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臨床放射線
血管炎症候群のすべて
血管炎症候群のすべて
序:放射線科の立場から
立石 宇貴秀
序:内科の立場から
磯部 光章
1 総論
血管炎の歴史・疾患概念・分類
針谷 正祥
血管炎の病理
石津 明洋
血管炎の画像診断の進歩と今後の展望
立石 宇貴秀
血管炎研究の進歩:病態・免疫抑制治療
佐田 憲映
2 大型血管炎
高安動脈炎(大動脈炎症候群)
病因・病態
前嶋 康浩
疫学・症状・診断基準
内田 治仁
画像診断:US・CT・MRI
木村 浩一朗
画像診断:PET
手塚 大介
画像診断:血管造影・IVR
岸野 充浩
治療・予後
吉藤 元
巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)
疫学・病態・症状・診断基準
長谷川 均
画像診断:CT・MRI・US・IVR
横山 幸太
画像診断:PET
土屋 純一
治療・予後
杉原 毅彦
3 中型血管炎
川崎病
疫学・病態・症状・診断基準
深澤 隆治
画像診断:エコー
小野 博
画像診断:MRI
鈴木 淳子
画像診断:冠動脈造影
七里 守
治療・予後
鈴木 啓之
結節性多発動脈炎
舟久保 ゆう
4 小型血管炎・ANCA関連血管炎
小型血管炎に伴う肺病変の画像診断
ANCA関連血管炎
黒崎 敦子
ANCA関連血管炎以外の小型血管炎
立石 宇貴秀
顕微鏡的多発血管炎
松原 秀史
多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)
土橋 浩章
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Churg-Strauss症候群)
天野 宏一
抗糸球体基底膜抗体病
臼井 丈一
IgA血管炎(Henoch-Shonlein紫斑病)
吉崎 歩
クリオグロブリン血症性血管炎
岡崎 貴裕
5 多様な血管を首座とする血管炎
悪性関節リウマチ
安部 能之
べーチェット病
岳野 光洋
IgG4関連疾患
疫学・病態・症状・診断基準・治療・予後
伊澤 淳
画像診断
高橋 正明
序 放射線科の立場から
立石 宇貴秀 東京医科歯科大学 放射線診断科
2018年3月に日本循環器学会と厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班を主体とする合同研究班により血管炎症候群の診療ガイドライン改訂版が刊行された。画像診断に特に関係する大型・中型血管炎には、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、結節性多発動脈炎、川崎病の4疾患が挙げられており、より早期にそしてより正確な診断が求められている。
高安動脈炎では、18F-FDG PET が保険診療で行えるようになったため、治療前のルーチン検査に組み込まれている。治療前では、誘導された活性化免疫細胞、マクロファージ、顆粒球、線維芽細胞で嫌気性解糖が亢進しているため病変部に集積が認められる。病理学的には、血管増生、細胞浸潤、線維芽細胞の増殖により構成される幼弱な肉芽組織に18F-FDGが集積する。また、18F-FDG集積の程度は高安動脈炎の臨床的活動度とも相関することが知られている1)。高安動脈炎の評価に18F-FDGが有用であったとする報告は多数存在し、急性増悪時の治療効果判定や治療計画に有用な情報となることが期待されている。高安動脈炎の活動性評価に糖代謝の程度を一つの指標として加えることで、より多次元での評価が可能になるものと思われる。巨細胞性動脈炎でも18F-FDG PETの有用性は多数報告されており、巨細胞性動脈炎患者の80%に血管の異常集積が検出され、診断能は高い2)3)。巨細胞性動脈炎では侵襲度の高い側頭動脈の生検が診断目的で行われるため、18F-FDG PETは側頭動脈以外の大血管から中血管の広範囲な炎症の評価に有用である。高安動脈炎の治療では、トシリズマブを組み合わせた治療が展開され、標準治療も変わった。炎症の活動性、組織の代謝障害や線維化・瘢痕化と再燃を画像で評価する際の明確な基準も研究されている。
