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遺伝性腫瘍症候群に関する多遺伝子パネル検査(MGPT)の手引き 2025年版
遺伝性腫瘍症候群診療に携わるすべての医療従事者必携の一冊!

編 集 | 日本遺伝性腫瘍学会 / 令和6年度厚労科研 がん対策推進総合研究事業 平沢班 |
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定 価 | 3,960円 (3,600円+税) |
発行日 | 2025/03/15 |
ISBN | 978-4-307-20489-7 |
B5判・256頁
在庫状況 | あり |
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多遺伝子パネル検査(MGPT)と遺伝性腫瘍症候群・関連遺伝子に関する情報や臨床上の扱いについて包括的にまとめた、初の指針。遺伝性腫瘍症候群の診療に関する基礎的な事項、MGPTを用いた診療・管理体制など、詳しく解説している。さらに臓器・遺伝子ごとのマネジメントに関する記載も充実。診療科を問わず、遺伝性腫瘍症候群の診断・治療に携わるすべての医療従事者にオススメの一冊。
本手引き作成にあたって
用語集
略語集
第1章 遺伝性腫瘍症候群の総論
総論1 遺伝性腫瘍症候群の概要
1.遺伝性腫瘍症候群の基礎的事項
2.遺伝性腫瘍症候群が疑われる際の遺伝学的検査
3.バリアントとその解釈
4.遺伝学的アセスメントから遺伝子情報に基づいたマネジメントまで
5.遺伝カウンセリング
総論2 遺伝性腫瘍症候群に対するMGPT
1.遺伝性腫瘍症候群に対するMGPTの概要
第2章 遺伝性腫瘍症候群の診断にかかる遺伝学的検査と診療体制
診療アルゴリズム
BQ1 どのようなクライエントが遺伝性腫瘍症候群の診断のためのMGPTの対象となるか?
BQ2 特定の遺伝性腫瘍症候群の遺伝学的検査はどのような対象者で検討するか?
BQ3 MGPTの特徴と臨床的有用性は?
BQ4 MGPTに関わる遺伝カウンセリングで留意すべきことは?
BQ5 バリアントの病原性解釈はどのように行うか?
BQ6 MGPT と腫瘍組織を用いた遺伝子検査の違いは?
BQ7 疾患発症リスクとの関連性についてのエビデンスが不十分な遺伝子にバリアントが認められた場合の対応は?
BQ8 遺伝性腫瘍症候群の遺伝学的検査にかかる精度管理で留意すべきことは?
BQ9 遺伝情報の取り扱いに関する注意事項は?
FQ1 全エクソーム解析(WES)・全ゲノム解析(WGS)とMGPTの違いは?
第3章 遺伝性腫瘍症候群の臓器別マネジメント
第3章の解説
1 脳・神経
2 下垂体
3 眼
4 甲状腺・副甲状腺
5 乳腺
6 肺
7 胃・十二指腸
8 膵臓
9 胆道
10 大腸
11 腎臓
12 副腎
13 上部尿路
14 前立腺
15 子宮頸部
16 子宮体部
17 卵巣・卵管・腹膜
18 皮膚
19 骨・軟部腫瘍
20 小児
第4章 遺伝性腫瘍症候群の原因遺伝子とマネジメント
第4章の解説
APC
ATM
AXIN2
BAP1
BARD1
BLM
BMPR1A
BRCA1
BRCA2
BRIP1
CDH1
CDK4
CDKN2A
CHEK2
DICER1
EPCAM
FH
FLCN
GALNT12
GREM1
HOXB13
MAX
MEN1
MET
MLH1
MSH2
MSH3
MSH6
MUTYH
NF1
NF2
NTHL1
PALB2
PMS2
POLD1
POLE
PTEN
RAD51C
RAD51D
RB1
RET
RNF43
RPS20
SDHA
SDHAF2
SDHB
SDHC
SDHD
SMAD4
STK11
TMEM127
TP53
TSC1
TSC2
VHL
WT1
第5章 資料
1 家族歴聴取と家系図記載法
1.家族歴聴取と家系図作成の意義
2.遺伝性腫瘍症候群における情報収集の留意点
3.家系図の作成方法
4.家系図管理と更新における留意点
2 ゲノムバリアントの記載法
1.ゲノム参照配列
2.参照配列の記号
3.バリアントの位置
4.バリアントの種類とその表記
3 ClinVarの使い方
4 遺伝性腫瘍症候群の診療に関わる専門資格と制度
1.遺伝性腫瘍専門医
2.臨床遺伝専門医
3.認定遺伝カウンセラー
4.遺伝看護専門看護師
5.遺伝性腫瘍コーディネーター
6.ジェネティックエキスパート
5 遺伝性腫瘍診断を目的とした多遺伝子パネル検査(MGPT)に関する説明書・同意書(モデル文書)について
6 各遺伝子の国内外のガイドラインへの掲載状況
おわりに
索引
用語集
略語集
第1章 遺伝性腫瘍症候群の総論
総論1 遺伝性腫瘍症候群の概要
1.遺伝性腫瘍症候群の基礎的事項
2.遺伝性腫瘍症候群が疑われる際の遺伝学的検査
3.バリアントとその解釈
4.遺伝学的アセスメントから遺伝子情報に基づいたマネジメントまで
5.遺伝カウンセリング
総論2 遺伝性腫瘍症候群に対するMGPT
1.遺伝性腫瘍症候群に対するMGPTの概要
第2章 遺伝性腫瘍症候群の診断にかかる遺伝学的検査と診療体制
診療アルゴリズム
BQ1 どのようなクライエントが遺伝性腫瘍症候群の診断のためのMGPTの対象となるか?
