脳卒中痙性麻痺のボツリヌス治療
フェノール神経ブロックを含めて
より安全に、より確実に! 痙縮治療のための注射方法、評価法、リハプログラムを解説
編 集 |
千野 直一 |
定 価 |
3,740円 (3,400円+税) |
発行日 |
2011/12/02 |
ISBN |
978-4-307-75028-8 |
A5判・180頁
2010年10月に上肢・下肢痙縮へのA型ボツリヌス毒素製剤の適用が追加承認され、痙性麻痺で苦しむ多くの患者にとって画期的な治療が始まっています。痙縮は、日常生活に支障を来たし、リハビリテーションの障害となることもあるので、ボツリヌス治療を効果的に組み合わせることで機能障害の改善が期待されます。本書では、電極針を使用して、より安全・確実に、上肢・下肢のターゲット筋に薬剤を注入する方法をわかりやすく解説しました。同時に注入前・注入後の評価とリハビリプログラムも紹介しています。
『はじめに』より
現在、わが国には約150万人の脳卒中患者がいます。しかも、超高齢社会の到来とともに、その患者数は今後ますます増加する傾向にあります。
脳卒中患者のなかには、後遺症として筋痙縮を伴う患者も数多く、日常生活動作(ADL)障害の直接的な原因となるばかりか、痙縮によってリハビリテーションに支障をきたす例も少なくありません。さらに、厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、脳卒中は介護が必要になる要因の第1位であり、家族や介護者の負担が大きいことも問題です。
そうしたなか、2010年10月に上肢・下肢痙縮へのボトックス製剤の適用が承認され、痙性麻痺に苦しむたくさんの患者にとって、一筋の光明が差しました。A型ボツリヌス毒素(BTX-A)の薬効により痙縮筋の緊張を緩和する「ボツリヌス治療」は、「脳卒中治療ガイドライン2009」でもグレードAにランクされる期待の治療法です。
私たちの病院でもさっそくこの治療に取り組み、歩行困難だった患者が自立歩行可能になるなど、劇的な改善例もみられました。また、患者の主観的評価(満足度)でも、多くの良好な結果を得ています。さらに、頭部外傷などで長期にわたって意識が混濁し、四肢痙縮のために介護に難渋している症例には、実地医家の主治医による、主たる痙縮筋へのボツリヌス治療が行われています。これにより介護量が軽減し、患者本人はもちろん、家族や介護者の大きな福音となっています。
しかし、ボツリヌス治療のみでは、3〜4カ月ほどで効果は失われます。機能回復を期待する患者に対しては、リハビリ治療計画を実施し、拮抗する筋に刺激を与え、継続的に痙縮を抑える流れを作ることが重要です。ボツリヌス治療とリハビリ治療は、いわば車の両輪なのです。
一方、ボツリヌス治療と同じ痙縮治療法として、フェノール神経ブロックという古典的な治療法があります。広範囲にわたる痙縮筋に対してのボツリヌス治療は、相当量の投与が必要となり、十分な効果が得られないこともあります。このような場合には痙縮治療法として、用量制限のあるボツリヌス治療と、フェノール神経ブロック治療とを適宜使い分けなければなりません。そこで本書にも、ボツリヌス治療とあわせフェノール神経ブロック治療の解説を加え、実際の治療に役立てていただけるよう配慮しました。
1章 脳卒中患者のリハビリテーション
1.脳卒中患者の動向
2.脳卒中患者の診断と評価
3.リハビリ治療の流れ
4.リハビリ医療関連職と在宅医療
5.上肢下肢痙縮とリハビリ医療
2章 ボツリヌス治療の実際
1.痙縮治療法の種類
2.筋弛緩とボツリヌス
3.注入準備と非活性化
4.BTX-A製剤注入の実際
5.上肢痙縮に対するBTX-A製剤投与
6.下肢に対するBTX-A製剤投与
7.実地医家によるボツリヌス治療
3章 フェノール神経ブロック
1.フェノール神経ブロックとは
2.下腿三頭筋のフェノール神経ブロック
3.股関節内転筋群のフェノール神経ブロック−閉鎖神経ブロックの注意点
4章 新しい物理医学療法
1.IVESとは
2.TMSとは
5章 リハビリチームによるボツリヌス治療前評価
1.治療前評価の重要性
2.チームアセスメント
3.評価総論
4.上肢評価
5.下肢評価
6章 ボツリヌス注入後評価とリハビリプログラム
1.注入治療直後
2.リハビリテーションプログラム
3.治療後評価
7章 症例紹介
1.上肢痙性麻痺症例「手関節背屈の随意運動が可能になった」
2.下肢痙性麻痺症例「足趾の痛みが軽減し、歩きやすくなった」
3.四肢痙性麻痺症例「手指衛生ケアの介護負担が軽減された」
付録:医療相談
図解:筋線維中央帯MAP
索引
コラム一覧
1 脳卒中分類と診断基準について
2 神経筋接合部(神経終板)の検索
3 注射液は確実に筋膜内へ
4 針の先は目である
5 フェノール神経ブロックの病理像
6 5%フェノール水溶液の作製方法