血管炎症候群への一般画像検査として、これまで超音波、CT、MRI、血管造影、PETが用いられてきた。しかし、血管炎症候群の中には、これら画像検査では病変部の評価が難しい疾患が多数残されている。本誌では血管炎症候群の画像診断を含め、診断基準から治療の最新動向、予後について各エキスパートにご担当いただきわかりやすく解説した。
序 内科の立場から
磯部 光章 榊原記念病院院長/東京医科歯科大学名誉教授
血管炎症候群は広く動脈・静脈に炎症を起こし、全身臓器を巻き込むことの多い、主として自己免疫を基盤として発症する一群の疾患を包含する概念である。文献上の記載は1866年KussmaulとMaierによる結節性動脈周囲炎の報告が最初とされるが、江戸時代の1824年に発表された山本鹿洲による橘黄医談という書物に左右上肢の脈拍欠失をきたした高安動脈炎と考えられる45歳男性例の記載があり1)、血管炎そのものは古くから世界各地にみられる疾患であったと思われる。
近年の血管炎研究で大きな転機となったのは、1982 年のANCA(抗好中球細胞質抗体)の発見とWegener肉芽腫症などいくつかの血管炎との関連の研究である。その後Chapel Hillでの国際会議が数次にわたって開かれ、現在疾患分類の基礎となっているのは2012年に発表されたChapel Hill Consensus Conferenceでの分類である2)。いくつかの疾患が追加され、また長年なじんできた疾患の呼称も変更されてきた。この症候群では日本人研究者の貢献も大きく、1908年に眼科医の高安右人、1967年に小児科医の川崎富作がそれぞれ高安動脈炎、川崎病を発見し、報告した。日本人研究者の名前が国際的に病名として採用されている数少ない疾患である。IgG4関連疾患も最近我が国から報告された概念であり、多くの日本人研究者が血管炎の研究に大きな貢献をしてきた。
近年の診断、治療上の進歩は著しい。大型血管炎の診断に必須なのは画像診断である。高安動脈炎の診断は、かつては造影剤を使用して行う大動脈造影が行われた。DSAに置きかわったが、患者には大変に苦痛を強いる検査であり、また今にして思うと画像の判読は容易でなく、正確性に欠くところも多かったと思われる。もちろん血管の壁厚の評価も炎症の評価もできなかった。現在ではCT やエコー、MRIを用いて血管の形状評価、PETを用いて炎症の有無や広がりの評価ができるようになっている3)。小型血管炎やANCA関連血管炎の診断で主役となるのはバイオマーカーである。いまだに疾患に特異性の高いバイオマーカーは知られていない現状ではあるが、症状や経過に加えて諸種のバイオマーカーの利用により確度の高い診断ができるようになった。諸種の疾患の診断基準や診療ガイドライン4)が整備されてきたこともこれらの進歩に支えられている。
治療面での進歩も大きい。かつては多くの血管炎では、大量の副腎皮質ホルモン治療が中心であったが、様々な免疫抑制剤が開発され、副作用を避けつつ複数の薬剤が使用されるなど、経験の蓄積の中でより安全な免疫抑制を行い、副腎皮質ホルモンの使用量を抑制することが可能となった。さらに治療抵抗性の患者に使用できるようになったのが諸種の生物学的製剤である。薬剤の開発はなお続いており、今後もより特異性の高く、副作用の少ない製剤が開発され応用され、適応範囲も広がることが期待されている。
とはいえ、課題は多い。病態面ではいったん発症した後の免疫機構の解明は進んでいるが、そもそも個々の患者が血管炎を発症する真の原因についてはほぼ不明のままである。生じた血管障害に対する外科的あるいはカテーテルによる修復方法もなお模索中であり、多くの困窮する患者を救えない状況が続いている。診断・治療の中で新たな課題もみえてきた。大型血管炎に有効性の高いトシリズマブを使用していると、この疾患の病勢を知ることができる唯一のバイオマーカーであるCRPが役に立たなくなるという皮肉な現状も明らかになってきた5)。小口径の狭窄動脈に対するステント治療が高率で再狭窄を招来することもわかってきた。
