新版 橈骨遠位端骨折 進歩と治療法の選択 The Cutting Edge

進歩と治療法選択に特化。橈骨遠位端骨折治療の新スタンダード

編 集 森谷 浩治 / 依田 拓也
定 価 12,100円
(11,000円+税)
発行日 2023/03/20
ISBN 978-4-307-25166-2

B5判・328頁・図数:246枚

在庫状況 あり

前版刊行から十余年の間に様々な新知見、治療機材の進歩と革新、さらには診療ガイドラインの発刊があった。これらを踏まえ、前版のエッセンスを引き継ぎつつ新たに企画・人選し、装いも新たとした。進歩と治療法の選択に特化し、保存療法・手術療法はもとより小児・変形治癒・骨粗鬆症例への対応、リハビリテーション、合併症対策、治療成績評価等内容は多岐にわたる。橈骨遠位端骨折治療の新スタンダード、手外科専門医座右の書。
1章 近年の橈骨遠位端骨折治療のトピックス
 1.近年の変遷
     ・大変な労力で策定された診療ガイドライン
     ・存在感が希薄になっている保存療法
     ・発展していく手術療法
     ・難治性骨折への注目
     ・健康寿命の鍵となる橈骨遠位端骨折と骨粗鬆症
 2.疫学
     ・発生率
     ・受傷背景
     ・危険因子と関連事項
     ・治療傾向
 3.橈骨遠位端部の解剖学的特徴
     ・解剖学的特徴
     ・X線学的指標としての掌側傾斜
     ・手関節の生体力学
 4.画像診断
     ・単純X線像
     ・CT(computed tomography)
     ・X線透視像
     ・超音波断層像
     ・MRI(magnetic resonance imaging)
 5.骨折形態
     ・Colles骨折
     ・Smith骨折
     ・Barton骨折
     ・Hutchinson骨折
     ・その他
 6.基礎研究
  A.有限要素法による受傷機転の解析
     ・有限要素解析
     ・静解析と動解析
     ・動解析モデル
     ・転倒角度と骨折様式
     ・関節面が受ける応力分布
     ・年齢による影響
     ・Smith骨折実証試験
  B.ロッキングプレート・システム
     ・プレートの種類
     ・スクリューの本数,挿入位置
     ・2列目のロッキングスクリューは必要か?
     ・プレートの設置位置
     ・掌側皮質骨の整復

