Copyright© KANEHARA & Co., LTD. All Rights Reserved.
大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第5版 2023年3月
これからの大腸がん診療、遺伝子検査の実施に必須!
編 集 | 日本臨床腫瘍学会 |
---|---|
定 価 | 2,420円 (2,200円+税) |
発行日 | 2023/03/20 |
ISBN | 978-4-307-20469-9 |
B5判・116頁・図数:11枚
在庫状況 | あり |
---|
最新の大腸がん診療における遺伝子関連検査(RAS変異・BRAF変異検査、HER2検査、ミスマッチ修復機能欠損の判定、包括的ゲノムプロファイリング検査、リキッドバイオプシーなど)について適切な実施と治療への反映を解説。さらに、現在開発中の血管新生因子、DNAメチル化と多遺伝子アッセイ、腫瘍微小環境についても詳細に掲載。これからの大腸がん診療に欠かせないガイダンスとなってる。
略語表
はじめに
1 本ガイダンスにおける推奨内容と保険承認条件の関連性
2 総論
2.1 大腸がんの分子生物学的背景
2.2 大腸がんに認められる遺伝子異常の臨床的意義と遺伝子検査法の進歩
2.3 大腸がんの遺伝子関連検査に用いられる手法とその位置付け
3 RAS変異検査
3.1 背景
3.2 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗EGFR 抗体薬の適応判定を目的として、一次治療開始前にRAS変異検査を実施する。
3.3 切除可能進行再発大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、補助化学療法開始前にRAS変異検査を実施する。
3.4 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗EGFR抗体薬再投与の適応判定を目的として、血液検体を用いたRAS変異検査を実施する。
4 BRAF変異検査
4.1 背景
4.2 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、予後予測と、抗EGFR抗体薬とBRAF阻害薬およびMEK 阻害薬の適応判定を目的として、一次治療開始前にBRAF V600E変異検査を実施する。
4.3 切除可能進行再発大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、補助化学療法開始前にBRAF V600E変異検査を実施する。
4.4 大腸がん患者に対し、リンチ症候群の診断の補助を目的として、BRAF V600E変異検査を実施する。
4.5 BRAF変異検査法
5 HER2検査
5.1 背景
5.2 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗HER2療法の適応判定を目的として、抗HER2療法施行前にHER2検査を実施する。
5.3 切除不能進行再発大腸がんにおけるHER2検査において、IHC検査を先行実施し、2+と判定された症例に対してはISH検査を施行する。
6 ミスマッチ修復機能欠損を判定するための検査
6.1 背景
6.2 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、免疫チェックポイント阻害薬の適応判定を目的として、一次治療開始前にミスマッチ修復機能欠損を判定する検査を実施する。
6.3 切除可能進行再発大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、ミスマッチ修復機能欠損を判定する検査を実施する。
6.4 大腸がん患者に対し、リンチ症候群のスクリーニングを目的として、ミスマッチ修復機能欠損を判定する検査を実施する。
6.5 ミスマッチ修復機能欠損を判定する検査の種類:ミスマッチ修復機能欠損を判定する検査として、MSI検査を実施する/IHC検査を実施する/NGSを用いた検査を実施する。
7 組織検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査
7.1 背景
7.2切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として、組織検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。
8 リキッドバイオプシー
8.1 背景
8.2血漿検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査:切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として、血漿検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。