画像やバイオマーカーによる診断が有用である一方、血管炎患者の診断には新たなピットホールがみられるようになった。比較的若い年代の女性に多いこの疾患であるが、疾患頻度は低く、また症状が非特異的であり、訴えは多岐にわたる。そのため診断医にとっては疾患を想起することが困難であることが多い。代表的とされる脈なしや血圧の左右差がみられる初診患者は5%に満たない。その中で造影CTやPET検査を行うための患者選択に必要なのは、丹念な病歴聴取と丁寧な身体診察である6)。残念ながら診断検査の進歩の一方で基本的な診療手技がおろそかにされる現実がある。診断機器の精度が向上したこの時代に必要なのは、新しい知識と論理的な診断推論、病歴聴取、身体診察といった基本的な診療技術である。診断法の進歩したこの時代にあってこそ、こういった診療の基本を磨いていくことが求められる。
本誌はこのように大きく変化しつつある血管炎診療の現在の最新知識をまとめたものである。内科医や画像診断医のみならず、血管外科医や基礎研究者にも益する内容であることを期待するとともに、本特集が関連諸氏の明日からの診療に役立つことを祈念する。
立石 宇貴秀 東京医科歯科大学 放射線診断科
2018年3月に日本循環器学会と厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班を主体とする合同研究班により血管炎症候群の診療ガイドライン改訂版が刊行された。画像診断に特に関係する大型・中型血管炎には、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、結節性多発動脈炎、川崎病の4疾患が挙げられており、より早期にそしてより正確な診断が求められている。
高安動脈炎では、18F-FDG PET が保険診療で行えるようになったため、治療前のルーチン検査に組み込まれている。治療前では、誘導された活性化免疫細胞、マクロファージ、顆粒球、線維芽細胞で嫌気性解糖が亢進しているため病変部に集積が認められる。病理学的には、血管増生、細胞浸潤、線維芽細胞の増殖により構成される幼弱な肉芽組織に18F-FDGが集積する。また、18F-FDG集積の程度は高安動脈炎の臨床的活動度とも相関することが知られている1)。高安動脈炎の評価に18F-FDGが有用であったとする報告は多数存在し、急性増悪時の治療効果判定や治療計画に有用な情報となることが期待されている。高安動脈炎の活動性評価に糖代謝の程度を一つの指標として加えることで、より多次元での評価が可能になるものと思われる。巨細胞性動脈炎でも18F-FDG PETの有用性は多数報告されており、巨細胞性動脈炎患者の80%に血管の異常集積が検出され、診断能は高い2)3)。巨細胞性動脈炎では侵襲度の高い側頭動脈の生検が診断目的で行われるため、18F-FDG PETは側頭動脈以外の大血管から中血管の広範囲な炎症の評価に有用である。高安動脈炎の治療では、トシリズマブを組み合わせた治療が展開され、標準治療も変わった。炎症の活動性、組織の代謝障害や線維化・瘢痕化と再燃を画像で評価する際の明確な基準も研究されている。
血管炎症候群への一般画像検査として、これまで超音波、CT、MRI、血管造影、PETが用いられてきた。しかし、血管炎症候群の中には、これら画像検査では病変部の評価が難しい疾患が多数残されている。本誌では血管炎症候群の画像診断を含め、診断基準から治療の最新動向、予後について各エキスパートにご担当いただきわかりやすく解説した。
序 内科の立場から
磯部 光章 榊原記念病院院長/東京医科歯科大学名誉教授
血管炎症候群は広く動脈・静脈に炎症を起こし、全身臓器を巻き込むことの多い、主として自己免疫を基盤として発症する一群の疾患を包含する概念である。文献上の記載は1866年KussmaulとMaierによる結節性動脈周囲炎の報告が最初とされるが、江戸時代の1824年に発表された山本鹿洲による橘黄医談という書物に左右上肢の脈拍欠失をきたした高安動脈炎と考えられる45歳男性例の記載があり1)、血管炎そのものは古くから世界各地にみられる疾患であったと思われる。