BQ2 特定の遺伝性腫瘍症候群の遺伝学的検査はどのような対象者で検討するか?
BQ3 MGPTの特徴と臨床的有用性は?
BQ4 MGPTに関わる遺伝カウンセリングで留意すべきことは?
BQ5 バリアントの病原性解釈はどのように行うか?
BQ6 MGPT と腫瘍組織を用いた遺伝子検査の違いは?
BQ7 疾患発症リスクとの関連性についてのエビデンスが不十分な遺伝子にバリアントが認められた場合の対応は?
BQ8 遺伝性腫瘍症候群の遺伝学的検査にかかる精度管理で留意すべきことは?
BQ9 遺伝情報の取り扱いに関する注意事項は?
FQ1 全エクソーム解析(WES)・全ゲノム解析(WGS)とMGPTの違いは?
第3章 遺伝性腫瘍症候群の臓器別マネジメント
第3章の解説
1 脳・神経
2 下垂体
3 眼
4 甲状腺・副甲状腺
5 乳腺
6 肺
7 胃・十二指腸
8 膵臓
9 胆道
10 大腸
11 腎臓
12 副腎
13 上部尿路
14 前立腺
15 子宮頸部
16 子宮体部
17 卵巣・卵管・腹膜
18 皮膚
19 骨・軟部腫瘍
20 小児
第4章 遺伝性腫瘍症候群の原因遺伝子とマネジメント
第4章の解説
APC
ATM
AXIN2
BAP1
BARD1
BLM
BMPR1A
BRCA1
BRCA2
BRIP1
CDH1
CDK4
CDKN2A
CHEK2
DICER1
EPCAM
FH
FLCN
GALNT12
GREM1
HOXB13
MAX
MEN1
MET
MLH1
MSH2
MSH3
MSH6
MUTYH
NF1
NF2
NTHL1
PALB2
PMS2
POLD1
POLE
PTEN
RAD51C
RAD51D
RB1
RET
RNF43
RPS20
SDHA
SDHAF2
SDHB
SDHC
SDHD
SMAD4
STK11
TMEM127
TP53
TSC1
TSC2
VHL
WT1
第5章 資料
1 家族歴聴取と家系図記載法
1.家族歴聴取と家系図作成の意義
2.遺伝性腫瘍症候群における情報収集の留意点
3.家系図の作成方法
4.家系図管理と更新における留意点
2 ゲノムバリアントの記載法
1.ゲノム参照配列
2.参照配列の記号
3.バリアントの位置
4.バリアントの種類とその表記
3 ClinVarの使い方
4 遺伝性腫瘍症候群の診療に関わる専門資格と制度
1.遺伝性腫瘍専門医
2.臨床遺伝専門医
3.認定遺伝カウンセラー
4.遺伝看護専門看護師
5.遺伝性腫瘍コーディネーター
6.ジェネティックエキスパート
5 遺伝性腫瘍診断を目的とした多遺伝子パネル検査(MGPT)に関する説明書・同意書(モデル文書)について
6 各遺伝子の国内外のガイドラインへの掲載状況
おわりに
索引
<発刊に寄せて>
「がんが遺伝する」という概念は、100年以上前から存在していましたが、いくつかの有名な遺伝性腫瘍症候群を除けば、今日に至るまで一般の医療者の認知度はきわめて低かったといっても過言ではありません。臨床遺伝学や遺伝子解析技術が飛躍的に進歩した1990 年代以降、遺伝性腫瘍症候群に関する認知度が世界的に高まる中、遺伝性乳癌卵巣癌に対するリスク低減手術が米国を中心に急速に普及し、わが国でも現在は保険診療として実施されています。さらに、2019年からわが国でも包括的がんゲノムプロファイリング検査が実装され、二次的所見(生殖細胞系列所見)への対応が急務となりました。
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会は設立以来30年間を通じ、遺伝性腫瘍症候群に関する基礎的研究・臨床研究を一貫して行ってまいりました。また、設立当初から多職種で遺伝性腫瘍症候群の患者さん・家族への対応を行う重要性を発信し続け、人材育成に関するさまざまな事業を展開して参りました。遺伝性腫瘍症候群のマネジメントは、(1)正確な診断、(2)適切な治療、(3)生涯にわたるサーベイランス、(4)血縁者への対応、の4 本柱から成り立っています。しかしながら、わが国では、遺伝性腫瘍症候群の診断(遺伝学的診断)そのものが、十分普及しておらず、実地臨床の場において遺伝性腫瘍症候群の患者さん(がん罹患の有無にかかわらず)に対する十分な医学管理が提供できていません。