8.3微小残存腫瘍の検出および再発モニタリングを目的としたctDNA検査:治癒切除が行われた大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、微小残存腫瘍検出用のパネル検査を実施する。
9 検体に用いる試料
9.1 組織検体:体細胞遺伝子検査にはホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いる。また、対応するH&E染色標本で、未染薄切標本内に十分な量の腫瘍細胞が存在すること、および組織学的に想定される核酸の質が保たれていることを確認する。病変のホルマリン固定パラフィン包埋ブロックの選択とマクロダイセクション部位のマーキング、腫瘍細胞割合の評価は原則として病理医が行う。
9.2 血液検体:血漿検体を用いた遺伝子検査では、各検査法が指定する採血管および処理方法に準じて実施する。
10 検査精度の確保
大腸がん診療における遺伝子関連検査は、精度の確保された検査室で実施されなければならない。
11 現在開発中の検査
11.1 血管新生因子を指標としたアッセイ
11.2 抗EGFR抗体薬治療効果予測におけるDNAメチル化アッセイ
11.3 結腸がん術後再発予測における多遺伝子アッセイ
11.4 腫瘍微小環境
12 備考
日本臨床腫瘍学会におけるガイドライン、ガイダンスなどの定義
Appendix
索引
はじめに
1 本ガイダンスにおける推奨内容と保険承認条件の関連性
2 総論
2.1 大腸がんの分子生物学的背景
2.2 大腸がんに認められる遺伝子異常の臨床的意義と遺伝子検査法の進歩
2.3 大腸がんの遺伝子関連検査に用いられる手法とその位置付け
3 RAS変異検査
3.1 背景
3.2 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗EGFR 抗体薬の適応判定を目的として、一次治療開始前にRAS変異検査を実施する。
3.3 切除可能進行再発大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、補助化学療法開始前にRAS変異検査を実施する。
3.4 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗EGFR抗体薬再投与の適応判定を目的として、血液検体を用いたRAS変異検査を実施する。
4 BRAF変異検査
4.1 背景
4.2 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、予後予測と、抗EGFR抗体薬とBRAF阻害薬およびMEK 阻害薬の適応判定を目的として、一次治療開始前にBRAF V600E変異検査を実施する。
4.3 切除可能進行再発大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、補助化学療法開始前にBRAF V600E変異検査を実施する。
4.4 大腸がん患者に対し、リンチ症候群の診断の補助を目的として、BRAF V600E変異検査を実施する。
4.5 BRAF変異検査法
5 HER2検査
5.1 背景
5.2 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗HER2療法の適応判定を目的として、抗HER2療法施行前にHER2検査を実施する。
5.3 切除不能進行再発大腸がんにおけるHER2検査において、IHC検査を先行実施し、2+と判定された症例に対してはISH検査を施行する。
6 ミスマッチ修復機能欠損を判定するための検査
6.1 背景
6.2 切除不能進行再発大腸がん患者に対し、免疫チェックポイント阻害薬の適応判定を目的として、一次治療開始前にミスマッチ修復機能欠損を判定する検査を実施する。
6.3 切除可能進行再発大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、ミスマッチ修復機能欠損を判定する検査を実施する。
6.4 大腸がん患者に対し、リンチ症候群のスクリーニングを目的として、ミスマッチ修復機能欠損を判定する検査を実施する。
6.5 ミスマッチ修復機能欠損を判定する検査の種類:ミスマッチ修復機能欠損を判定する検査として、MSI検査を実施する/IHC検査を実施する/NGSを用いた検査を実施する。
7 組織検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査
7.1 背景
