国調査の結果からも経年的に増加していることが示されている。希少がんゆえに明確な標準治療といえるものはなく、治療計画も立てにくいのが現状である。また、十二指腸の解剖学的特性から診断、治療においてはいくつかの難しい側面がある。診断においては、内視鏡診断が主になるが、内視鏡技術の進んでいるわが国においても、施設間格差も含めて適切な診断が必ずしも容易でない場合もある。一方、治療においては、外科手術、内視鏡治療、薬物療法、放射線治療、あるいはそれらの組み合わせを含めて様々な選択肢がある。また、個々の治療法の必要性、妥当性の判断や検証は難しいことも多い。実際、手術では至適術式やリンパ節郭清範囲の決定は必ずしも容易ではない。また、薬物療法においては、ゲノム医療が進む中でも、術後補助療法や進行例・再発例に対する治療レジメンの選択もしばしば困難である。
今回、がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上」における研究代表者であり、日本胃癌学会理事長でもあられる名古屋大学 小寺泰弘教授ならびに日本肝胆膵外科学会前副理事長、和歌山県立医科大学 山上裕機教授が主導され、両学会の支援の下、十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会が発足した。委員会発足の背景には、希少疾患とはいえ、日常診療においては決して稀ではなく、臨床現場にガイドラインのニーズも少なからず存在していたと思われる。そのような中、小寺、山上両教授の強いリーダーシップの下、2018年8月に両学会からの推薦を受けた新進気鋭の若手を含むメンバーが全国から招集され、私が委員長を拝命することとなった。実際の委員会メンバーは、外科では上部消化管と肝胆膵、内科では消化管内視鏡診断・治療、化学療法、放射線治療、もしくは病理を専門とされており、その専門領域は多岐にわたり、互いに初めて出会うメンバーも多かった。また、私も含め、ガイドライン作成に不慣れな委員も比較的多く、委員会の初期の頃は手探りの状況であったが、Minds診療ガイドライン作成マニュアルの勉強からはじめ、少しずつその方法に習熟していった。多忙を極める各委員であったが、できる限り対面でのコミュニケーションを大切にしつつ、定期的な委員会の開催毎に具体的な目標をもって回を重ねていき、徐々に議論が深まっていった。しかし、COVID-19感染症の流行、蔓延によって委員会の延期、対面からオンライン委員会への移行と、思わぬ事態も途中発生した。できる限り遅滞なく作業を進めてきたものの、工程の遅れが生じたことは否めない。しかし、実際のガイドライン作成の過程では、各委員は極めて真摯に、精力的に参画していただいた。この場をお借りして深く感謝申し上げたい。議論が白熱し、結論を得にくい場面も少なくはなかったが、初版を上梓するにいたったことはまさに感無量である。また、ガイドライン作成過程において行なった文献検索を元に、各委員、グループで数編のシステマティック・レビュー論文が執筆できた。いずれも臨床的価値のある論文であり、大きな成果であると思う。また、本委員会ではガイドライン作成と並行して、外科治療に関する全国調査を行ない、論文発表を予定している。これらの委員会としての活動の成果を今後のガイドライン改訂作業にも組み入れていきたいと考えている。
初版である本ガイドラインは、エヴィデンスが極めて限られた中で作成されたことは疑いなく、今後様々なご批判をいただきたい。また今後は、データの蓄積や医療の進歩に即した、継続的な改訂も必要と思われる。しかし、十二指腸癌に関わる外科、内科、腫瘍内科、放射線治療医、病理医など多岐にわたる専門分野の委員が協力し、知恵を出し合い、多くの議論を重ねた結果として、本ガイドラインを発刊できたことは価値のあることと信じたい。最後に、膨大な時間を割いて作業に向き合ってくれた委員各位、またそれぞれの施設でご尽力いただいた多数の協力者各位、さらに多方面からご支援、ご助言、ご協力をいただいた皆様に心から御礼申し上げたい。患者さんにとって、またその診療にあたる医療者にとって、本ガイドラインが有用、有益なものとなることを切に願う次第である。
2021年4月14日
十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会 委員長
庄 雅之
希少がんとは疫学的に年間の罹患率が人口10万人当たり6例未満の癌を指す。その希少さゆえにエビデンスが不足しており、日常診療上問題になることが多い。各々の希少がんに罹患する可能性は低いわけだが、院内がん登録に基づいた調査によれば希少がんの定義を満たす癌はすべての癌の15%にのぼるとされており、ヒトが何らかの希少がんに罹患する可能性は決して低いとは言えない。したがって、希少がん対策はわが国のみならず世界中の癌診療における大きな課題である。