海外では、遺伝性腫瘍症候群に対するリスク評価を通じて、その情報は個人の健康管理に活用されています。リスク評価の具体的な方法として、一度に数遺伝子から数十遺伝子を解析する多遺伝子パネルによる遺伝学的検査の有用性が広く認識されています。しかしながら、多遺伝子パネル検査に関するガイドラインや指針は今までほとんどありませんでした。日本遺伝性腫瘍学会では2023 年3 月に学術・教育委員会を中心に多遺伝子パネル検査に関わる診療指針(仮称)を作成することを決定しました。その後、厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業(平沢班)と共同で作成作業を開始しました。短期間ではありましたが、関係各位のご尽力により、予定通りの発刊となりました。特に、きわめて限られた期間に外部評価をご担当いただいた個人・関連学会の方々には深く御礼申し上げる次第です。
遺伝性腫瘍症候群やがんゲノム医療にかかわる医療者・研究者におかれましては、本書を常に手元に置いていただき、遺伝性腫瘍症候群に対する診療レベルの向上、ひいては遺伝性腫瘍症候群の患者さん(未発症者を含む)と血縁者の方々の健康管理・増進に貢献いただくことを願ってやみません。
令和7(2025)年3月
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
理事長 石田 秀行
<巻頭言>
本書は、遺伝性腫瘍症候群の診療における多遺伝子パネル検査(MGPT)の適切な活用を推進し、国民一人ひとりに最適な遺伝性腫瘍症候群診療を提供するための手引きになることを目指して作成しました。
近年の次世代シークエンサーの高速化と低価格化や、2013 年米国連邦最高裁判所のMyriad Genetics 社に対するBRCA1/2 遺伝子特許保護適格性否定の判決などを背景に、海外では、遺伝性腫瘍症候群診断のための遺伝学的検査は従来の家族歴や臨床所見に基づく1〜数遺伝子の検索から、多遺伝子パネル検査(multigene panel testing:MGPT)へと主流が移っています。わが国においても、2017年頃からMGPTが臨床検査として実地診療に導入され、着実に広がりをみせています。
これまで、遺伝性腫瘍症候群に関する指針としては、症候群全体を俯瞰したもの、あるいは特定の臓器に焦点を当てたものが国内外で発刊されてきました。しかし、低〜中感受性遺伝子を含めた遺伝性腫瘍症候群関連遺伝子のエビデンスを網羅的にまとめた指針は存在しませんでした。
日本遺伝性腫瘍学会学術・教育委員会は、遺伝性腫瘍症候群関連遺伝子に関する情報と臨床上の扱いを包括的に提示する方法を模索していました。MGPTに関する包括的な指針は海外でも未整備であり、日本での作成には困難が伴うとの声もありました。しかし、日本遺伝性腫瘍学会理事会は、遺伝性腫瘍症候群とMGPT に関する指針作成を決断しました。そして令和6年度から開始した厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業「ゲノム情報に応じたがん予防にかかる指針の策定と遺伝性腫瘍に関する医療・社会体制の整備および国民の理解と参画に関する研究」班の課題として、日本遺伝性腫瘍学会との共同編集により、本手引きの発刊に至りました。
手引き作成にあたっては、作成委員間で活発な議論が交わされましたが、それぞれのもつ多様な専門性を尊重し、真摯に議論を重ねることで、合意形成に至ることができました。多くの皆様の多大なるご尽力により、世界に先駆けて遺伝性腫瘍症候群に関する指針を策定できたことに深く感謝申し上げます。
わが国では、がんゲノム医療は「がん患者の腫瘍部および正常部のゲノム情報を用いて治療の最適化・予後予測・発症予防を行う医療(未発症者も対象とすることがある。またゲノム以外のマルチオミックス情報も含める)」と定義されています〔がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書〜国民参加型がんゲノム医療の構築に向けて〜(厚生労働省HP平成29年6月27日より)〕。令和元年6月にはがん遺伝子パネル検査が保険収載され、治療の最適化を目指すがんゲノム医療が本格的に開始しました。しかし、遺伝情報に基づいた発症予防が、未発症者も含めて実地診療に広く導入された時こそ、わが国のがんゲノム医療が真に開始したといえます。
本手引きは遺伝性腫瘍症候群をがん未発症者、既発症者に分けて考えることはしていません。遺伝性腫瘍症候群はがんを発症しやすいという遺伝的な特性であり、遺伝子バリアントに関連するがんはその表現型の一つである、そして遺伝性腫瘍症候群の診断は遺伝学的検査によってのみなされるという基本概念に基づいています。
