乳がん検診を科学する

初学者にも経験者にも役立つ、正しい乳がん検診学!

著 者 角田 博子 / 島田 友幸 / 高橋 宏和 / 竹井 淳子
定 価 3,850円
(3,500円+税)
発行日 2023/11/24
ISBN 978-4-307-20470-5

A5判・200頁・図数:4枚・カラー図数:61枚

在庫状況 あり

死亡率減少を目指した乳がん検診を行うために必要な知識を網羅した一冊。まず、がん検診そのものを学び、乳がん検診の統計データ・国際的な研究を紐解く。そして、さまざまなバイアス、利益、不利益について考え、日本における導入の歴史を知ることで理解を深める。高濃度乳房、ブレスト・アウェアネス、リスク層別化、HBOC等の話題のキーワードも詳細し、最後に医療者がよく聞かれる質問と模範回答をQ&A形式で示した。あなたは正しく回答できますか?
第1章 がん検診の考え方
1 健診と検診の違い
2 がん検診と早期診断
3 がん検診の対象者
4 がん検診の利益と不利益
5 がん検診の原則

第2章 対策型検診と任意型検診
1 がん検診の種類
2 がん検診の科学的根拠
3 がん検診のプロセス指標の考え方

第3章 乳がんに関する統計データ
1 わが国の乳がん罹患状況
2 乳がん年齢調整罹患率の推移
3 乳がん年齢調整死亡率の推移
4 罹患率と死亡率の関係

第4章 国際的なレビュー
乳がん検診のエビデンスとRCT
1 HIP Study(New York Study)
2 Malmo Study
3 Swedish Two County Study
4 Gothenburg Study
5 Stockholm Trial
6 UK Age Trial
7 Edinburgh Trial
8 Canada Study
結果の解釈/問題点

第5章 感度・特異度・陽性反応的中度
1 用語とその定義
2 感度と特異度、感度と陽性反応的中度(PPV)の関係

第6章 乳がん検診に関わるさまざまなバイアス
1 リード・タイム・バイアス
2 レングス・バイアス、レングス・タイム・バイアス
3 過剰診断バイアス
4 セルフ・セレクション・バイアス(自己選択バイアス)
5 ラベリング効果、偽陽性効果

第7章 利益・不利益
1 利益
2 不利益
3 利益不利益バランス

第8章 高濃度乳房
1 “高濃度乳房”が課題となったきっかけ
2 高濃度乳房とは何か
3 乳房構成の判定とその課題
4 高濃度乳房の頻度
5 高濃度乳房の問題点
6 高濃度乳房に関する海外の対応
7 日本の対策型検診における乳房構成に関する提言
8 高濃度乳房対策

第9章 日本の乳がん検診―1導入の経緯と精度管理
1 日本の対策型乳がん検診―マンモグラフィ導入の歴史
2 日本のマンモグラフィ検診の開始
3 マンモグラフィ検診の精度管理

第10章 日本の乳がん検診―2対象年齢と手法
1 検診の対象年齢
2 検診の方法

第11章 日本の乳がん検診―3超音波検査を併用した総合判定
1 超音波単独検診
2 J-START
3 乳がん検診のマンモグラフィと乳房超音波の総合判定
4 MRI検診

第12章 ブレスト・アウェアネス
1 自己触診(BSE)
2 BSEの検証
3 BSEの限界
4 ブレスト・アウェアネスへの流れ
5 ブレスト・アウェアネスとは何か
6 ブレスト・アウェアネスの理解度の現状

第13章 リスク層別化乳がん検診
1 リスク層別化の現状と課題
2 リスク層別化の試み
3 がん検診におけるリスク層別化

第14章 HBOCとサーベイランス
1 HBOC乳がんの特徴
2 HBOCサーベイランスの方法
3 乳房のサーベイランスの有用性
4 HBOC関連DCIS
5 今後の課題

第15章 質問集(Q&A)
質問1 乳がん検診では、マンモグラフィだけを受ければよいのでしょうか?
質問2 マンモグラフィは痛いので、超音波検査で代用できませんか?
質問3 マンモグラフィ検診で高濃度乳房と言われました。病院に行ったほうがよいですか?
質問4 70歳の私は、乳がん検診を受けなくてもよいのですか?
質問5 20代の私に、マンモグラフィ検診は不要ですか?
質問6 検診で要精検との結果でした。精密検査では異常なしでしたが、これからは外来で同じ先生に診てもらえませんか?
質問7 自治体の検診ではなく、自分でドックを受けようと思います。どこか良い検診施設はありますか?
質問8 親戚の1人が乳がんで、自分も心配です。1年に1回の検診ではなく、3カ月か半年ごとに診てもらえませんか?
質問9 今年の検診で乳がんが見つかりました。毎年ちゃんと検診を受けていたのに乳がんになるなんておかしくないですか?
質問10 自己触診をするように言われましたが、どうしたらよいでしょうか? 自分で触って分かりますか?

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)に関する質問
質問11 自分も家族も乳がんです。小学生の子どもに今から遺伝の検査を受けさせてもよいですか?
質問12 乳がんになりました。がんになっていない乳房も予防的に切除できますか?
質問13 ネットで申し込んだ遺伝子検査で、乳がんのリスクが高いという結果が出ました。これは遺伝性乳がんということでしょうか?