希少がんの問題点として、診療経験の少なさゆえに病理診断に難渋する場合がある点、手術療法においては切除範囲や郭清範囲についてのエビデンスが少ない点や稀にしか行われない手技を必要とする場合がある点、薬物療法においては開発治験の対象となりにくく、臨床試験によるエビデンスが存在するレジメンが特に高次治療において稀である点などが挙げられる。各担当医が時に症例報告も含めた文献検索を行って何らかの判断をしながら手探りで診療をすすめることになりがちで、あらかじめこうした検討が系統的になされていてその結果がエビデンスレベルの高さと共に記載されたもの、すなわちガイドラインがあれば、臨床の場では大いに役立つと思われる。また、われわれ日本人はこれまで国民皆保険という恵まれた制度の恩恵を受けてきたが、昨今のように非常に厳密にこれが適用されると保険収載されていない治療の実施はむずかしい。希少がんにあらゆる局面で対応できるように手技や処方が保険収載されているわけではないので、結果として希少がん診療においてはこの観点からも困惑する場面があり、こうした場合にもガイドラインは何らかの道しるべになるものと思われる。
このような背景から、がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上(2017年度〜2019年度)」では希少がんのガイドライン作成をもっとも重要な使命としてきた。私は研究代表者として、消化器外科医でありながら脳腫瘍や泌尿器科領域のガイドライン作成を先行させていたが、教室の手術件数の動向からも様々な調査からも、十二指腸癌は近年増加傾向であると感じていた。胃癌のスクリーニングに内視鏡が用いられるようになり、多くの内視鏡医が乳頭部まで観察してくれるので、比較的早期の病変が見つかる契機となっているように思われた。十二指腸は消化管ではあるが、外科治療においては膵臓や胆道に触れざるを得ない複雑な解剖学的位置にあることから、和歌山県立医科大学の山上裕機教授に相談させていただいたところ、すぐに日本肝胆膵外科学会の山本雅一理事長(当時)とご相談いただき、日本胃癌学会と共にガイドラインを作成するお許しをいただいた。また、十二指腸は厳密に言えば小腸の一部であることから、小腸腫瘍の取扱い規約やガイドラインの編纂を進めておられる大腸癌研究会の橋口陽二郎ガイドライン委員長とも相談し、十二指腸癌の診療ガイドラインを別途作成するお許しをいただいた。山上教授には引き続き総括的な指導をいただきつつ奈良県立医科大学の庄雅之教授に作成委員長をお願いし、両学会から推薦を受けた比較的若いメンバー構成で2018年8月16日に東京で行われた第1回の作成委員会を皮切りに作成が開始された。以後、領域に分かれての小委員会を除いて9回にわたる作成委員会が開催され、エビデンスが少ない希少がんというハンディにもかかわらずMinds診療ガイドライン作成マニュアルに則った方法でこのような立派なガイドラインが出来上がった。まずは庄委員長以下、ガイドライン委員の先生方に深く感謝申し上げる次第である。
なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響で作成委員会の開催を見合わせた時期があり、このために完成が数か月遅れる羽目となった。第6回以降の作成委員会はweb開催となり移動時間が省けるメリットもあったのだが、それまでに対面で会議を重ね人間関係が形成されていなければむずかしい面もあったのではないかと思われる。しかし、現在のメンバーが中心であればwithCorona時代のガイドライン改訂も円滑に進められることであろう。庄委員長を中心に行われた大規模な調査によって改訂のために必要ないくつかのエビデンスが既に出そろい始めていることも申し添える。今後は消化器疾患の診療に関わる多くの医療者の方々に本ガイドラインをご利用いただくとともに、改訂に向けてご意見を賜れれば幸いである。
私にとって、本ガイドラインはがん対策推進総合研究事業の中で自ら最初から完成まですべての行程を見届けることができた唯一のガイドラインである。そこでは作成委員会を重ねるごとに若い作成委員や事務局の方々がMinds診療ガイドライン作成マニュアルに習熟していかれる姿を目の当たりにすることができ、強い感銘を受けた。本ガイドラインの作成に関わってくださった方々は、今後は本ガイドラインの改訂のみならず他のガイドラインの作成においても中心的な役割を果たすことができるものと信じて疑わない。そこに本がん対策推進総合研究事業の真価を見た思いであったことから、後継のがん対策推進総合研究事業は「学会連携を通じた希少癌の適切な医療の質向上と次世代を担う希少がん領域の人材育成に資する研究(2020年度〜2022年度)」と名付けた。今後も希少がん対策としてのガイドライン作成やそれに付随する研究を幅広く支援していきたいと考えている。
がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上(2017年度〜2019年度)」 研究代表者
