IRCADに学ぶLSCテクニック(手術DVD付) 骨盤臓器脱・腹腔鏡下メッシュ手術の新スタンダード

日本初の腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)の教科書! DVD付き。

編 著 竹山 政美 / 野村 昌良
定 価 16,500円
(15,000円+税)
発行日 2016/01/30
ISBN 978-4-307-43058-6

B5判・160頁・図数:5枚・カラー図数:246枚

在庫状況 あり

経験豊富な執筆陣による日本初の腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)の教科書。本書はDeLancey のLevelIのみの修復を目的とするアメリカ式でなく、LevelIIの修復も行うフランス(IRCAD)式をより精緻に改良した「日本式」LSC術式を目指した。高度な技術を取得できるよう、術式のフローや機器の解説にとどまらず、基礎となる膜構造の理解と、膜を意識した剥離法の習得も丁寧に解説。術式のDVDを収録。
1 IRCADについて

2-1 LSCの歴史
2-2 LSCのコンセプト

3 LSCに必要な解剖

4 筆者らが使用している道具と術前準備

5 手術の流れ─子宮亜全摘を伴う術式に即して

6-1 術式の実際─子宮温存付属器温存術式
6-2 術式の実際─腟断端脱に対する術式
6-3 術式の実際─直腸脱合併
6-4 術式の実際─TVM術後の子宮脱

7-1 日本式LSCの初期成績
7-2 LSCと下部尿路症状(LUTS)

8 亀田総合病院ウロギネコロジーセンターでの研修プログラム
LSC事始め
 2012年の秋、当時、静岡済生会総合病院泌尿器科部長だった安倍弘和医師から、「腹腔鏡下仙骨腟固定術(Laparoscopic sacral colpopexy:LSC)という手術をしているので一度見て欲しい」と相談を受けた。さっそく静岡を訪れ、彼のLSC を見せていただいた。まだ10例そこそこの症例数ということであったが、膣式手術を追求していた私にとっては新鮮な驚きがあり、そこに骨盤臓器脱治療の新しい選択肢を見た手術であった。
 現 亀田総合病院ウロギネコロジ−センタ−長、野村昌良先生と私とで立ち上げた「プロリフト型TVM研究会」というライブセミナ−が毎年11月に場所を変えて開催されていたが、その年はちょうど安倍医師が当番幹事であり、静岡開催の予定だった。
 「安倍先生、LSC術式のデモをやってみては!」という私の提案が通り、ライブセミナ−で幹事みずからデモ手術をすることになった。助手は岐阜日赤の三輪好生医師だったと記憶している。
 ライブセミナ−の会場には、当時、TVM手術の細部にこだわる真の意味でのエキスパ−トが集まっていた。安倍先生の鮮やかなLSC手技を目の当たりにして、野村昌良医師と成島雅博医師がさっそく安倍医師を招請し、亀田総合病院と名鉄病院にてそれぞれLSCを開始されたことから、そのデモ手術の衝撃の大きさがわかる。
 少し遅れて、私も2013年3月にLSCを開始し、2015年9月末までに122例のLSCを執刀した。術後3カ月、6カ月目の台上診において、再建された膣の自然さに驚いた私は、多くの患者にこのような自然な膣を取り戻してあげたいと思うようになった。
 私自身の経験については、最初の10症例は安倍医師の指導を仰ぎ、以後は自身で工夫しながら経験値を上げてきたつもりだが、その中でオクトパスの利用、直針による膀胱の吊り上げなど、成島医師ら本書執筆陣の工夫を取り入れ、情報交換に努めた。それによって、遠位側の剥離を外尿道口から約1.5cmの腟壁にまで行うなど、精緻で再発しない術式を目指してきた。そのための、膜を意識しての剥離と剥離層は、TVM手術に学ぶことができた。
 LSCには、DeLancey のLevelIのみの修復を目的とするいわゆるアメリカ式と、LevelIIの修復も行ういわゆるフランス式があるが、本書執筆陣の目指すのは、フランス式をより精緻に改良した「日本式」ともいえるLSC術式である。そのためには、膜構造の理解と膜を意識した剥離法の習得が基本となる。膜構造を含めた解剖は谷村悟先生の「3 LSCに必要な解剖」に詳しく、剥離に関しては各論で執筆者が動画とともに多くのヒントを提示している。
 本書のタイトル『IRCAD に学ぶ』のIRCAD は、フランスに設立された低侵襲手術のトレ−ニングセンタ−である。本書で述べた手技はすべて4ポ−トであり、基本的に左手にバイポ−ラ−、右手にモノポ−ラ−シザ−ズを持つ「IRCADスタイル」で執刀されていることから『IRCADに学ぶ』とした。IRCAD については野村医師の紹介文を参照していただければ幸いである。安倍医師、野村医師、三輪医師らは、IRCADのライブを含む教育コ−スにおけるA.Watties 教授の哲学、手技に大きな影響を受けたという。私も2015年10月12日〜14日にIRCAD の「New Insight in Prolapse Surgery:Vaginal and Laparoscopic Routes advanced course」を受講した。そこでは、LSCの基本が6points technique を用いたダブルメッシュによるtotal repairと教えられ、「後腟下垂のない症例には前壁メッシュだけではだめか」との私の問いには、「それはtotal repairではなくsite specific repair だ。どちらの立場に立つかの問題だ」と一蹴された。
 とにかく目から鱗の連続の3日間だった。2016年度のプログラムを巻末に載せたので、興味のある方は是非ご参加を! これからLSCを導入しようと考えている方には、この同じシステムを用いた術式のバリエ−ションを学んで、経験値を上げていただきたい。執筆陣の希望としては、中途半端な術式ではない精緻な日本式LSCを日本中どこでも受けられるようにしたいことに尽きる。本書がLSCの入門として、心ある術者の道標の一つになれば幸甚である。
 最後に、ご多忙の中、分担執筆していただいたエキスパ−トの先生方、腹腔鏡手術全般の指導をしていただいた第一東和会病院内視鏡外科の先生方、快くIRCADの研修に行かせていただいた第一東和会病院理事長、飯田稔先生に深謝いたします。