遺伝情報は本人のものですが、本人だけのものではなく、血縁者で共有します。このことから、私は、遺伝性腫瘍症候群の診療は究極の家庭医療・地域医療であると考えています。本手引きを基盤として、今後、遺伝性腫瘍症候群の診療体制の強化、医療者の人材育成、国民との情報共有など、様々な取り組みを進めていく必要があります。そして、将来的には、腫瘍罹患のリスクを知りたいすべての人が、適切な医療を受けられる社会を実現したいと考えています。
本手引きが、遺伝性腫瘍症候群診療に関わるすべての医療従事者にとって、日々の診療に役立つ指針となることを願っています。そして将来的には、地域の健診事業や人間ドックにおけるMGPTの活用も含め、国民全体でがん予防を目指す社会を創造するための道しるべとなることを切に願っています。
令和7(2025)年3月
厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業
「ゲノム情報に応じたがん予防にかかる指針の策定と遺伝性腫瘍に関する医療・社会体制の整備および国民の理解と参画に関する研究」班
研究代表者 平沢 晃
「がんが遺伝する」という概念は、100年以上前から存在していましたが、いくつかの有名な遺伝性腫瘍症候群を除けば、今日に至るまで一般の医療者の認知度はきわめて低かったといっても過言ではありません。臨床遺伝学や遺伝子解析技術が飛躍的に進歩した1990 年代以降、遺伝性腫瘍症候群に関する認知度が世界的に高まる中、遺伝性乳癌卵巣癌に対するリスク低減手術が米国を中心に急速に普及し、わが国でも現在は保険診療として実施されています。さらに、2019年からわが国でも包括的がんゲノムプロファイリング検査が実装され、二次的所見(生殖細胞系列所見)への対応が急務となりました。
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会は設立以来30年間を通じ、遺伝性腫瘍症候群に関する基礎的研究・臨床研究を一貫して行ってまいりました。また、設立当初から多職種で遺伝性腫瘍症候群の患者さん・家族への対応を行う重要性を発信し続け、人材育成に関するさまざまな事業を展開して参りました。遺伝性腫瘍症候群のマネジメントは、(1)正確な診断、(2)適切な治療、(3)生涯にわたるサーベイランス、(4)血縁者への対応、の4 本柱から成り立っています。しかしながら、わが国では、遺伝性腫瘍症候群の診断(遺伝学的診断)そのものが、十分普及しておらず、実地臨床の場において遺伝性腫瘍症候群の患者さん(がん罹患の有無にかかわらず)に対する十分な医学管理が提供できていません。
海外では、遺伝性腫瘍症候群に対するリスク評価を通じて、その情報は個人の健康管理に活用されています。リスク評価の具体的な方法として、一度に数遺伝子から数十遺伝子を解析する多遺伝子パネルによる遺伝学的検査の有用性が広く認識されています。しかしながら、多遺伝子パネル検査に関するガイドラインや指針は今までほとんどありませんでした。日本遺伝性腫瘍学会では2023 年3 月に学術・教育委員会を中心に多遺伝子パネル検査に関わる診療指針(仮称)を作成することを決定しました。その後、厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業(平沢班)と共同で作成作業を開始しました。短期間ではありましたが、関係各位のご尽力により、予定通りの発刊となりました。特に、きわめて限られた期間に外部評価をご担当いただいた個人・関連学会の方々には深く御礼申し上げる次第です。
遺伝性腫瘍症候群やがんゲノム医療にかかわる医療者・研究者におかれましては、本書を常に手元に置いていただき、遺伝性腫瘍症候群に対する診療レベルの向上、ひいては遺伝性腫瘍症候群の患者さん(未発症者を含む)と血縁者の方々の健康管理・増進に貢献いただくことを願ってやみません。
令和7(2025)年3月
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
理事長 石田 秀行
<巻頭言>
本書は、遺伝性腫瘍症候群の診療における多遺伝子パネル検査(MGPT)の適切な活用を推進し、国民一人ひとりに最適な遺伝性腫瘍症候群診療を提供するための手引きになることを目指して作成しました。