コラムリスト
・検診って何?
・市や区からお知らせがくる“対策型検診”って何?
・乳がん検診では、何人検診したら何人がんを見つければいいのでしょう?
・リスク比とハザード比
・感度99%、特異度99%の検査であっても事前確率(有病率)によってこんなに違う!
・Betty Ford効果
・名医・過剰診断スパイラル
・乳がん検診で“異常なし”ってどれだけ安心?
・HBOC診療ガイドラインの定性的システマティックレビュー
「乳がん検診を科学する」の発刊にあたって

 放射線科医になって40年近くが経とうとしている。その当時、スーパーローテーションなどはなく、卒業後すぐに検診の仕事をすることになった。胸部写真、消化管造影など、ひたすら見逃してはならないという思いだけで読影していたように思う。がん検診と日常のがん診療とは似て非なるものであり、がんの診断治療に優れた医療者が必ずしもがん検診のエキスパートではないことも理解していなかった。

 乳がん検診の世界に引き込まれたのは今から30年前、日本で対策型乳がん検診が開始されるに先立ち、乳がん検診先進国であるフィンランドに派遣されたのがきっかけであるが、それ以降検診とは何か真剣に学び続けることになった。検診は単に目の前の写真を読影していくだけのものではない。“検診は疫学である”とは同僚の検診従事者の言葉であるが、まさにそのとおり、医師、技師、看護師、保健師そして事務職などすべての検診従事者に、検診とは何かを伝えたいという気持ちがこの本を執筆する発端となった。

 一緒にこの思いを伝えてくれる共著者として島田友幸氏、高橋宏和氏、竹井淳子氏に執筆をお願いし、私が最初に考えていた内容を広く網羅する形で完成に至った。島田氏は2013年の乳がん検診ガイドライン作成メンバーであり、その経験がビジュアル構造化抄録に繋がった。高橋氏は高濃度乳房対策ワーキンググループのメンバーであり、系統だった検診の理論から学べることは多い。竹井氏は私が最も信頼する乳腺外科医の一人かつ遺伝性乳癌の専門家であり、遺伝性乳癌卵巣癌診療ガイドラインの作成メンバーである。

 マンモグラフィによる乳がん検診が国の対策として開始されすでに20年以上が経過した。検診の開始には先達の貴重な研究と努力があり、多くの医療者の参加があった。その導入の流れを知り、検診の理論を理解し、遺伝性乳癌を含め日進月歩する知識を効率よく学ぼうとしてもなかなか整理されたテキストは見当たらない。職種にかかわらず、すべての乳がん検診に携わる方々がこの本を手に取っていただき、“検診学”に興味をもち、あらためて乳がん検診に向き合うきっかけとなることができるなら、望外の喜びである。

2023年11月 角田 博子
 乳がんは悪性新生物(がん)の中で最もかかりやすい病気であり、日本のがん対策で特に重要になっている。また、乳がんは子宮頸がんと同じように若い女性で発症しやすいことから、女性をがんから守るため、さらには未曾有の少子化に歯止めをかけるため、乳がん検診の推進が日本のがん対策の要(かなめ)になっているといえる。

 その乳がん検診はどのように始まって、何故、今、マンモグラフィ検診なのか?

 日本における乳がん検診は1987年の視触診から始まったが、科学的根拠があったわけではない。その当時、欧米先進国では既にマンモグラフィ検診に関する臨床試験が行われ、一部の国ではその結果に基づいてマンモグラフィ検診が導入されていた。本書の著者である角田氏は30 年前のフィンランド訪問でそのことを学び「検診は疫学である」ことに気づく。その経験が本書発刊に至る契機となっている。

 その後、日本でも厚生省研究班などによる取組みがあり、2000年から視触診とマンモグラフィの併用検診、2016年からマンモグラフィを原則とする検診へと移行している。一方で、マンモグラフィ検診の高濃度乳房問題がクローズアップされ、その解決策の一つとして大規模臨床試験J-START により、マンモグラフィに乳房超音波検査を併用する新たな検診方法が注目されている。

 評者は長い間、日本の乳がん検診、とくにマンモグラフィ検診の導入に深く関わり、がん検診を科学的に行うことを目指してきた。とはいいながら、科学的根拠を広く一般の方々に説明するには難しい壁があると感じていた。しかし、その壁を取り除いてくれる、あるいは壁を超えようとする人の背中を押してくれるのが本書であることが分かる。

 がん検診の考え方、仕組みや統計データを理解し、マンモグラフィ検診には乳がんの死亡率を減少させる効果があること(国際的なレビュー)を知る。がん検診には利益と不利益があり、それらを整理し科学的に考えることによって理解を深める。不利益を最小限に抑えながら利益を最大化する。利益である死亡率減少効果を科学的に検証することの重要性を本書「乳がんを科学する」は系統的に分かりやすく説く。

 マンモグラフィ検診の歴史を知ることで乳がん検診への理解を深め、さらには最新の高濃度乳房とブレスト・アウェアネス、遺伝学的解析の意義も知ることができる。異色の書ではあるが、時機を得た良書といえる。

評者 大内 憲明(東北大学名誉教授)
臨床放射線Vol. 69 No. 3 2024より