7.2切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として、組織検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。
8 リキッドバイオプシー
8.1 背景
8.2血漿検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査:切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として、血漿検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。
8.3微小残存腫瘍の検出および再発モニタリングを目的としたctDNA検査:治癒切除が行われた大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、微小残存腫瘍検出用のパネル検査を実施する。
9 検体に用いる試料
9.1 組織検体:体細胞遺伝子検査にはホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いる。また、対応するH&E染色標本で、未染薄切標本内に十分な量の腫瘍細胞が存在すること、および組織学的に想定される核酸の質が保たれていることを確認する。病変のホルマリン固定パラフィン包埋ブロックの選択とマクロダイセクション部位のマーキング、腫瘍細胞割合の評価は原則として病理医が行う。
9.2 血液検体:血漿検体を用いた遺伝子検査では、各検査法が指定する採血管および処理方法に準じて実施する。
10 検査精度の確保
大腸がん診療における遺伝子関連検査は、精度の確保された検査室で実施されなければならない。
11 現在開発中の検査
11.1 血管新生因子を指標としたアッセイ
11.2 抗EGFR抗体薬治療効果予測におけるDNAメチル化アッセイ
11.3 結腸がん術後再発予測における多遺伝子アッセイ
11.4 腫瘍微小環境
12 備考
日本臨床腫瘍学会におけるガイドライン、ガイダンスなどの定義
Appendix
索引
<発刊にあたり>
公益社団法人日本臨床腫瘍学会は、2008年11月に「大腸がん患者におけるKRAS遺伝子変異の測定に関するガイダンス第1版」、2014年4月に「大腸がん患者におけるRAS 遺伝子(KRAS/NRAS 遺伝子)変異の測定に関するガイダンス第2版」を刊行し、日常診療における抗EGFR抗体薬を含む治療方針決定にRAS遺伝子検査の重要性を啓発するとともに、添付文書改訂に対しても参照すべき学会コンセンサスとして重要な役割を果たしました。その後、2016年10月に発刊した「大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版」では、新たに臨床上の重要なバイオマーカーとしてBRAF V600E遺伝子変異やDNAミスマッチ修復(mismatchrepair:MMR)機能欠損を取り上げ、2018年のBRAF V600E遺伝子変異(同年8月)およびMMR機能欠損を判定するMSI検査(同年12月)の保険適用においても参照すべき学会コンセンサスとして重要な役割を果たしました。さらに、2019年12月に発刊した「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第4版」では、2019年6月に保険承認された2種類の包括的ゲノムプロファイリング検査とNTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対するTRK阻害薬に対応する内容を記載し臨床現場の要望にタイムリーに応えました。
今回の改訂第5版では、大腸がんの遺伝子関連検査の臨床的意義を深く理解できるように第4版の構成を踏襲し、総論で大腸がんの分子生物学的背景、大腸がんに認められる遺伝子異常と臨床的意義ならびに大腸がんの遺伝子関連検査に用いられる手法について分かりやすく解説してあります。各論には、新たにHER2検査が追加されたほか、血液検体を用いたRAS変異検査を加えたほか、BRAF変異検査、MMR機能欠損を判定するための検査や包括的ゲノムプロファイリング検査も最新情報に更新されています。また、今後、臨床導入が期待される新しいバイオマーカーの開発状況については第4版の「その他の検査」を「現在開発中の検査」として、これまでの血管新生因子、DNAメチル化と多遺伝子アッセイの内容を更新し、新たに腫瘍微小環境を追加してその内容を充実させています。さらに、各論の推奨内容は冒頭に保険承認条件との関連性で表にまとめられ、専門医のニーズに応える内容に仕上がっています。
このガイダンスが大腸がん治療に係わる多くの医療従事者に速やかに周知され、対象となる大腸がん患者に質の高い治療が速やかに提供されることを切に望みます。最後に衣斐寛倫委員長をはじめ、「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第5 版」作成ワーキンググループの委員の皆様には多大なるご尽力に心から感謝いたします。
