JASCCがん支持医療ガイドシリーズ がん薬物療法に伴う末梢神経障害診療ガイドライン 2023年版 第2版

実臨床で役立つ!CIPNの予防・治療に関するCQと推奨を掲載

編 集 日本がんサポーティブケア学会
定 価 2,420円
(2,200円+税)
発行日 2023/06/20
ISBN 978-4-307-20471-2

B5判・96頁・図数:2枚

在庫状況 あり

化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は頻度の高い有害事象であるが、ASCOのガイドラインのみでは日本国内での実臨床に十分対応できない。そこでわが国の実情にあうようにCIPNの予防・治療について、薬物療法と非薬物療法でCQと推奨を掲載した。そのほか、薬剤によるCIPN症状の違い、評価、臨床における諸問題などについても解説した実臨床に役立つガイドライン。
第1章 本ガイドラインについて
1. 本ガイドライン作成の目的
2. 既存ガイドラインと本ガイドラインの関係
3. 本ガイドラインがカバーする範囲
4. アウトカムの重要性について
5. 文献検索
6. 文献の適格基準
7. エビデンスの確実性の決定
8. 推奨度
9. 作成手順
10. 利益相反開示事項
11. 本ガイドラインの評価

■ 診断、治療アルゴリズム

第2章 総論
A. CIPNの頻度
B. CIPNの症候学的分類
C. 病理組織学的分類と症状
D. CIPNと神経障害性疼痛の関係
E. CIPNのリスク因子
F. 鑑別診断に用いられる検査項目
G. 各薬剤によるCIPNの症状
1. 白金製剤
 1)シスプラチン
 2)オキサリプラチン
 3)カルボプラチン
2. タキサン系製剤
 1)パクリタキセル
 2)ドセタキセル
3. ビンカアルカロイド系製剤
 1)ビンクリスチン
 2)ビンブラスチン、ビノレルビン
4. 免疫チェックポイント阻害薬
H. CIPNの評価
1. CIPN評価の概要
2. 定量的評価
 1)感覚機能評価
 2)運動機能評価
 3)電気生理学検査
3. 医療者による評価
4. 患者報告による評価
5. 複合評価指標
6. 結語
I. CIPN以外の神経に関係する障害
1. がん薬物療法に伴う中枢神経障害
 1)可逆性後頭葉白質脳症
 2)急性脳症(遅延型脳症を含む)
 3)中毒性白質脳症
 4)脊髄症および無菌性髄膜炎
 5)脳血管系合併症
 6)認知障害
 7)せん妄
2. 感覚器障害(聴覚、視覚、嗅覚など)
 1)がん薬物療法による聴覚障害
 2)がん薬物療法による視覚障害
 3)がん薬物療法による嗅覚障害
J. 臨床における諸問題
1. CIPN における被疑薬の減量あるいは中止について
2. デュロキセチン
3. 化学療法誘発性急性神経障害について
 1)オキサリプラチン
 2)タキサン系製剤
4. CIPNにおける看護
 1)CIPN症状のアセスメントと早期対応
 2)セルフケア教育と行動介入
 3)コントロール感覚を支援する
5. CIPN における理学的手法
 1)末梢神経の抗がん薬曝露量低減によるCIPNの予防
 2)神経障害性疼痛と筋・筋膜性疼痛の緩和
 3)CIPN により障害された感覚運動機能のリハビリテーション
 4)感覚過敏や感覚鈍麻に配慮した環境整備による症状緩和と生活障害の軽減
 5)運動・行動介入による心身機能の向上
K. 米国臨床腫瘍学会および欧州臨床腫瘍学会-欧州腫瘍看護学会-欧州腫瘍神経学会CIPNガイドラインの紹介
1. ASCOガイドラインの要約
2. ESMO-EONS-EANOガイドラインの推奨の要約
L.「がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き2017年版」公表の効果の検証
M. ガイドライン普及と活用促進のための工夫

第3章 クリニカルクエスチョンと推奨
CQ1. CIPN症状(しびれ、疼痛)の予防として何が推奨できるか。
1. 薬物療法による予防
 1)牛車腎気丸
 2)プレガバリン
 3)カルニチン(アセチル-L-カルニチン)
2. 非薬物療法による予防
 1)冷却
 2)圧迫
 3)運動
 4)鍼灸
CQ2. CIPN症状(しびれ、疼痛)の治療として何が推奨できるか。
1. 薬物療法による治療
 1)デュロキセチン
 2)アミトリプチリン
 3)プレガバリン
 4)ミロガバリン
 5)ビタミンB12
 6)非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
 7)オピオイド
 8)薬物の併用療法
2. 非薬物療法による治療
 1)運動
 2)鍼灸
■ 平山泰生先生を偲んで 〜CIPNの未来を切り開いた男〜
■ 索引
がん治療の基本となる薬物療法は、生存期間、延命期間の改善が多くの患者に幸せをもたらす一方で、医療者は有害事象の発生は仕方がないことと諦めて治療をしている現状がある。多くの固形がんは薬物療法では治癒が目指せないことは明らかであり、薬物療法の適応を説明する際に有効性を強調して、有害反応を軽んじてきた傾向があったのではないかと反省している。我々は薬物療法を行なっている間、患者が骨髄抑制をはじめとする臓器障害、悪心・嘔吐を筆頭とする身体的な障害や精神・社会的なつらさといった有害事象に耐えているということを忘れてはならない。
 本ガイドラインが扱う化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy;CIPN)は、気持ち悪い異常感覚から日常生活に支障をきたし、重篤な状態では歩行、衣服の着脱ができなくなることもある。しかも、骨髄抑制のように休薬により速やかに回復する一過性のものは少なく、CIPNの多くが月あるいは年単位でしか改善せず、生涯何らかの障害が残ることが稀ではない。
 診察室で、患者が末梢神経症状を訴えても、有効な予防法、治療法がないと説明する治療医のむなしさは、何のためにがん治療をしているのか疑心暗鬼に陥る場面が多い。
 このような背景から2017年に発刊された『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き2017年版』(略称:CIPN手引き2017)は「エビデンスのある治療」、「有効性がはっきりしないもの」、どちらかといえば、「実施すべきではない治療」を記載した実地診療に役立つ手引き書として出版され、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)のWEBページに掲載された。
 さて、CIPN手引き2017は、故・平山泰生(東札幌病院)先生のご尽力で生まれ、平山先生が部会長として活躍されていたJASCCが支援して発刊された歴史がある。エビデンスの少ない領域であり、初版は手引き書として出版されたが、その後、部会の研究成果を基にMindsのガイドライン作成手法を取り入れて、今回ガイドライン初版として出版する運びとなった。平山先生のご逝去は、ご遺族もとより、多くの患者にも不幸な出来事ではあったが、その遺志を引き継ぎ、新たにJASCC神経障害部会の部会長となられた吉田陽一郎先生をはじめとする多くの部会員に平山先生の思いは脈々と受け継がれ、日本初のCIPNのガイドラインが誕生したと思っている。
 現在でもCIPNはエビデンスの少ない領域であり、執筆に多大の困難があったことが予想される。生きるためには我慢しなさいと患者に説明するのは医療者として誠につらい。その思いを共有する執筆者の多大な努力はもちろんであるが、作成にあたり部会内で事務的な仕事を引き受けていただいた華井明子先生、また査読、適切な評価をいただいた委員の方々、さらに手引き書からガイドライン発刊まで種々の的確な助言をいただいた金原出版の柴田龍之介氏に深謝し、本書の序としたい。

2023年5月
日本がんサポーティブケア学会
理事長 佐伯 俊昭