ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)の診療の手引き
見過ごすと危険な中耳炎「OMAAV」診療の指針、国内初登場!
編 集 |
日本耳科学会 |
定 価 |
3,080円 (2,800円+税) |
発行日 |
2016/10/10 |
ISBN |
978-4-307-37117-9 |
B5判・112頁・図数:12枚・カラー図数:33枚
ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)に対する、標準的な診療の指針を示した書籍です。OMAAVは進行すると合併症によって死に至ることもある、予後不良な疾患です。また、OMAAVには全身性のANCA関連血管炎による耳病変が含まれるため、耳鼻咽喉科のみならず、膠原病内科、腎臓内科などでも必須の知識となります。治療のためには、適切な診断と早期の治療開始が欠かせません。本書は適切なOMAAV診療のための、日本初の手引き書です。
巻頭カラー付図
1.ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)の鼓膜所見
2.ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)の病理組織所見
略語一覧
第1章 序論
第2章 診断と治療
I 疾患概念
1.ANCA関連血管炎
2.ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)
II 診断
1.診断基準
2.検査
3.ANCA
4.鼓膜所見、画像所見
5.病理組織所見
6.合併症、続発症
7.診断的治療
8.鑑別すべき疾患
III 治療
1.寛解導入療法
2.寛解維持療法
3.再燃時の治療法
4.補助療法、支持療法
第3章 OMAAV全国調査
I 概要
1.要約
2.調査方法
3.結果
II 調査結果
1.鼓膜所見
2.初発臓器
3.ANCA型
4.聴力予後
5.顔面神経麻痺、肥厚性硬膜炎
6.治療法
7.生命予後
8.OMAAVと耳病変を伴わないGPAの比較
第4章 今後の展開
[付]国内外の報告
1.和文誌の報告
2.英文誌の報告
日常診療において、通常の中耳炎治療に反応しない難治性で、かつ、これまでの中耳炎の概念からかけ離れ、診断できない症例に遭遇することがあります。一方、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎は、小・細動脈の壊死性血管炎と血中にANCAが検出されることを特徴とする全身性血管炎症候群で、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(旧称Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称Chung-Strauss症候群)が含まれます。Wegener肉芽腫症に難治性中耳炎が合併することはよく知られていましたが、最近になって、ANCA関連血管炎が原因とされるが、これら3疾患の診断基準に当てはまらない難治性中耳炎が数多く報告され、注目されてきました。このような経緯から、2012年の第22回日本耳科学会総会・学術講演会(村上信五会長)において、シンポジウム「ANCA関連難治性中耳炎─診断治療におけるピットフォールとジレンマの解消─」が企画され、その討論の結果からANCA関連血管炎性中耳炎(otitismedia with ANCA-associated vasculitis:OMAAV)という疾患概念が提唱されました。
その後、日本耳科学会の事業の一つとして「ANCA関連血管炎性中耳炎全国調査ワーキンググループ(OMAAV-WG)」が組織され、2013年12月から2014年1月に全国の耳鼻咽喉科医育機関などを対象とした全国調査が行われました。297例が集積され、その解析結果から、OMAAVの臨床像が明らかになってきました。その特徴は、聾まで進行する難聴、顔面神経麻痺、全身型への移行、肥厚性硬膜炎などの頭蓋内合併症への進展、あるいはクモ膜下出血による死亡など、重大な続発症や合併症が生じる症例が稀ならずみられることです。したがって、OMAAVを耳鼻咽喉科のみならず血管炎を扱う膠原病内科、腎臓内科などにも広く周知させる必要性が生じました。
このような背景から、OMAAV-WGが中心となって「ANCA関連血管炎性中耳炎の診療の手引き」が作成されました。その内容は、今回行ったOMAAV全国調査の結果と、これまでの全身型ANCA関連血管炎の報告を参考にしたOMAAVの疾患概念、病態、診断法、診断基準、治療法、国内外の報告、そして今後の展開から構成されています。OMAAVは新しい疾患概念であるため、エビデンスレベルの収集、評価、推奨度の決定は行っていませんが、現時点におけるOMAAV診療に関する標準的な診療指針が示されています。まさにわが国発の新しい疾患概念の提唱に基づいた診療の手引きであり、今後、国際的にも広く認知されることを切に期待したいと思います。
本診療の手引きは高橋晴雄担当理事、東野哲也担当理事、村上信五アドバイザー(前担当理事)、飯野ゆき子アドバイザー(前担当理事)、原渕保明委員長、吉田尚弘委員を中心とするOMAAV-WGが膨大な時間を費やした努力の結晶ですが、発刊に際しましては日本耳鼻咽喉科学会理事会および学術委員会にも監修をしていただきました。改めまして御礼を申し上げます。
最後に、OMAAV-WGに参加された委員の皆様の熱意と努力に対して、日本耳科学会を代表して深甚なる敬意と謝意を表するとともに、本診療の手引きによってOMAAVに関する知識が広く認識され、本疾患の診療に携わるすべての医師の診断と治療に役立つことを祈っています。
2016年10月
一般社団法人 日本耳科学会理事長
小川 郁