2023年2月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
理事長 石岡 千加史
<発刊によせて>
大腸がんの分子生物学的特性の解明が進み、その成果として精密な診断、治療が可能となってきました。日々の大腸がんの診療において、腫瘍組織や血液を用いた遺伝子検査を実施し、結果に基づいて個々の症例に最も適切な治療法を選択するというアルゴリズムが確立しています。この結果、特に切除不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法は、さらなる生存期間の延長やQOLの改善を実現しました。これを支える遺伝子検査はより多彩になり、日常診療では適切なタイミングで検査を実施し、適切にその結果を解釈してゆくことが極めて重要となっています。
日本臨床腫瘍学会は大腸がんの遺伝子検査に基づく診療ガイダンスの第1版を、世に先駆けて2008年に発刊しました。これにはKRAS遺伝子解析の方法と結果に基づく治療方針が記載されました。その後、第2版(2014年)、第3版(2016年)、第4版(2019年)と版を重ね、それぞれの時期の最新情報を整理して記載し、大腸がん診療における適切な遺伝子検査実施の指針となってきました。そして第4版発刊後も、遺伝子検査に基づく大腸がん診療は著しい進歩があり、多くの新たな知見、エビデンスが蓄積しています。このたびの改訂第5版はこれらの新たな情報を網羅し、現在の最も適切な大腸がん診療を行ううえでの助けとなるとともに、近い将来に実臨床に導入される可能性のある研究開発状況も解説しています。
他臓器がんでは以前から行われてきた抗HER2療法が大腸がんでも実施可能となったのは大きな進歩と考えられます。HER2陽性大腸がんに対する本療法の効果は、HERACLES-A試験、MyPathway試験、そして本邦で行われたTRIUMPH試験の結果により示され、RAS遺伝子野生型に有効であることが分かりました。本ガイダンスでは「HER2 検査」の項目を新たにつくり、大腸がんにおけるHER2経路の臨床的意義と検査法、結果に基づく治療を明確に示しています。また「現在開発中の検査」の項では、治療法選択や治療経過のモニターにも有用と期待される、血管新生因子を指標とするアッセイ、DNAメチル化アッセイ、結腸がん術後再発予測のための多遺伝子アッセイ、そして免疫チェックポイント阻害薬の効果予測を念頭においた腫瘍微小環境の新たな評価法が挙げられています。これらについてもエビデンスが蓄積されており、近未来での実臨床応用が期待されています。
改訂第5版は、第4版に引き続き作成ワーキンググループ委員長をお務めいただいた衣斐寛倫先生の素晴らしいリーダーシップのもと、作成委員の献身的な努力により完成いたしました。さらに金原出版、日本臨床腫瘍学会事務局の皆様には改訂作業の開始時から発刊に至るまでの長い期間、細やかな支援を頂きました。ここに深く感謝の意を表します。
大腸がん診療の基盤となる遺伝子検査の全貌を記した本ガイダンス改訂第5版が、患者さんの健やかな暮らしのために日夜努力されている臨床医にとっての力強い支えとなるものと信じています。
2023年2月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
ガイドライン委員長 馬場 英司
公益社団法人日本臨床腫瘍学会は、2008年11月に「大腸がん患者におけるKRAS遺伝子変異の測定に関するガイダンス第1版」、2014年4月に「大腸がん患者におけるRAS 遺伝子(KRAS/NRAS 遺伝子)変異の測定に関するガイダンス第2版」を刊行し、日常診療における抗EGFR抗体薬を含む治療方針決定にRAS遺伝子検査の重要性を啓発するとともに、添付文書改訂に対しても参照すべき学会コンセンサスとして重要な役割を果たしました。その後、2016年10月に発刊した「大腸がん診療における遺伝子関連検査のガイダンス第3版」では、新たに臨床上の重要なバイオマーカーとしてBRAF V600E遺伝子変異やDNAミスマッチ修復(mismatchrepair:MMR)機能欠損を取り上げ、2018年のBRAF V600E遺伝子変異(同年8月)およびMMR機能欠損を判定するMSI検査(同年12月)の保険適用においても参照すべき学会コンセンサスとして重要な役割を果たしました。さらに、2019年12月に発刊した「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第4版」では、2019年6月に保険承認された2種類の包括的ゲノムプロファイリング検査とNTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対するTRK阻害薬に対応する内容を記載し臨床現場の要望にタイムリーに応えました。