2章 近年の橈骨遠位端骨折に対する治療法
 1.治療法の選択
     ・骨折形態
     ・患者背景
 2.成人の治療法の適応
     ・診断方法
     ・治療法の選択
 3.小児の治療法の適応
     ・小児骨折の特徴と治療原則
     ・小児骨折に対する徒手整復の要点
     ・小児骨折の分類
 4.成人に対する保存療法
  A.手関節中間位〜掌屈位固定
     ・保存療法一般
     ・筆者らが行っている整復・外固定法
  B.手関節背屈位固定
     ・手関節背屈位固定の考え方
     ・手関節背屈位固定の実際
 5.成人に対する観血的治療法
  A.経皮的鋼線固定
     ・経皮的鋼線固定の利点と欠点
     ・適応症例
     ・解剖
     ・手技
  B.創外固定
     ・創外固定の現状
     ・適応
     ・装着手技
     ・合併症
     ・ガイドラインを踏まえた今後の展望
  C.掌側ロッキングプレート
   1)標準的掌側ロッキングプレート固定
    a.単軸型
     ・手術適応
     ・術前計画
     ・標準的掌側ロッキングプレート固定の実際
     ・後療法の実際
     ・抜釘
    b.多軸型
     ・橈骨遠位端骨折における多軸型プレートの特徴
     ・手術手技
     ・症例
    c.関節鏡併用
     ・適応
     ・セッティング
     ・関節鏡併用掌側ロッキングプレート固定
     ・鏡視下整復で用いるテクニック
     ・考察
     ・ポイント&ピットフォール
   2)難治性骨折に対する掌側ロッキングプレート固定
    a.単軸型
     ・治療に関係する基本事項
     ・新鮮掌側rim骨折に対する単軸型掌側ロッキングプレート固定の実際
     ・術後に生じた手根骨掌側(亜)脱臼に対する単軸型掌側ロッキングプレート再固定の実際
    b.多軸型
     ・単軸型ロッキングプレートと多軸型ロッキングプレート
     ・難治性骨折
     ・画像評価と内固定材料選択
     ・プレート設置位置とスクリュー挿入方向
     ・麻酔法
     ・手術手技
     ・後療法
     ・術後経過観察と抜釘
    c.掌側ロッキングプレート単独で対応困難な症例または背側プレート併用
     ・橈骨遠位端骨折の読影ポイント
     ・難治性骨折の手術療法
     ・難治性骨折の術後後療法
     ・掌側ロッキングプレート単独固定が困難な難治性骨折
   3)特殊型に対する掌側ロッキングプレート固定
    a.Smith骨折
     ・受傷機転
     ・掌側ロッキングプレート固定後の手根骨掌側亜脱臼
     ・Proximal first fixation(PFF)法とdistal first fixation(DFF)法
     ・実際の手術手技
    b.掌側Barton骨折
     ・定義
     ・診断
     ・治療
    c.AO/OTA分類C3.3型骨折
     ・特徴
     ・初期治療
     ・最終的治療
     ・後療法
     ・治療上の注意事項
   4)掌側ロッキングプレート固定時における合併損傷への対応
    a.開放骨折
     ・成人における橈骨遠位端開放骨折の現状
     ・一般的な処置
     ・開放骨折に対する治療の実際
     ・代表症例
    b.軟部組織
     ・『橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017』での見解
     ・対象
     ・SL靱帯損傷
     ・TFCC損傷
    c.尺骨遠位骨折
     ・橈骨遠位端骨折に合併するDRUJ不安定性の診断
     ・橈骨遠位端骨折に合併する尺骨茎状突起骨折
     ・橈骨遠位端骨折に合併する尺骨遠位端骨折
    d.手根骨骨折
     ・疫学
     ・画像診断
     ・発生メカニズム
     ・治療
  D.髄内釘
     ・特徴
     ・手術適応
     ・手術方法
     ・後療法
     ・掌側ロッキングプレートとの比較
     ・問題点とその対策
 6.小児に対する治療
     ・骨折の種類別の治療法
     ・変形治癒後の自家矯正
     ・骨端線早期閉鎖の治療

3章 橈骨遠位端骨折のリハビリテーション
 1.保存療法例
     ・保存療法例のハンドセラピィのエビデンス
     ・情報収集および評価
     ・リハビリテーション
 2.手術療法例
     ・掌側ロッキングプレート固定後のリハビリテーションのエビデンス
     ・術後の運動開始時期
     ・術後外固定期間におけるリハビリテーション
     ・訓練前期(外固定除去後)におけるリハビリテーション
     ・訓練後期におけるリハビリテーション

4章 治療中に発生する合併症とその対策
     ・文献検索方法と抽出論文の合併症発生率
     ・保存療法と手術療法の比較論文における合併症発生頻度
     ・手術療法における合併症発生頻度
     ・手術方法の違いによる発生しやすい合併症の違い
     ・合併症発生に対する対策

5章 変形治癒例に対する治療
 1.楔開き骨切り術
     ・成人における橈骨遠位端骨折変形治癒の治療の現状
     ・適応
     ・楔開き骨切り術の実際
     ・治療成績
     ・本術式のまとめと注意点
 2.楔閉じ骨切り術
     ・楔閉じ骨切り術の現状
     ・手術適応
     ・術前計画
     ・手術手技
     ・後療法
     ・治療成績
 3.小児例
     ・保存療法
     ・橈骨遠位端骨折後変形
     ・橈骨遠位骨端線早期閉鎖

