小児人工内耳前後の療育ガイドライン 2021年版
難聴児療育の最適なロードマップを示すガイドライン
編 集 |
高度・重度難聴幼小児療育ガイドライン作成委員会 |
定 価 |
3,300円 (3,000円+税) |
発行日 |
2021/09/30 |
ISBN |
978-4-307-37133-9 |
B5判・156頁・図数:6枚
新生児聴覚スクリーニングで早期に難聴が診断されても、その後適切な療育が行われず、言語獲得に支障をきたす事例が出現しています。本書は、そのような事態を防ぎ、適切な療育が行われるように、難聴児の療育の最適なロードマップを確立することを目標として作成されました。診断、療育、人工内耳、難聴の原因疾患に関する15項目のCQによって、エビデンスに基づいた推奨を提示し、11項目の解説事項で療育の実際を詳説します。
CQ・推奨一覧
第1章 作成の経緯と概要
1. 要約
2. 作成者
3. 資金提供者・スポンサー・利益相反
4. 前書き
1)ヒトの聴覚の発達と、音声言語習得の臨界期について
2)我が国のCI データベースから導かれた問題点
3)我が国の難聴児の音声言語療育の問題点
4)GL 作成の経緯
5. 作成目的ならびに目標
6. 利用者
7. 対象
8. エビデンスの収集
9. 推奨および推奨度の決定基準
1)エビデンスの質
2)推奨の強さ
10. エビデンスの評価
11. リリース前のレビュー
12. 患者の希望
13. 療育関係の用語解説
1)コミュニケーション手段
2)音声言語習得のための療育方法
3)その他の療育に関する用語
4)難聴の程度分類
第2章 クリニカルクエスチョン(CQ)
I. 新生児聴覚スクリーニング
CQ I-1 新生児聴覚スクリーニングに用いる最適の機器は何か
CQ I-2 難聴確定診断のための適切な精密聴力検査法は何か
II. 先天性サイトメガロウイルス感染症
CQ II-1 新生児聴覚スクリーニングでの難聴疑い例にいつどのように検査すべきか
CQ II-2 最適の治療時期はいつか、またいつまで可能か
III. 難聴診断後の療育
CQ III-1 人工内耳適応決定の適切な時期はいつか
CQ III-2 精神運動発達障害(自閉症スペクトラムを含む)合併例に人工内耳は有効か
CQ III-3 適切な療育開始時期はいつか
CQ III-4 音声言語獲得に手話併用の優位性はあるか
CQ III-5 聴覚活用療育法が音声言語発達に有効でない難聴児の判別は療育開始前に可能か
IV. 人工内耳植込後の療育
CQ IV-1 聴覚活用療育法と視覚を活用する療育方法(視覚活用療育法)とどちらが音声言語獲得により有効か
CQ IV-2 療育の形態は進学先となる学校種の決定に直接的な影響を及ぼすか
CQ IV-3 音楽療法は人工内耳装用児の音声言語獲得に有効か
CQ IV-4 保護者のかかわりは人工内耳装用児の言語・認知発達に影響するか
V. 先天性高度難聴青年の療育
CQ V-1 先天性高度難聴青年に対して人工内耳は有効か
CQ V-2 先天性高度難聴青年に対して人工内耳が有効となる指導(ハビリテーション)方法は
第3章 解説
I. 新生児聴覚スクリーニング
解説I-1 難聴児への早期介入の重要性と我が国の現状
II. 難聴診断後の療育
解説II-1 補聴器装用の開始時期と種類
解説II-2 Auditory neuropathy の療育での注意点(人工内耳手術適応も含めて)
解説II-3 難聴児の療育のために発達検査は必要か、必要な発達検査は何か
III. 人工内耳植込後の療育
解説III-1 早期植込例のMapping の手法と留意点
解説III-2 早期植込例の介入に必要な要素
解説III-3 重複障害を合併する人工内耳装用児の療育の注意点
解説III-4 遺伝子変異を伴う難聴例の診断・治療・療育での注意点
解説III-5 先天性サイトメガロウイルス感染症による難聴例での療育の注意点
解説III-6 髄膜炎による難聴例の療育での注意点
解説III-7 高音急墜型感音難聴例の診断・治療・療育での注意点
検索式一覧
索引
難聴児、特に高度・重度難聴を持つ幼少児の療育は診断、治療とともに非常に難しい分野で、医学の他に多くの専門職の協力のもとに進められる必要がありますが、我が国ではその重要性は認知されてはいるものの、難聴児にとって適切に実践されている現状とはいえない部分があります。その原因は多岐にわたりますが、診断や療育の対象が幼小児であることの難しさや、その結果でもありますがその領域の専門知識、専門家が少ないこと、さらには指導やマンパワーを含めた行政の支援も十分でないことなどが考えられます。そのため、現在多くの新生児が受けている新生児聴覚スクリーニング(新スク)で早期に難聴が診断されても、残念ながらその後長く適切な療育、介入が行われず、十分な言語獲得に支障をきたすような事例が出現しています。
この度、前書き(p.6)に記載したような経緯で、平成31年度の厚生労働省科学研究費補助金「聴覚障害児に対する人工内耳植込術施行前後の効果的な療育手法の開発等に資する研究」が採択されました。その期待される成果の一つに難聴児の療育に関するガイドライン(GL)を作成することが挙げられており、これによりエビデンスに基づいたデータを集積して、難聴児の療育の最適なロードマップを確立することが本科研費研究の最終的な目標です。
本科研研究では、2019年4月から全国の難聴児医療、療育の専門家[医師(耳鼻咽喉科、小児科、産婦人科)、言語聴覚士、助産師、聾学校教員、厚生労働省、長崎県福祉保健部関係者など]71名に研究分担者、協力者としてご参集いただき、医学を中心に様々な立場の知見を取り入れながら研究に取り組むことができ、その結果、このGL には15のクリニカルクエスチョンと11の解説を盛り込むことができました。内容も新スク、難聴診断後の療育、人工内耳(CI)植込後の療育、先天性高度難聴青年の療育、先天性サイトメガロウィルス、遺伝子変異、髄膜炎など種々の病因による難聴の療育に関してエビデンスに基づいた推奨を提示しております。本書が現在あるいは今後難聴児の療育に携わるすべての専門職の方々の、文字通り診療・療育のGL となることを祈念してやみません。
本GLは作成委員会のすべての構成メンバーの約2 年にわたる多大なご協力なしでは到底完成し得なかったもので、この場をお借りして深甚の謝意を表したいと思います。
2021年9月
研究代表者 高橋 晴雄