診療で役立つ! 近視進行予防のサイエンス
忙しい外来で近視の診療や進行予防指導を行う際に役立つ虎の巻
編 集 |
坪田 一男 |
定 価 |
9,350円 (8,500円+税) |
発行日 |
2019/04/20 |
ISBN |
978-4-307-35171-3 |
B5判・192頁・カラー図数:109枚
近視は世界規模で増加傾向となっている一方、進行を止めることは出来ないといわれていました。しかし、近年世界中で研究が進み、さまざまな方法で近視の進行抑制が試みられ、一定の成果が得られるようになってきました。そこで今回、近視の疫学や進行に関する基礎知識、進行予防方法や外来での指導法、重症例に対する手術療法の紹介まで、近視に関する最新かつ有用な情報をわかりやすく網羅した虎の巻として、本書を企画しました。
はじめに:近視進行予防がサイエンスに!
編集・執筆者一覧
第1章
近視進行予防のベーシックサイエンス
1.近視の疫学
1)国内の研究を中心に
2)世界
2.屋外環境光による近視の抑制の流れ
1)疫学研究
2)介入研究
3.Violet光のサイエンス
第2章
近視進行予防の実際
1.低濃度アトロピン点眼による近視進行抑制
2.オルソケラトロジーによる近視進行抑制
3.軸外収差低減眼鏡による近視抑制の理論と実際
4.多焦点眼鏡の理論と近視抑制
5.軸外収差低減CL、多焦点CLによる近視抑制
6.LASIKは近視進行を抑制するのか?
第3章
外来で役立つ近視の知識
1.近視に関する遺伝子
2.近視発生、進行の基礎概念
3.病的近視の検査、診断、分類、予防と治療
4.近視のマウスモデル研究とこれまでの動物モデル研究
5.近視とサーカディアンリズム
6.外来での近視進行抑制指導のポイントと実際
7.これからの近視抑制研究の方向性
8.近視外来の進め方
付録 近視の定義・診断基準
おわりに:近視進行予防は時代のニーズ
索引
はじめに
近視進行予防がサイエンスに!
世界中で近視が激増している。既にアジアの多数の地区においては、高校卒業から大学在学時において80-90%が近視に罹患しているとする報告が相次いでいる。日本においても都内の中学校において既に90%を超えると報告されており、感染症の蔓延とでもいうような急激な罹患率の上昇となっている。近視は従来、成人になると止まるものと理解されていたが、近視による視覚障害は日本では第4位、中国では第2位を占めるという報告があり、成人後も眼軸長の伸長が止まらず視覚障害に至る例が増えていることが問題になっている。最近の我々の疫学研究でも、視覚障害に至る可能性の高い強度近視の割合が東京の中学校1校において10%以上にものぼることが示され、対策が急務となっている。
以前は、近視の発症・進行の要因として、遺伝要因が大きく、それに加えて環境も影響するであろうと考えられていたが、過去60年間の急激な増加は遺伝では説明がつかず、環境要因、そして生活習慣の影響が大きいと考えられるようになってきた。近視進行の環境要因、生活習慣要因には、屋外活動の減少、近見作業の増大、塾などの教育圧力の増加、体内リズムのかく乱などなどが考えられている。
このような状況の中、従来は近視の増大への対策は困難であったが、環境要因や生活習慣要因がわかってきたことから「進行予防」が大きく注目されるようになってきた。実際に屋外滞在時間を増やすことによる近視進行抑制のエビデンスがアジアを中心に出はじめており、シンガポールなどでは国をあげて学童の屋外活動時間を増やす指導を行っている。屋外環境がなぜ近視進行の抑制になるのかはまだ議論のあるところではあるが、屋外のほうが屋内と比べて格段に明るいという仮説や、特定の波長であるバイオレットライトが豊富に存在することが指摘され、研究が急速に進みつつある。
また生活習慣とは別に、低濃度アトロピン点眼や、オルソケラトロジー、軸外収差メガネ、コンタクトレンズなどの新しい予防法のエビデンスが提示されつつあり、実際に近視予防への取り組みが始まってきている。いまだに日本においても欧米においても認可され確立した近視の予防法はないものの、各クリニックや個人レベルで予防医療がスタートしているのが現状だ。近視の予防については従来まで視力回復センターなどの医療以外のサービスの提供は存在したが、眼科専門医が真剣に行うレベルのものがなかったのが実情だ。ところが今、その時代が変わろうとしている。
本教科書は“近視進行予防のサイエンス”としてまさにこれから変わろうとする近視予防医療の現状を、その基礎、サイエンスから実際的なプラクティスまでカバーするように構成された本である。近視は眼軸長が物理的に伸びることからさまざまな合併症を起こしやすいことはよく知られているが、その発症メカニズムについては不明なことも多い。しかし、現実は待ってくれない。社会のニーズも高い。本教科書はこのような状況において眼科専門医が近視の予防について今知っておくべきすべてを網羅した本ということができる。ぜひ日常の診療に生かしていただければ幸いである。
COI開示
坪田一男、根岸一乃、栗原俊英、鳥居秀成はバイオレットライトによる近視抑制関連の特許を申請している。また坪田一男、栗原俊英、鳥居秀成は大学発ベンチャーである(株)坪田ラボにおいて近視進行抑制プロジェクトにかかわっている。
慶應義塾大学医学部眼科学教室
坪田 一男