6章 治療成績評価法
     ・治療成績評価法
     ・治療成績評価法の現状

7章 橈骨遠位端骨折治療後の骨粗鬆症に対する治療
     ・脆弱性骨折後の骨粗鬆症診断
     ・橈骨遠位端骨折の疫学
     ・橈骨遠位端骨折治療後の骨粗鬆症治療
     ・橈骨遠位端骨折手術後の骨粗鬆症治療の現状
     ・骨折リエゾンサービス

索引
<緒言>
 手関節の脱臼と誤認されていた橈骨遠位端骨折が、1773年 C. Pouteauによって橈骨遠位端の骨折であると認識されてから250年が経つ。A. Collesの論文(1814年)によって本骨折の概念がほぼ確立されたが、その論文中にあった「かなりの時間が経つと、変形は生涯残るものの、関節はほぼ完全に自由に動くようになり、痛みもなくなる」という一文は、その後200年間近くも整形外科医のこの骨折に対する楽観的な考えを形成する元となった。私も56年前に整形外科医になって間もない頃に、先輩からこの教えを聞いたことがある。
 CTや3D-CTなどX線撮影機器の進歩によって、橈骨遠位端骨折にはColles骨折と呼ばれてきた背側転位型だけでなく、関節内骨折や関節縁の骨折を含む多様な骨折型があり、それぞれの型にあった治療法の個別化が必要なことがわかってきた。一方、この骨折は最も頻度が高く、整形外科医なら誰でも遭遇し、治療しなければならない。そのため、本骨折の診断・治療の知識や技術の普遍化も必要である。
 森谷氏と私の共同編集で、2010年に金原出版から出版した『橈骨遠位端骨折─進歩と治療法の選択』は、当時治療現場でこの骨折と真剣に向き合い、Colles骨折治療の古い考え方から脱却しつつあった医師たちの後押しとなったと思っている。
 それから13年が経過した。この間に、日本整形外科学会・日本手外科学会が作成した「橈骨遠位端骨折診療ガイドライン」(2012年第1版、2017年第2版)が出版された。本書の主編集者である森谷氏は、このガイドラインと本書の整合性を重視され、その中で重視されている治療法を本書の項目として取り上げ、彼が信頼する全国の経験豊かな専門家の方々にその執筆を依頼しておられる。これは優れた見識であり、本書を安心・信頼して読めるものにしている。
 13年前、当時の治療法の主役に躍り出た掌側ロッキングプレートによる内固定は、標準的手術法として広く行われるようになった。その後、種々の骨折型に適合するように、形状やロッキング機構、材質に改良が加えられてきている。それまでの主流であった徒手整復・ギプス固定という保存的治療は「どのような症例や骨折型に適応となるのか」という適応選択の問題になってきている。前版では、2次性骨折予防のための骨粗鬆症治療に関しては十分なページを割けなかった。本書では、この重要な項目にも十分なページが割かれている。13年前の『橈骨遠位端骨折』の内容を指針にして治療現場で頑張ってこられた医師達にとって、本書の新しい内容が、治療法を更に発展させるのに役立つことを願っている。
 恩師田島達也先生から頂いた重要な課題を、橈骨遠位端骨折の診療に情熱を燃やし続けておられる森谷浩治氏に引き継ぐことができ、安堵している。