今回の改訂第5版では、大腸がんの遺伝子関連検査の臨床的意義を深く理解できるように第4版の構成を踏襲し、総論で大腸がんの分子生物学的背景、大腸がんに認められる遺伝子異常と臨床的意義ならびに大腸がんの遺伝子関連検査に用いられる手法について分かりやすく解説してあります。各論には、新たにHER2検査が追加されたほか、血液検体を用いたRAS変異検査を加えたほか、BRAF変異検査、MMR機能欠損を判定するための検査や包括的ゲノムプロファイリング検査も最新情報に更新されています。また、今後、臨床導入が期待される新しいバイオマーカーの開発状況については第4版の「その他の検査」を「現在開発中の検査」として、これまでの血管新生因子、DNAメチル化と多遺伝子アッセイの内容を更新し、新たに腫瘍微小環境を追加してその内容を充実させています。さらに、各論の推奨内容は冒頭に保険承認条件との関連性で表にまとめられ、専門医のニーズに応える内容に仕上がっています。
このガイダンスが大腸がん治療に係わる多くの医療従事者に速やかに周知され、対象となる大腸がん患者に質の高い治療が速やかに提供されることを切に望みます。最後に衣斐寛倫委員長をはじめ、「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス第5 版」作成ワーキンググループの委員の皆様には多大なるご尽力に心から感謝いたします。
2023年2月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
理事長 石岡 千加史
<発刊によせて>
大腸がんの分子生物学的特性の解明が進み、その成果として精密な診断、治療が可能となってきました。日々の大腸がんの診療において、腫瘍組織や血液を用いた遺伝子検査を実施し、結果に基づいて個々の症例に最も適切な治療法を選択するというアルゴリズムが確立しています。この結果、特に切除不能進行・再発大腸がんに対する薬物療法は、さらなる生存期間の延長やQOLの改善を実現しました。これを支える遺伝子検査はより多彩になり、日常診療では適切なタイミングで検査を実施し、適切にその結果を解釈してゆくことが極めて重要となっています。
日本臨床腫瘍学会は大腸がんの遺伝子検査に基づく診療ガイダンスの第1版を、世に先駆けて2008年に発刊しました。これにはKRAS遺伝子解析の方法と結果に基づく治療方針が記載されました。その後、第2版(2014年)、第3版(2016年)、第4版(2019年)と版を重ね、それぞれの時期の最新情報を整理して記載し、大腸がん診療における適切な遺伝子検査実施の指針となってきました。そして第4版発刊後も、遺伝子検査に基づく大腸がん診療は著しい進歩があり、多くの新たな知見、エビデンスが蓄積しています。このたびの改訂第5版はこれらの新たな情報を網羅し、現在の最も適切な大腸がん診療を行ううえでの助けとなるとともに、近い将来に実臨床に導入される可能性のある研究開発状況も解説しています。
他臓器がんでは以前から行われてきた抗HER2療法が大腸がんでも実施可能となったのは大きな進歩と考えられます。HER2陽性大腸がんに対する本療法の効果は、HERACLES-A試験、MyPathway試験、そして本邦で行われたTRIUMPH試験の結果により示され、RAS遺伝子野生型に有効であることが分かりました。本ガイダンスでは「HER2 検査」の項目を新たにつくり、大腸がんにおけるHER2経路の臨床的意義と検査法、結果に基づく治療を明確に示しています。また「現在開発中の検査」の項では、治療法選択や治療経過のモニターにも有用と期待される、血管新生因子を指標とするアッセイ、DNAメチル化アッセイ、結腸がん術後再発予測のための多遺伝子アッセイ、そして免疫チェックポイント阻害薬の効果予測を念頭においた腫瘍微小環境の新たな評価法が挙げられています。これらについてもエビデンスが蓄積されており、近未来での実臨床応用が期待されています。
改訂第5版は、第4版に引き続き作成ワーキンググループ委員長をお務めいただいた衣斐寛倫先生の素晴らしいリーダーシップのもと、作成委員の献身的な努力により完成いたしました。さらに金原出版、日本臨床腫瘍学会事務局の皆様には改訂作業の開始時から発刊に至るまでの長い期間、細やかな支援を頂きました。ここに深く感謝の意を表します。
大腸がん診療の基盤となる遺伝子検査の全貌を記した本ガイダンス改訂第5版が、患者さんの健やかな暮らしのために日夜努力されている臨床医にとっての力強い支えとなるものと信じています。
2023年2月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会
ガイドライン委員長 馬場 英司