近年の血管炎研究で大きな転機となったのは、1982 年のANCA(抗好中球細胞質抗体)の発見とWegener肉芽腫症などいくつかの血管炎との関連の研究である。その後Chapel Hillでの国際会議が数次にわたって開かれ、現在疾患分類の基礎となっているのは2012年に発表されたChapel Hill Consensus Conferenceでの分類である2)。いくつかの疾患が追加され、また長年なじんできた疾患の呼称も変更されてきた。この症候群では日本人研究者の貢献も大きく、1908年に眼科医の高安右人、1967年に小児科医の川崎富作がそれぞれ高安動脈炎、川崎病を発見し、報告した。日本人研究者の名前が国際的に病名として採用されている数少ない疾患である。IgG4関連疾患も最近我が国から報告された概念であり、多くの日本人研究者が血管炎の研究に大きな貢献をしてきた。
近年の診断、治療上の進歩は著しい。大型血管炎の診断に必須なのは画像診断である。高安動脈炎の診断は、かつては造影剤を使用して行う大動脈造影が行われた。DSAに置きかわったが、患者には大変に苦痛を強いる検査であり、また今にして思うと画像の判読は容易でなく、正確性に欠くところも多かったと思われる。もちろん血管の壁厚の評価も炎症の評価もできなかった。現在ではCT やエコー、MRIを用いて血管の形状評価、PETを用いて炎症の有無や広がりの評価ができるようになっている3)。小型血管炎やANCA関連血管炎の診断で主役となるのはバイオマーカーである。いまだに疾患に特異性の高いバイオマーカーは知られていない現状ではあるが、症状や経過に加えて諸種のバイオマーカーの利用により確度の高い診断ができるようになった。諸種の疾患の診断基準や診療ガイドライン4)が整備されてきたこともこれらの進歩に支えられている。
治療面での進歩も大きい。かつては多くの血管炎では、大量の副腎皮質ホルモン治療が中心であったが、様々な免疫抑制剤が開発され、副作用を避けつつ複数の薬剤が使用されるなど、経験の蓄積の中でより安全な免疫抑制を行い、副腎皮質ホルモンの使用量を抑制することが可能となった。さらに治療抵抗性の患者に使用できるようになったのが諸種の生物学的製剤である。薬剤の開発はなお続いており、今後もより特異性の高く、副作用の少ない製剤が開発され応用され、適応範囲も広がることが期待されている。
とはいえ、課題は多い。病態面ではいったん発症した後の免疫機構の解明は進んでいるが、そもそも個々の患者が血管炎を発症する真の原因についてはほぼ不明のままである。生じた血管障害に対する外科的あるいはカテーテルによる修復方法もなお模索中であり、多くの困窮する患者を救えない状況が続いている。診断・治療の中で新たな課題もみえてきた。大型血管炎に有効性の高いトシリズマブを使用していると、この疾患の病勢を知ることができる唯一のバイオマーカーであるCRPが役に立たなくなるという皮肉な現状も明らかになってきた5)。小口径の狭窄動脈に対するステント治療が高率で再狭窄を招来することもわかってきた。
画像やバイオマーカーによる診断が有用である一方、血管炎患者の診断には新たなピットホールがみられるようになった。比較的若い年代の女性に多いこの疾患であるが、疾患頻度は低く、また症状が非特異的であり、訴えは多岐にわたる。そのため診断医にとっては疾患を想起することが困難であることが多い。代表的とされる脈なしや血圧の左右差がみられる初診患者は5%に満たない。その中で造影CTやPET検査を行うための患者選択に必要なのは、丹念な病歴聴取と丁寧な身体診察である6)。残念ながら診断検査の進歩の一方で基本的な診療手技がおろそかにされる現実がある。診断機器の精度が向上したこの時代に必要なのは、新しい知識と論理的な診断推論、病歴聴取、身体診察といった基本的な診療技術である。診断法の進歩したこの時代にあってこそ、こういった診療の基本を磨いていくことが求められる。
本誌はこのように大きく変化しつつある血管炎診療の現在の最新知識をまとめたものである。内科医や画像診断医のみならず、血管外科医や基礎研究者にも益する内容であることを期待するとともに、本特集が関連諸氏の明日からの診療に役立つことを祈念する。
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