がん対策推進総合研究事業「学会連携を通じた希少癌の適切な医療の質向上と次世代を担う希少がん領域の人材育成に資する研究(2020年度〜2022年度)」 研究代表者
名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学
小寺 泰弘
・初版の序
十二指腸癌(乳頭部癌を除く)は消化器癌の中でも希少がんに属する疾患である。しかし、日常診療においては遭遇する機会が少しずつ増えている印象がある。実際、当委員会で実施した直近10年の手術症例に関する全国調査の結果からも経年的に増加していることが示されている。希少がんゆえに明確な標準治療といえるものはなく、治療計画も立てにくいのが現状である。また、十二指腸の解剖学的特性から診断、治療においてはいくつかの難しい側面がある。診断においては、内視鏡診断が主になるが、内視鏡技術の進んでいるわが国においても、施設間格差も含めて適切な診断が必ずしも容易でない場合もある。一方、治療においては、外科手術、内視鏡治療、薬物療法、放射線治療、あるいはそれらの組み合わせを含めて様々な選択肢がある。また、個々の治療法の必要性、妥当性の判断や検証は難しいことも多い。実際、手術では至適術式やリンパ節郭清範囲の決定は必ずしも容易ではない。また、薬物療法においては、ゲノム医療が進む中でも、術後補助療法や進行例・再発例に対する治療レジメンの選択もしばしば困難である。
今回、がん対策推進総合研究事業「希少癌診療ガイドラインの作成を通した医療提供体制の質向上」における研究代表者であり、日本胃癌学会理事長でもあられる名古屋大学 小寺泰弘教授ならびに日本肝胆膵外科学会前副理事長、和歌山県立医科大学 山上裕機教授が主導され、両学会の支援の下、十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会が発足した。委員会発足の背景には、希少疾患とはいえ、日常診療においては決して稀ではなく、臨床現場にガイドラインのニーズも少なからず存在していたと思われる。そのような中、小寺、山上両教授の強いリーダーシップの下、2018年8月に両学会からの推薦を受けた新進気鋭の若手を含むメンバーが全国から招集され、私が委員長を拝命することとなった。実際の委員会メンバーは、外科では上部消化管と肝胆膵、内科では消化管内視鏡診断・治療、化学療法、放射線治療、もしくは病理を専門とされており、その専門領域は多岐にわたり、互いに初めて出会うメンバーも多かった。また、私も含め、ガイドライン作成に不慣れな委員も比較的多く、委員会の初期の頃は手探りの状況であったが、Minds診療ガイドライン作成マニュアルの勉強からはじめ、少しずつその方法に習熟していった。多忙を極める各委員であったが、できる限り対面でのコミュニケーションを大切にしつつ、定期的な委員会の開催毎に具体的な目標をもって回を重ねていき、徐々に議論が深まっていった。しかし、COVID-19感染症の流行、蔓延によって委員会の延期、対面からオンライン委員会への移行と、思わぬ事態も途中発生した。できる限り遅滞なく作業を進めてきたものの、工程の遅れが生じたことは否めない。しかし、実際のガイドライン作成の過程では、各委員は極めて真摯に、精力的に参画していただいた。この場をお借りして深く感謝申し上げたい。議論が白熱し、結論を得にくい場面も少なくはなかったが、初版を上梓するにいたったことはまさに感無量である。また、ガイドライン作成過程において行なった文献検索を元に、各委員、グループで数編のシステマティック・レビュー論文が執筆できた。いずれも臨床的価値のある論文であり、大きな成果であると思う。また、本委員会ではガイドライン作成と並行して、外科治療に関する全国調査を行ない、論文発表を予定している。これらの委員会としての活動の成果を今後のガイドライン改訂作業にも組み入れていきたいと考えている。
初版である本ガイドラインは、エヴィデンスが極めて限られた中で作成されたことは疑いなく、今後様々なご批判をいただきたい。また今後は、データの蓄積や医療の進歩に即した、継続的な改訂も必要と思われる。しかし、十二指腸癌に関わる外科、内科、腫瘍内科、放射線治療医、病理医など多岐にわたる専門分野の委員が協力し、知恵を出し合い、多くの議論を重ねた結果として、本ガイドラインを発刊できたことは価値のあることと信じたい。最後に、膨大な時間を割いて作業に向き合ってくれた委員各位、またそれぞれの施設でご尽力いただいた多数の協力者各位、さらに多方面からご支援、ご助言、ご協力をいただいた皆様に心から御礼申し上げたい。患者さんにとって、またその診療にあたる医療者にとって、本ガイドラインが有用、有益なものとなることを切に願う次第である。
2021年4月14日
十二指腸癌診療ガイドライン作成委員会 委員長
庄 雅之