 2015年10月

                               第一東和会病院ウロギネコロジ−センタ−
                                             竹山 政美
『IRCADに学ぶLSCテクニック』
医学書院「臨床泌尿器科」掲載書評

東海大学医学部外科学系泌尿器科教授
寺地 敏郎

 TVMと比較して、LSCの最も大きな利点は見える手術であることと思う。術野の解剖が全て見える。自分が行っている手技が全て見える。適応を間違えず、自分の行いたい手技を遂行する十分な技術があれば、全てが見えることは外科医にとって何より安心である。そして、特記すべき本書の特徴は、LSCの手術のとき見えるもの全てを、見なければならないもの全てを見ることができる点である。活字とわずかな写真と図だけでは、読む人の想像力の豊かさによって見えてくるものが限られる。ビデオだけでは、見る人の能力の範囲でしかものは見えない。本書は必要十分な写真を網羅し、その写真の術野を作る助手の手技まで言及し、かつ手術のDVDも付いている。LSCをこれから始める人も、始めてみたが分かったつもりの角でつい立ち止まってしまう人もその都度、本書を手にされることをお勧めする。
 さあ、本書を手にとって開いてみよう。本書には筆者らの、フランス式ともアメリカ式とも異なる、より繊細で美しい“日本式”LSCを作り上げようとする熱い気持ちが詰まっている。
 第1章の筆者二人のIRCADの経験は、IRCADにすぐにも行きたい気持ちにさせるが、同時にトレーニングへのモチベーションを高めてくれる。第2章のLSCの歴史とコンセプトではLSCの適応について触れている。手術の成否の鍵の第一は適応を間違えないことであり、手術の基本のキである。
 第3章のタイトルは“LSCに必要な解剖”である。単なる局所解剖ではなく、それぞれの解剖学的構造がLSCのどのステップで、どの手技で絡んでくるか、何に注意すべきかを詳細に述べてある。写真だけでなく、要所要所のシェーマがキモを明確に示していて秀逸である。第4章の使用器具の選択にはそれぞれ筆者の選択理由も述べられている。自分の手技と器具を組み立てる参考になる。
 第5章ではLSCの基本となる“子宮亜全摘を伴う術式に即して”、LSCの流れを解説してある。ところどころに置かれた“!Point”は、陥りやすい過ちとその回避のコツを述べている。これ即ち、筆者が過去に落ちた罠であり、これから始める人達への心底のメッセージである。
 第6章は4つのパートからなり、難易度の高い、しかし避けて通れない手術である。まず、若年者に対する“子宮温存付属器温存術式”について、次に手術既往のある“膣断端脱に対する術式”について、続いてこれこそLSCの活躍の場といえる“直腸脱合併”例に対する術式が語られる。直腸脱合併症例はfresh caseと経肛門直腸脱手術の再発症例2例の3パターンについてそれぞれ解説してある。細部の処理に迷う時、ありがたいページである。4番目は“TVM術後の子宮脱”例に対する手術であるが、術式の選択については筆者らの並々ならぬ自信がうかがえる。また、この章にはColumn 1, 2として“LSCの安全装置?薄膜の理解”と“オクトパスとワンタッチ内視鏡固定器ロックアームの活用”がある。Column 1はLSCのみならず腹腔鏡手術の基本であり、Column 2は第2助手の代わりとなるばかりでなく、LSCに極めて有用な器具の紹介である。
 第7章には本書のエビデンスともいうべき筆者ら先達のLSCの初期成績が述べられている。LSC術後のLUTSについても、TVMとの比較成績が記載され、患者さんへのinformed consentを得る際の参考となる。
 最後の第8章に亀田総合病院ウロギネコロジーセンターでの研修プログラムがあり、これから始める人達のトレーニングによい指標となる。また、この章には腹腔鏡下の縫合結紮トレーニングについても簡単に記載がある。加えて、動画のDVDもある。筆者らのLSCに対する強い熱意がここにはある。利用しない手はない。
 最後に一言。これからLSCを始める人は、是非とも日本泌尿器内視鏡学会あるいは日本内視鏡外科学会が主催する、縫合結紮トレーニング一日コースを受講していただきたい。縫合結紮のコツもその後のトレーニングの方法も身につく。