2023年2月
聖隷浜松病院 元整形外科部長、前手の外科・マイクロサージャリセンター長
斎藤 英彦


<編集にあたって>
 恩師斎藤英彦先生からご指導をいただく機会を得たのは1999年10月に遡ります。その年の7月には同じ新潟大学整形外科学教室の偉大な先輩から「手の外科」の指導を受けることが決まり、まずは斎藤先生がお書きになった『橈骨遠位端骨折─解剖学的特徴と分類、治療法(整・災外 1989;32:237-248.)』を医局の蔵書から複写して読んだ日のことを忘れません。11ページの論文なのですが、橈骨遠位端部の詳細な解剖から始まり、CollesやSmith、Bartonといった冠名骨折の解説、分類法が網羅されており、特に秀逸であったのは自身が作られた斎藤分類と治療指針が直結していたことです。論文を読んだというよりは、まるで一冊の本に触れた感じがしたことを今でも覚えています。この斎藤先生の橈骨遠位端骨折に対するエッセンスから、『橈骨遠位端骨折─進歩と治療法の選択』は全ての手外科医が広く、深く、そして楽しく橈骨遠位端骨折を理解できる一冊として生まれました。
 発刊以後、斎藤先生がその中の「編集にあたって」で記載されておられた改訂はいつも心中にとどまっておりましたが、あまりにも前版が完成型であるが故に着手できずに10年以上が過ぎてしまいました。その間に「橈骨遠位端骨折診療ガイドライン」が出版および改訂され、また診療と基礎研究の共生、治療機材の進歩・革新、新たな難治性骨折の登場、骨折後骨粗鬆症治療の介入問題など、様々な事柄も起こりました。これら新たな知見・問題を取り入れながらも、前版における斎藤先生のエッセンスを引き継ぐことを命題として、橈骨遠位端骨折の最近の進歩と治療法の選択に関する新版の企画を2021年6月に立ち上げました。
 それから1年8ヵ月経て、新版をほぼ完成させることができるにあたって何よりも、日夜ご多用な中をご執筆くださり、数度にわたる校正にも快くご協力いただいた23名の先生方ならびに本書の作成で大変お世話になった金原出版山下眞人氏に、共同編者の依田拓也先生とともに厚く御礼申し上げます。恩師斎藤英彦先生には『橈骨遠位端骨折─進歩と治療法の選択』へ携わる機会を与えていただき、あらためて心より感謝申し上げます。
 前版と新版は両輪です。この二冊が今後の橈骨遠位端骨折診療の一助となるならば、編者らの喜びはこれに優るものはありません。

2023年2月
編者 森谷 浩治


<編集にあたって>
 まずは本書の編集にあたり、非常にご多用な中で執筆ならびに校正にご協力をいただきました先生方に深く御礼申し上げます。また本書の編集に携わることを快くご許可いただきました斎藤英彦先生、森谷浩治先生にも重ねて感謝申し上げます。
 編者が手外科医を志して新潟手の外科研究所で研修をさせていただいたときに、森谷先生に橈骨遠位端骨折を含む手外科全般にわたってご指導いただきました。その後に地域中核病院に移り、橈骨遠位端骨折と骨粗鬆症との関連について調べ始めたことが本書に携わらせていただくきっかけになったものと思います。幸運にもアメリカ手外科学会で発表する機会に恵まれ、森谷先生と訪米させていただいたことは良い思い出の1つです。
 本書の前版である『橈骨遠位端骨折─進歩と治療法の選択』が2010年に刊行されたとき、橈骨遠位端骨折の歴史的変遷から各種治療法まで様々な情報が網羅された書籍に感動を覚え、編者の治療指針として常日頃より参照して参りました。それから13年の歳月が経過した現在においても、橈骨遠位端骨折をめぐる話題は尽きるどころか更に増しています。特に掌側ロッキングプレートの発展は目覚ましく、形状やロッキング機構などそれぞれの症例に応じて使い分けることが可能となっています。また難治性骨折に対する注目も高まっており、掌側月状骨窩骨片を有する骨折に対する治療は現在のトピックの1つとなっています。
 橈骨遠位端骨折に対する治療は日々発展を続けており、治療にあたる先生方は最新の情報を得ていく必要があります。しかし多くの情報が溢れる現在、必要な情報を取捨選択することは大変でもあります。それぞれの分野の第一線で活躍されておられる先生方に執筆していただいた本書は、治療者にとって適切な治療を選択する一助となるであろうことを心から期待しております。

2023年2月
編者 依田 拓也