甲状腺癌取扱い規約 第9版

WHO分類第5版、ベセスダシステム第3版に準拠、4年ぶりの改訂

編 集 日本内分泌外科学会 / 日本甲状腺病理学会
定 価 3,850円
(3,500円+税)
発行日 2023/10/20
ISBN 978-4-307-20466-8

B5判・96頁・図数:4枚・カラー図数:99枚

在庫状況 あり

臨床領域ではsTNM分類、sEX分類の活用について明記、N分類の細分化も行った。用語はNCD症例登録フォームとの一致に努め、術前・術中所見のチェックリストを追加した。病理診断領域では境界病変を「低リスク腫瘍」として良性腫瘍と悪性腫瘍の間に組み入れた。遺伝子異常についても言及している。甲状腺癌診療の向上に寄与し、国際的に新たな知見を発信し続けるための礎となる一冊。
I.総論
  1.目的
  2.対象
  3.記載法の原則
  4.UICCによるTNM分類と病期(Stage)分類について

II.臨床的事項
 A.術前の所見
  1.自覚症状
  2.甲状腺腫瘤の所見
   a.腫瘤の占居部位
   b.腫瘤の大きさ
   c.腫瘤の性状
   d.皮膚および皮下組織
  3.術前の腫瘍分類
   a.cT分類
   b.cN分類
   c.cM分類
   d.cStage分類
  4.術前所見チェックリスト
 B.手術時の所見・外科治療の内容
  1.甲状腺腫瘤の所見
   a.腫瘤の占居部位
   b.腫瘤の大きさ
   c.腫瘤および甲状腺の割面
  2.手術時の腫瘍分類
   a.sT分類
   b.sEx分類
   c.sN分類
   d.sStage分類
  3.甲状腺切除範囲
  4.リンパ節郭清範囲(D分類)
  5.合併切除
  6.その他の手術
  7.腫瘍の遺残(R分類)
  8.手術合併症
  9.手術時の所見・外科治療の内容チェックリスト
 C.術後組織所見
  1.組織学的所見
   a.pT分類
   b.pN分類
  2.pStage分類
 D.手術以外の治療

III.UICCによるTNM分類と病期(Stage)分類

IV.甲状腺腫瘍の病理診断
 A.甲状腺切除検体の取扱い
  1.固定法
  2.切開法
  3.肉眼観察と切出し法
  4.遺伝子検査用標本処理
 B.組織学的分類
 C.組織型の説明
  1.腫瘍様病変
   a.腺腫様甲状腺腫
  2.良性腫瘍
   a.濾胞腺腫
   b.膨大細胞腺腫
  3.低リスク腫瘍
   a.乳頭癌様核所見を伴う非浸潤性濾胞型腫瘍
   b.悪性度不明な腫瘍
   c.硝子化索状腫瘍
  4.悪性腫瘍
   a.濾胞癌
   b.乳頭癌
   c.膨大細胞癌
   d.低分化癌
   e.未分化癌
   f.髄様癌
   g.混合性髄様癌・濾胞細胞癌
   h.リンパ腫
  5.その他の腫瘍
   a.篩状モルラ癌
   b.粘表皮癌
   c.好酸球増多を伴う硬化性粘表皮癌
   d.胸腺様分化を伴う紡錘形細胞腫瘍
   e.甲状腺内胸腺癌
   f.甲状腺芽腫
   g.肉腫
   h.その他
   i.続発性(転移性)腫瘍
  6.その他の甲状腺疾患
   a.嚢胞
 D.組織診断用のチェックリスト
  組織像
 E.細胞診
  1.インフォームド・コンセント
  2.標本採取
  3.標本作製法
   a.塗抹法
   b.固定法
   c.液状化検体細胞診
  4.報告様式
   a.判定区分
   b.判定区分の診断基準
   c.付帯事項
   d.本規約とベセスダシステムの異同
  5.細胞所見
   a.腺腫様甲状腺腫
   b.亜急性甲状腺炎
   c.橋本病
   d.濾胞性腫瘍
   e.硝子化索状腫瘍
   f.乳頭癌
   g.低分化癌
   h.未分化癌
   i.髄様癌
   j.リンパ腫
  細胞像
第9版序

 今回、甲状腺癌取扱い規約は第8版の上梓から4年弱という短い間隔で第9版の出版に至った。早期改訂の主因は第5版WHO分類および第3版ベセスダシステムの発行(ともに2023年)であるが、これを機会に臨床部分の懸案事項についても、いくつかの改訂を行った。委員の先生方の熱意と奮励に深く感謝申し上げたい。
 臨床部分ではUICC(第8版)との齟齬ができるだけ生じないように留意しつつも、甲状腺癌の記録上、重要と考える事項を盛り込んだ。そのためにやや煩雑となった感は否めず、利用者に不都合を生じる懸念はあるが、これについては歴史の判断を待ちたいと思う。
 総論は他の癌取扱い規約の記述内容に合わせるとともに、予後予測にはsTNM分類、sEx分類を活用するのがよいことを明記した。本規約独自の分類である腫瘍の甲状腺外浸潤の程度を表すEx分類は術中所見によるもの(sEx)のみとし、浸潤臓器のみならず深達度も考慮するものとした。また、N分類において、転移リンパ節の大きさおよび節外浸潤を取り入れた細分化を行ったが、国際分類のN1a、N1bと矛盾が生じないように配慮した。さらに上縦隔リンパ節転移を手術手技によって定めることを止め、解剖学的位置により定義しなおした。利用者の便宜を図るため、用語はNational Clinical Database(NCD)の症例登録フォームとできるだけ一致するように努め、参考までに術前・術中所見のチェックリストを設けた。
 病理部分では、第8版で採用を見送った境界病変(第4版WHO分類で新たに導入)を、国際性を重視するとともに、わが国の実臨床の状況との整合性に配慮して、「低リスク腫瘍」として良性腫瘍と悪性腫瘍の間に組み入れた。これを機に「過剰診断・過剰治療」という甲状腺癌における国際的な課題への対応において世界をリードしてきたわが国で、「低リスク腫瘍」の理解とエビデンス創出がいっそう進むことを期待したい。これ以外の部分でも第9版の組織学的分類は、原則的に第5版WHO分類に沿って改訂されている。背景にあるのは、甲状腺腫瘍の診断において形態のみならず腫瘍の遺伝子異常を重視する考え方で、今後の甲状腺癌治療にも直結する大きな流れとなるものと推測される。なお、細胞診報告様式は組織分類の変更に合わせて修正されている。
 本規約は甲状腺腫瘍診療における国際基準とわが国の独自性の両立を図りつつ、熟成されてきた。今後も甲状腺癌診療に携わる医師、研究者の水準の向上に寄与するとともに、国際的に新たな知見を発信し続けるための礎となることを願う。

2023年10月
規約委員会代表 杉谷 巌