近年の次世代シークエンサーの高速化と低価格化や、2013 年米国連邦最高裁判所のMyriad Genetics 社に対するBRCA1/2 遺伝子特許保護適格性否定の判決などを背景に、海外では、遺伝性腫瘍症候群診断のための遺伝学的検査は従来の家族歴や臨床所見に基づく1〜数遺伝子の検索から、多遺伝子パネル検査(multigene panel testing:MGPT)へと主流が移っています。わが国においても、2017年頃からMGPTが臨床検査として実地診療に導入され、着実に広がりをみせています。
これまで、遺伝性腫瘍症候群に関する指針としては、症候群全体を俯瞰したもの、あるいは特定の臓器に焦点を当てたものが国内外で発刊されてきました。しかし、低〜中感受性遺伝子を含めた遺伝性腫瘍症候群関連遺伝子のエビデンスを網羅的にまとめた指針は存在しませんでした。
日本遺伝性腫瘍学会学術・教育委員会は、遺伝性腫瘍症候群関連遺伝子に関する情報と臨床上の扱いを包括的に提示する方法を模索していました。MGPTに関する包括的な指針は海外でも未整備であり、日本での作成には困難が伴うとの声もありました。しかし、日本遺伝性腫瘍学会理事会は、遺伝性腫瘍症候群とMGPT に関する指針作成を決断しました。そして令和6年度から開始した厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業「ゲノム情報に応じたがん予防にかかる指針の策定と遺伝性腫瘍に関する医療・社会体制の整備および国民の理解と参画に関する研究」班の課題として、日本遺伝性腫瘍学会との共同編集により、本手引きの発刊に至りました。
手引き作成にあたっては、作成委員間で活発な議論が交わされましたが、それぞれのもつ多様な専門性を尊重し、真摯に議論を重ねることで、合意形成に至ることができました。多くの皆様の多大なるご尽力により、世界に先駆けて遺伝性腫瘍症候群に関する指針を策定できたことに深く感謝申し上げます。
わが国では、がんゲノム医療は「がん患者の腫瘍部および正常部のゲノム情報を用いて治療の最適化・予後予測・発症予防を行う医療(未発症者も対象とすることがある。またゲノム以外のマルチオミックス情報も含める)」と定義されています〔がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書〜国民参加型がんゲノム医療の構築に向けて〜(厚生労働省HP平成29年6月27日より)〕。令和元年6月にはがん遺伝子パネル検査が保険収載され、治療の最適化を目指すがんゲノム医療が本格的に開始しました。しかし、遺伝情報に基づいた発症予防が、未発症者も含めて実地診療に広く導入された時こそ、わが国のがんゲノム医療が真に開始したといえます。
本手引きは遺伝性腫瘍症候群をがん未発症者、既発症者に分けて考えることはしていません。遺伝性腫瘍症候群はがんを発症しやすいという遺伝的な特性であり、遺伝子バリアントに関連するがんはその表現型の一つである、そして遺伝性腫瘍症候群の診断は遺伝学的検査によってのみなされるという基本概念に基づいています。
遺伝情報は本人のものですが、本人だけのものではなく、血縁者で共有します。このことから、私は、遺伝性腫瘍症候群の診療は究極の家庭医療・地域医療であると考えています。本手引きを基盤として、今後、遺伝性腫瘍症候群の診療体制の強化、医療者の人材育成、国民との情報共有など、様々な取り組みを進めていく必要があります。そして、将来的には、腫瘍罹患のリスクを知りたいすべての人が、適切な医療を受けられる社会を実現したいと考えています。
本手引きが、遺伝性腫瘍症候群診療に関わるすべての医療従事者にとって、日々の診療に役立つ指針となることを願っています。そして将来的には、地域の健診事業や人間ドックにおけるMGPTの活用も含め、国民全体でがん予防を目指す社会を創造するための道しるべとなることを切に願っています。
令和7(2025)年3月
厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業
「ゲノム情報に応じたがん予防にかかる指針の策定と遺伝性腫瘍に関する医療・社会体制の整備および国民の理解と参画に関する研究」班
研究代表者 平沢 晃
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